非嫡出子の相続分差別規定を違憲とした最大決平成25年9月4日とは?

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すでに過去の問題となりましたが,非嫡出子の相続分は,かつて嫡出子の相続分の2分の1となるという扱いがなされていました。それを違憲としたのが、最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定です。

非嫡出子の法定相続分にはどのような問題があったのか?

遺産相続にあたって,誰が相続人となるかは民法で決められています。第1順位の相続人が「子」,第2順位が「直系尊属」,第3順位が「兄弟姉妹」です。

嫡出子とは婚姻関係にある夫婦間から生まれた子のことをいい,そうでない子のことを非嫡出子といいます。非嫡出子は婚外子などと呼ばれることもあります。

第1順位の相続人である「子」には,嫡出子だけでなく,非嫡出子も当然含まれています。したがって,非嫡出子も法定相続人として相続を受けることができます。

もっとも,かつては,非嫡出子は嫡出子とまったく同じ相続を受けることができるというわけではありませんでした。

なぜなら,かつて,旧民法900条4号ただし書きにおいて,法定相続人として嫡出子と非嫡出子がいる場合には,非嫡出子の法定相続分は嫡出子の法定相続分の2分の1とするという規定があったからです(現在は改正されています。)。

この規定の趣旨は,法律婚の尊重にありました。法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子を優先することによって,法律婚の尊重を図ろうということです。

もっとも,この規定に対しては,同じ「子」でありながら,非嫡出子を嫡出子も不利益に扱う不合理な差別であり,日本国憲法が保障する法の下の平等に違反するという批判がありました。

この問題について決着をつけたのが,最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定(最大決平成25年9月4日)です。この決定は,非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする規定を違憲であると判断したのです。

最大判平成25年9月4日の違憲判断

最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定は,以下のとおり判示しています。

(前略)

本件規定(民法900条4号ただし書き)の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は、その中のいずれか一つを捉えて、本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得るものではない。しかし、昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。

以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。

したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。

引用元:裁判所サイト(最大決平成25年9月4日の判決文)

上記のとおり,最大決平成25年9月4日は,非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする旧民法900条4号ただし書きの規定を,遅くとも平成13年7月当時には,憲法14条1項の法の下の平等に違反していたものであると判示しています。

その理由として,家族共同体の中でも個人の尊重が明確に認識されるようになってきたこと,父母が婚姻関係になかったという子にとって自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されないこと,子を個人として尊重しその権利を保障すべきであるという考え方が確立されてきたことを挙げています。

最大決平成25年9月4日の効力・影響

最大決平成25年9月4日は,非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号ただし書きの規定を違憲と判断しましたが,その違憲となっていたのは,「平成13年7月」であるとしています。

そこで,問題となってくるのは,平成13年7月からこの判決が出されるまでの間になされた遺産分割等はどうなるのかという点です。この点について,最大決平成25年9月4日は,以下のとおり判示しています。

本決定は、本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断するものであり、平成7年大法廷決定並びに前記3(3)キの小法廷判決及び小法廷決定が、それより前に相続が開始した事件についてその相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。

他方、憲法に違反する法律は原則として無効であり、その法律に基づいてされた行為の効力も否定されるべきものであることからすると、本件規定は、本決定により遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断される以上、本決定の先例としての事実上の拘束性により、上記当時以降は無効であることとなり、また、本件規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されることになろう。しかしながら、本件規定は、国民生活や身分関係の基本法である民法の一部を構成し、相続という日常的な現象を規律する規定であって、平成13年7月から既に約12年もの期間が経過していることからすると、その間に、本件規定の合憲性を前提として、多くの遺産の分割が行われ、更にそれを基に新たな権利関係が形成される事態が広く生じてきていることが容易に推察される。取り分け、本決定の違憲判断は、長期にわたる社会状況の変化に照らし、本件規定がその合理性を失ったことを理由として、その違憲性を当裁判所として初めて明らかにするものである。それにもかかわらず、本決定の違憲判断が、先例としての事実上の拘束性という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著しく法的安定性を害することになる。法的安定性は法に内在する普遍的な要請であり、当裁判所の違憲判断も、その先例としての事実上の拘束性を限定し、法的安定性の確保との調和を図ることが求められているといわなければならず、このことは,裁判において本件規定を違憲と判断することの適否という点からも問題となり得るところといえる(前記3(3)ク参照)。

以上の観点からすると、既に関係者間において裁判、合意等により確定的なものとなったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが、関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば、本決定により違憲無効とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとするのが相当であるといえる。そして、相続の開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される可分債権又は可分債務については、債務者から支払を受け、又は債権者に弁済をするに当たり、法定相続分に関する規定の適用が問題となり得るものであるから、相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がされたものとして法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではなく、その後の関係者間での裁判の終局、明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用する必要がない状態となったといえる場合に初めて、法律関係が確定的なものとなったとみるのが相当である。

したがって、本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。

引用元:裁判所サイト(最大決平成25年9月4日の判決文)

仮に,平成13年7月以降になされた,非嫡出子の相続分を2分の1とした遺産分割等がすべてこの判決によって覆されてしまうとすると,非常に多くの人に遺産分割等のやり直しをさせることになり,法的安定性を著しく害します。

そこで,最大決平成25年9月4日は,その点を考慮して,平成13年7月からこの決定までの間に,すでに確定的なものとなっている法律関係には影響を及ぼさないと判示しています。

例えば,平成15年中に非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の半分とした遺産分割の協議がまとまっていたり,または遺産分割審判が確定していたという場合には,その遺産分割はそのまま有効であり,最大判平成25年9月4日の影響は受けないとしたということです。

ここで1つ問題となるのは,金銭債権・債務などの可分債権・可分債務です。可分債権・債務は,相続開始と同時に,遺産分割を経ることなく各共同相続人にその相続分に応じて当然に帰属するものとされています。

そうすると,可分債権債務の場合には,相続開始時点ですでに「確定的なものとなっている」ようにも思えます。

しかし,上記判例は,相続開始時に確定的になったとみるべきではなく,その後の裁判の終結や合意の成立などによって,あらためて旧民法900条4号ただし書きの規定を適用する必要がなくなったといえる場合になってはじめて,確定的なものとなったものとして扱うべきであると判示しています。

まとめると,最大決平成25年9月4日は,実務上,以下のような効果を有しているといえるでしょう。

  • 平成13年7月より前の遺産相続に関する法律関係には影響を及ぼさない。
  • 平成13年7月から平成25年9月4日までの間に遺産分割協議が成立・遺産分割審判が確定または可分債権債務について合意成立や裁判確定があった場合には,それらに対しては影響を及ぼさない。
  • 平成13年7月から平成25年9月4日までの間に,上記のような協議成立や裁判確定がなされていない場合には,たとえ係争中であっても,上記決定に従って,非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分と同じであるとしなければならない。

現在における非嫡出子の相続分

最大決平成25年9月4日を受けて,同年12月4日に民法が改正され,非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の半分とする旧民法900条4号ただし書きの規定は撤廃・改正されました。この改正は,同月11日からすでに施行されています。

これにより,非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1にするという規程は撤廃されましたので,現在では,嫡出子であろうと非嫡出子であろうと,法定相続分は「子」として同じになっています。

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