債権とは,特定の人に対して行為・給付を請求する権利のことをいい,これに対して,債務とは,特定の人に対して行為・給付をしなければならない義務のことをいいます。
この債権債務には,さまざまなものがありますが,最も代表的なものは金銭給付の債権債務です。
この金銭給付を目的とする債権・債務のことを「金銭債権」「金銭債務」といいますが,金銭の特殊性から,他の給付の債権債務とは異なる特則が設けられています。
金銭の特殊性
特定の人に対して何らかの行為や給付を請求する法的権利のことを「債権」といい,その反対に,特定の人に対して何らかの行為や給付をしなければならない法的義務のことを「債務」といいます。
この債権債務のうちでも最も代表的なものは,金銭の給付を請求する債権・金銭を給付しなければならない債務でしょう。
金銭の給付を請求する債権のことを「金銭債権」と呼び,また,金銭を給付しなければならない債務のことを「金銭債務」と呼んで,それ以外の債権債務とは区別して扱われています。
金銭を給付するというのは,要するにお金を支払うということです。お金を支払うということは,通貨で支払うということです。
その意味では,金銭債権・債務とは,紙幣やコインなどといった物・「動産」の引渡しを求める債権・債務ともいえます。
しかし,他の動産と異なり,金銭の場合には,古銭や小判などでない限り,その紙幣やコインなどという物自体に意味があるわけではありません。
その金銭がいくらなのか(何円なのか)という価値に意味があります。一定金額さえ支払われれば,それがどの貨幣で支払われようと(あるいは銀行振込であろうと)問題はないということです。
言ってみれば,金銭は価値そのものであるという特殊性があるのです。
そのため,金銭債権・債務については,他の動産等の給付を求める債権や給付をしなければならない債務とは,異なる特則が設けられています。
目的物の特定における特殊性
物の給付を求める債権を請求する(債務の履行を求める)場合,その債権債務の目的物の内容・形状などによって,その目的物を特定することが必要となります。
ところが,前記のとおり,金銭には,紙幣やコインという「物」自体には意味・個性がないという特殊性があります。どのような貨幣でもよいから,一定の金額さえ支払われればよいのです。
したがって,金銭債権債務の場合には,そもそも目的物の特定というものが必要となりません。「金●●円を支払え」というように目的物の特定なく請求することができるのです。
履行不能における特殊性
通常の物の給付を求める債権債務の場合には,履行不能に陥ることがあります。
特定物であれば,その物自体が滅失すれば履行不能となりますし,不特定物であっても,それが特定された後は履行不能となる場合があります。
ところが,金銭の場合には,前記のとおり目的物の特定ということ自体があり得ません。
加えて,貨幣という物自体が問題となるわけではなく,金銭価値自体が問題となることからすれば,金銭それ自体がこの世の中からなくなるということも考えられないでしょう。
したがって,金銭債権債務が履行不能になるということも観念できないのです。そのため,金銭債権債務については,履行不能は生じないと解されています。
たとえば,ある債務者において資金難となり,金銭債務を履行できない状態になったとしても,それは単に履行が遅れている(履行遅滞)というだけで,履行不能になったとは考えないということです。
遅延損害金における特則
ある債務が履行遅滞に陥った場合,その履行遅滞によって損害を生じたときには,債権者は債務者に対して,履行遅滞に基づく損害賠償請求をすることができます。
このことは,金銭債権・債務でも同様です。金銭債務の履行を遅滞した場合も損害賠償請求権が発生します。金銭債権債務における履行遅滞に基づく損害賠償金のことを「遅延損害金」といいます。
ただし,金銭債権債務の場合には,物の給付を請求する債権債務とは異なる特殊性があります。
遅延損害金の額
金銭債権債務における遅延損害金の額は,「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める」ものとされています(民法419条1項本文)。
法定利率は,年3パーセントの割合とされています(民法404条2項。ただし,令和2年4月1日より前に履行遅滞責任が発生していた場合は,年5パーセントの割合となります。)。
ただし,遅延損害金について法定利率と異なる利率の約定がある場合には,約定利率が適用されます(民法419条1項ただし書き)。
損害の証明が不要であること
物の給付を請求する債権債務の場合には,具体的にどのような損害が生じたのかを立証して請求しなければなりません。
しかし,金銭債権債務の場合,履行遅滞に基づく損害賠償については,債権者が損害を立証しなくてもよいとされています(民法419条2項)。
つまり,履行遅滞があれば,何ら損害を立証することなく遅延損害金を請求できるということです。
仮に金銭が遅滞せずに支払われていれば,債権者はその金銭を運用して利益を得ることができたはずです。したがって,支払いの遅延によって,債権者は,その運用利益分を失ったということになると考えられます。
そこで,金銭債権債務については損害の立証を不要とし,債権者の損害の立証負担を軽減しているのです。
不可抗力であっても抗弁とすることができないこと
物の給付を請求する債権債務の場合,履行を遅れてしまった原因が天変地異など不可抗力に基づくものであれば,履行遅滞責任は発生しません。
しかし,金銭債権債務の場合には,現金であれ振込であれ,金銭を支払えばよいだけです。不可抗力によって支払いができなくなるということは,通常想定できませんし,実際もほとんどありえないでしょう。
そこで,金銭債権債務の場合は,履行の遅れが不可抗力に基づくものであっても,これを抗弁とすることはできず,履行遅滞責任が発生するものとされています(民法419条3項)。
不可抗力に基づく場合でさえ履行遅滞責任を免れないということは,つまり,金銭債権債務の履行遅滞責任は,どのような抗弁も許されない絶対的な責任であるという意味です。
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