遺産分割協議とは,裁判外において相続人間で話し合って相続分等を取り決めるという手続です。遺産分割協議で遺産分割をすることを「協議分割」といいます。
遺産分割協議・協議分割とは
民法 第907条
第1項 共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
第2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
遺産(相続財産)について相続人間等で争いが生じてしまった場合には「遺産分割」の手続を行う必要があります。この遺産分割によって,どのように遺産を分けるのかを取り決めることになります。
遺産分割の具体的な手続としては,遺産分割の「協議」「調停」「審判」の3つがあります。
遺産分割協議とは,裁判外において相続人間で話し合って相続分等を取り決めるという手続です。他方,調停や審判は,家庭裁判所における裁判手続です。遺産分割協議で遺産分割をすることを「協議分割」といいます(民法907条1項)。
もっとも,遺産分割は財産的な争いという側面が強いとはいえ,根本は家族・親族間の問題です。
そのため,「法は家庭に入らず」の理念から,遺産分割を行う場合,まずは,当事者間での話し合い,すなわち,遺産分割協議を行うべきであると定められています。
協議をしてもなおまとまらない場合等にはじめて,裁判手続を利用できるのです。
遺産分割協議・協議分割の特徴
遺産分割協議・協議分割の手続には,以下のような特徴があります。
遺産分割の第一歩であること
前記のとおり,民法上,遺産分割には協議のほかに,裁判手続である調停や審判もありますが,まずは遺産分割協議から行う必要があります。協議を経ないまま裁判手続を利用することはできないのです(民法907条2項本文)。
具体的にいえば,遺産分割協議をしたものの話がまとまらなかった場合や,一部の相続人が参加しなかったために協議そのものができなかった場合でなければ,調停や審判手続は利用できないということです。
その意味で,遺産分割協議は,遺産分割のための必須の第一歩であるといえます。
裁判外手続であること
遺産分割協議は,前記のとおり,裁判外での手続です。調停や審判と異なり,裁判所を交えずに,相続人等だけで話し合いをして遺産分割を取り決める手続です。
裁判外での話し合いですから,話し合いのやり方などに法的な制限はありません。また,遺産分割の仕方についても,基本的に制限はないといってよいでしょう。最も自由度の高い手続であるといえます。
ただし,裁判外での手続ですから,強制力がありません。
したがって,遺産分割協議に参加をしたくないという相続人がいたとしても,出席を強制することができませんし,仮に協議で決まったことを守らない人がいた場合には,別途裁判をする必要があるということも生じる可能性はあります。
遺産分割協議・協議分割のメリット・デメリット
遺産分割協議・協議分割には,以下のようなメリット・デメリットがあります。
遺産分割協議・協議分割のメリット
遺産分割協議は,前記のとおり,裁判外での話し合いです。そのため,法的な制限が少ない自由度の高い手続です。
したがって,柔軟な解決が可能であるというメリットがあります。法定相続分にこだわらずに相続分を取り決めることもできますし,遺言があっても,それと異なる内容で遺産分割をするということも可能です。
また,裁判手続ではありませんから,複雑な手続も必要ありません。相続人等の間で話し合いをして決めればよいだけです(ただし,話がまとまった場合には,遺産分割協議書は作成しておくべきでしょう。)。
さらに,裁判手続ではないので,裁判費用など余分な費用がかかりません。相続人間で穏便に話し合いができる状態であれば,弁護士に依頼する必要もないでしょう(相談程度はしておいた方がよいかもしれません。)。
もう1つ,法的なメリットではありませんが,家族・親族間での話し合いで解決するものであるため,家族や親族間での無用な感情的対立を軽減することができるということも,遺産分割協議のメリットといえるでしょう。
遺産分割協議・協議分割のデメリット
遺産分割協議・協議分割における一番のデメリットは,前記のとおり,強制力がないということでしょう。そのため,協議に参加しないという相続人がいたとしても,参加を強制することはできません。
遺産分割協議には,すべての相続人が参加する必要があります。一部でも相続人が参加していなければ,その協議は無効です。
したがって,協議に参加しない相続人がいると,協議自体ができなくなってしまうというデメリットがあります。
また,すべての相続人が参加していたとしても,相続人間で争いが起きてしまったような場合には,時間ばかりかかってしまって,いつまで経っても話がまとまらないというような状況に陥りがちであるということもあります。
まとめ
上記のとおり,遺産分割協議・協議分割にはメリット・デメリットがありますが,いずれにせよ遺産分割をする場合には必ず行わなければならない手続です。また,最も穏便に紛争を解決できる手続でもあります。
したがって,話し合いがなかなか難しいという場合でも,第三者を交えるなどの工夫をして協議を行ってみるというのも1つの手段でしょう。
ただし,逆に,協議はほとんど難しいことが明らかであるという場合であれば,協議をとりあえず行ってみて,すみやかに調停や審判などに移行するということも考える必要があるでしょう。