
賃貸借契約も契約ですから、当事者間の合意や約定または法律で定められている場合でなければ終了しないのが原則です。
法律で定められている場合としては、賃貸借期間の満了による終了、賃貸人による解約申入れによる終了、賃貸借契約の解除による終了、目的物の滅失による終了、その他契約一般の終了事由による終了があります。
契約の拘束力
契約とは,当事者の一方による申込みの意思表示と他方による承諾の意思表示の合致によって成立する法律行為のことをいいます。契約が成立すれば,両当事者に対して法的な拘束力が発生します。
つまり,契約とは,法的拘束力を伴う当事者間での約束です。したがって,簡単に終了することはありませんし,簡単に終了させることもできなくなるのです。
賃貸借契約も同様です。賃貸借契約が終了するのは,法律で定められている場合に限られるのが原則です。
賃貸借期間の満了
賃貸借契約においては,期間を設定することが重要な要素とされています。期限の定めをあえてしないということも可能ですが,期間が設定されているのが通常でしょう。
期間の定めがある賃貸借契約については,この賃貸借契約の期間が満了すれば,賃貸借は終了することになります。
ただし、期間満了後に賃借人が使用収益を継続していたにもかかわらず、賃貸人が異議を唱えなかった場合には、従前の条件で賃貸借契約を更新したものと推定されます(黙示の更新)。
土地賃貸借契約(借地契約)の場合には,期間が満了しても,借地借家法により,土地上に建物があるときは,賃貸人が正当の事由のある異議を申し出ない限り,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされることになっています(借地借家法5条、6条)。
また,建物賃貸借契約(借家契約)の場合は,以下の場合に、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされるとされています。
- 期間が満了しても、当事者が期間満了の1年前から6か月前の間に更新拒絶をしなかったとき(賃貸人が更新拒絶するには,それについて正当の事由が必要となります。借地借家法26条1項、28条)
- 期間満了後も借家人が使用を継続したにもかかわらず賃貸人が異議を述べなかったとき(借地借家法26条2項)
なお,公正証書で更新をしない旨を定めた賃貸借契約(定期借家契約)を定めることもできますが,やはり期間満了の1年前から6か月前の間に賃貸人が更新拒絶をしなかった場合には,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法38条6項)。
解約の申入れ
民法 第617条
- 第1項 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
- 第1号 土地の賃貸借 一年
- 第2号 建物の賃貸借 三箇月
- 第3号 動産及び貸席の賃貸借 一日
- 第2項 収穫の季節がある土地の賃貸借については、その季節の後次の耕作に着手する前に、解約の申入れをしなければならない。
期間の定めのない賃貸借契約や期間満了後に賃借人が使用継続したにもかかわらず賃貸人が異議を述べなかったために黙示の更新がなされた賃貸借契約については,賃貸人が一定の期間を定めて解約の申入れをした場合,その期間満了時に賃貸借が終了することになります(民法617条1項)。
ただし,解約申入れによる終了についても,借地借家法による修正があります。
借地契約の場合,存続期間は最低30年とされています(借地借家法3条)。したがって,この期間を満了していなければ,解約申入れをしても賃貸借契約は終了しません。
また,借家契約の場合は,賃貸人からの解約申入れには正当の事由がなければならず,しかも,正当の事由があるときでも,解約申入れから6か月を経過しなければ賃貸借契約は終了しないとされています(借地借家法27条2項、26条2項)。
契約の解除(解約)
前記のとおり,賃貸借契約には法的拘束力がありますから,当事者の一方の意思のみで終了させることはできないのが原則です。したがって,契約の解約(解除)は,一定の場合にしかできないのです。
もちろん,両当事者が解約に合意していれば別です。これを合意解除といいます。または、約定によって解除事由が定められており、その解除事由が発生した場合にも解除が可能です(約定解除)。
この合意解除・約定解除以外の場合は,法律の要件を満たしていなければ解除はできません。
具体的にいえば,賃借人が賃貸人に無断で賃借物を転貸または賃借権譲渡した場合(民法612条2項),あるいは賃料の未払いなど契約の不履行がある場合(民法541条)です。
ただし,賃貸借契約は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約ですから,他の契約と異なり,債務不履行や約定違反があればすぐに解除できるわけではありません。
信頼関係を破壊するほどの債務不履行や約定違反がある場合にだけ契約を解約(解除)できると考えられています。この考え方のことを「信頼関係破壊の理論(法理)」と呼んでいます。
なお、合意解除の場合には、信頼関係破壊の理論は適用されません。賃貸人・賃借人の双方が契約の終了を望んでいることが明らかだからです。
目的物の滅失
民法 第616条の2
- 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
賃貸借契約はその契約の目的物を貸すという契約ですから,その契約の目的物が滅失すれば,契約は目的を失うため終了することになります(民法616条の2)。
不動産賃貸借契約の場合であれば,目的物たる不動産が倒壊してしまったり焼失してしまったようなときには,契約が終了します。
その他の賃貸借契約終了原因
その他,契約一般の終了事由がある場合にも,賃貸借契約は終了します。例えば,混同があった場合には契約が終了します。
なお,当事者の死亡は賃貸借契約の終了原因とされていませんから,賃貸人または賃借人が死亡した場合でも,当然には賃貸借契約が終了するわけではありません。賃貸人または賃借人の地位が相続されて、契約は継続します。