投資信託は遺産分割の対象となるのか?

投資信託の画像

投資信託(受益権)も遺産分割の対象になると解されています。また、相続開始後遺産分割前の収益分配請求権も、遺産分割の対象となると解されています。

投資信託の相続財産性

投資信託とは,多数の投資家が投資信託の販売会社を通じて拠出した資金を,投資専門家が株式等の有価証券・不動産等に投資し,その投資運用によって得た利益を投資家に分配するという金融商品のことをいいます。

投資信託の投資家には,投資信託の運用によって得た利益の分配を受ける権利(収益分配請求権)や投資信託を解約または証券会社等に対する受益証券買取りを請求する権利(償還金請求権)があります。

これらの収益分配請求権や償還金請求権は,投資信託の受益権と呼ばれていますが,言うまでもなく財産的価値があります。

したがって,被相続人が投資信託をしていた場合,その投資信託の受益権も相続財産に含まれることになります。

投資信託の遺産分割の要否

前記のとおり,投資信託の投資家には受益権が認められます。この受益権は,基本的には金銭債権の性質を有しています。

金銭債権などの可分債権は、他の相続財産と異なり,相続開始によって当然に分割され,各共同相続人がそれぞれの相続分に応じて分割された債権を取得するものとされています(最一小判昭和29年4月8日最三小判昭和30年5月31日最三小判平成16年4月20日等)。

したがって,投資信託の受益権も,原則論からすれば,相続の開始によって当然に,各共同相続人に対してそれぞれの相続分に応じて分割され,遺産分割の対象とはならないはずです。

しかし,投資信託受益権は,口数を単位としており,一単位未満での権利の行使が認められていません。

また,投資信託の投資家には,収益分配請求権や償還金請求権だけでなく,信託財産に関する帳簿書類の閲覧または謄写の請求権(投資信託及び投資法人に関する法律15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利も受益権として認められています。

そうすると,投資信託投資家の有する受益権は,純然たる可分な金銭債権だけの権利であるとはいえません。

この点について,最高裁判所も,最高裁判所第三小法廷平成26年2月25日判決において以下のとおり判示し,投資信託受益権は共同相続人の準共有になり,遺産分割の対象となると判断しています。

(2) 本件投信受益権のうち、本件有価証券目録記載3及び4の投資信託受益権は、委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権であるところ、この投資信託受益権は、口数を単位とするものであって、その内容として、法令上、償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか、信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており、可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された上記投資信託受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。

また,本件投信受益権のうち、本件有価証券目録記載5の投資信託受益権は、外国投資信託に係る信託契約に基づく受益権であるところ、外国投資信託は、外国において外国の法令に基づいて設定された信託で、投資信託に類するものであり(投資信託及び投資法人に関する法律2条22項)、上記投資信託受益権の内容は、必ずしも明らかではない。しかし、外国投資信託が同法に基づき設定される投資信託に類するものであることからすれば、上記投資信託受益権についても、委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものとする余地が十分にあるというべきである。

(中略)

(4) 以上のとおり、本件国債等は、亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることがないものか、又はそう解する余地があるものである。そして、本件国債等が亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものでなければ、その最終的な帰属は,遺産の分割によって決せられるべきことになるから、本件国債等は、本件遺産分割審判によって上告人ら及び被上告人の各持分4分の1の割合による準共有となったことになり、上告人らの主位的請求に係る訴えは適法なものとなる。

引用元:裁判所サイト(最三小判平成26年2月25日)

したがって,実務上,投資信託の受益権は,各共同相続人に当然に分割相続されるものではなく,共同相続人全員の準共有になるものとして扱うべきということになるでしょう。

準共有になるということは,これを共同相続人間で分配するのであれば,遺産分割をしなければならないということになります。

つまり,投資信託も遺産分割の対象財産であるということです。

ただし,相続人に当然に分割承継される投資信託が金融商品として開発される可能性はありますので,すべての投資信託に,上記のような解釈が宛てはまるというわけではありません。

相続開始後に発生した投資信託収益の遺産分割の要否

投資信託受益権に関連する問題として,相続開始後遺産分割前に発生した収益も遺産分割の対象となるのかという問題があります。

相続開始後遺産分割前の投資信託収益権は,例えば,相続財産である不動産の賃料収入のように,相続財産からの果実とみることもできますから,共同相続人のそれぞれの法定相続分に応じて,遺産分割を経ずに当然に分配されると考えることもできるでしょう。

しかし,最高裁判所は,最高裁判所第二小法廷平成26年12月12日判決において,以下のように判示して,相続開始後遺産分割前に発生した投資信託の収益分配請求権も,共同相続人の準共有になると判断しています。

本件投信受益権は、委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権であるところ、共同相続された委託者指図型投資信託の受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁平成23年(受)第2250号同26年2月25日第三小法廷判決・民集68巻2号173頁参照)。そして、元本償還金又は収益分配金の交付を受ける権利は上記受益権の内容を構成するものであるから、共同相続された上記受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し、それが預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合にも、上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の1人は、上記販売会社に対し、自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができないというべきである。

引用元:裁判所サイト(最二小判平成26年12月12日)

したがって,相続開始後遺産分割前の収益分配請求権も共同相続人の準共有となる以上,その収益分配請求権は遺産分割の対象となるということになります。

投資信託の遺産分割の方法

投資信託を遺産分割する方法に特段の決まりはありません。

もちろん,そのまま準共有のままにするということもあり得ますが,それでは権利行使のたびに共同相続人全員の同意が必要になるなど,不便なことが少なくありません。

そこで,それぞれの相続分または話し合いの結果に基づいて,その各取分に応じた価額分の社債を,それぞれが単独で取得し,端数は金銭やその他の相続財産等で調整するという形をとることになるのが一般的であると思われます。

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