
民法は,私人間の権利義務に関する法律関係を規律しています。この私人間の法律関係において重要な位置を占めるものが「契約」です。ビジネスの場面だけでなく,日常生活においても重要な意味を持っています。
契約とは
私人間に債権債務関係を発生させる原因の最たるものは「契約」です。
契約とは,法的に言うと,一方当事者の申込みの意思表示に対し,他方当事者の承諾の意思表示によって成立する法律行為のことをいいます。
もっと簡単に言うと,当事者の一方が●●の内容の契約をしたいという申出をし,それに対して他方当事者がその申出を受け入れることを承諾すると,それは法的な約束となり,法的な拘束力が生ずるということです。
法的意味を持たない単なる約束であっても,約束をした当事者を倫理的に拘束することはありますが,その約束の拘束力をさらに法的意味を持つほどに高めたものが,この「契約」なのです。
契約というと,何か大きな取引をイメージされるかもしれませんが,小さな日常的な取引,たとえば,スーパーマーケットで食料品を買うというような行為でも,売買という契約に当たります。
したがって,大きな取引ばかりではなく,日常的な行為においても,実は契約が成立し,それによる拘束力が発生しているのです。
その意味でいうと,契約とは,一般的にいう「合意」に近いものと考えた方がよいでしょう。
契約の効果
契約が成立した場合,どのような法的効力を生ずるのかというと,端的にいえば,法的な拘束力が生ずることになります。要するに,契約で決めた事柄を順守しなければならないという拘束力が生ずるということです。
どのようなことを順守しなければならないのかというと,それは契約の内容によって異なります。基本的には,契約の当事者は,その契約の内容に従って,債権を取得しまたは債務を負うことになります。
債務者はその義務を履行しなければならないという責任を負担することになり,他方で債権者はその権利を行使することができるようになります。
この契約の拘束力は,単なる約束事ではなく,法的な拘束力を有する約束です。したがって,契約に違反すれば,債務不履行責任や契約不適合責任といった法的責任を追求されることになります。
また,法的拘束力があるということは,容易に契約関係を解消することはできないということでもあります。そのため,契約は,どちらかの当事者から一方的に解消することは,原則としてできません。
当事者間で契約を解消するという合意をするか,または,法律で定められた無効・取消し・解除などの要件を満たす場合しか契約を解消することはできないということです。
契約成立の基本的要件
民法 第522条
- 第1項 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
- 第2項 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
契約は,原則として,一方当事者からの申込みの意思表示と,他方当事者の承諾の意思表示が合致した場合に成立します(民法522条1項)。したがって,契約成立の原則的要件は,以下の3つということになります。
- 申込みの意思表示
- 承諾の意思表示
- 申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致すること
申込みと承諾の意思表示の合致というと大げさに聞こえますが,要は,両当事者がある内容の取り決めに合意するということです。
前記のスーパーでの買い物を例にとれば,店側が店内にAという商品を100円の値札を付けて陳列することによって,Aを100円で売りたいという「申込みの意思表示」をします。
そして,お客さんがそのA商品を買いたいと思い,それを手に取ってレジに持っていくことにより,店側の申込みの意思表示と合致するお客さんのAを100円で買うという「承諾の意思表示」がなされ,店側がお客さんにAを100円で売るという売買契約が成立することになるわけです。
この申込み・承諾の意思表示は,必ずしも書面によってしなければならないというわけではありません。
したがって,口頭によっても,申込みと承諾の意思表示をすることができ,それが合致すれば契約は成立するということです(民法522条2項)。
ただし、契約の種類によっては,申込みと承諾の意思表示の合致だけでは足りず,実際に契約目的物を引き渡すことが必要とされている場合があります(このような契約のことを「要物契約」といいます。)。
また、上記のような契約書面の作成など一定の要式を履践することが必要とされている場合などもあります(このような契約のことを「要式契約」といいます。)。
典型契約と非典型契約
契約には,「典型契約」と「非典型契約」という類型があります。
典型契約とは,民法に規定されている契約類型のことをいいます。民法では,以下の13種の典型契約を規定しています(なお,商法規定の契約も典型契約に含まれるという考え方もあります。)。
これ以外の種類の契約は,いずれも非典型契約ということになります。「無名契約」と呼ばれることもあります。
もっとも,非典型契約だからといって,典型契約に何らかの面で劣るということはありません。単に民法で規定されているのかそうでないのかという違いにすぎません。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂民法講義 債権各論上巻(民法講義V1)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である民法案内10(契約総論)やダットサン民法2(債権法
)などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
契約法(新版)
著者:中田裕康 出版:有斐閣
契約法の概説書です。債権法の改正にも対応しています。説明は分かりやすく、情報量も十分ですので、基本書として使えます。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
基本講義 債権各論I(契約法・事務管理・不当利得)第4版補訂版
著者:潮見佳男ほか 出版:新世社
債権各論全般に関する概説書。どちらかと言えば初学者向けなので、読みやすい。情報量が多いわけではないので、他でカバーする必要はあるかもしれません。
債権各論(第4版 )伊藤真試験対策講座4
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。