寄与分とは,共同相続人のうちの一部が被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合に,その寄与行為を金銭的に評価したもののことです(民法904条の2第1項)。
寄与分の額は,相続人間での協議によって決めることができます。相続人間の協議が調わない場合には,家庭裁判所が,寄与行為者の請求により,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定めます(民法904条の2第2項)。
寄与分があると認められた場合,寄与分の額を被相続人の財産額から控除してみなし相続財産とし,それをもとに各共同相続人の一応の相続分を決め,その上で,寄与分を寄与行為をした共同相続人の相続分に加算することになります。
寄与分とは?
民法 第904条の2
第1項 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
第2項 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
第3項 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
第4項 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。
共同相続人のうちの一部の人が,被相続人の事業や家計のために資金援助をしたり,無報酬で事業の手伝いや看護などをしたことによって,被相続人の財産が増加したり,または,被相続人の財産が減少するのを防止できたという場合があります。
相続が開始した時に遺産(相続財産)が残っているとすれば,それは,上記のような相続財産の増殖や減少防止に貢献した共同相続人がいるおかげです。そのおかげで,他の相続人も恩恵に預かることができるのです。
それにもかかわらず,そのような貢献をした人も,何ら貢献をしていない人と形式的に平等な法定相続分しか受け取れないというのは,かえって相続人間の公平に反します。
そこで,相続財産の増殖に貢献(寄与)した相続人の相続分については,他のそうでない相続人よりも優遇しようという制度が「寄与分(きよぶん)」という制度です。
具体的に言うと,被相続人の維持または増加に特別に貢献した行為(寄与行為)による寄与分の額を被相続人の財産額から控除して相続財産額として,それをもとに各共同相続人の相続分を決め,その上で,寄与分を寄与行為をした共同相続人の相続分に加算することになります(民法904条の2第1項)。
寄与分が認められる場合
寄与分は,前記のとおり,共同相続人のうちのある特定の相続人だけについて相続分を増加させるという制度ですから,法定相続分の制度の重大な例外ということになります。
したがって,どのような形でも被相続人に何らかの貢献していれば,寄与分が認められるというわけではありません。寄与分が認められる場合は,民法上,一定の場合に限られています。
具体的に言うと,寄与分があると認められるのは,以下の場合に限定されます(民法904条の2第1項)。
- 共同相続人自らが「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法」で寄与行為をしたこと
- 寄与行為が「特別の寄与」であること
- 被相続人の財産が維持または増加されたこと
- 寄与行為と被相続人の財産の維持または増加との間に因果関係があること
共同相続人自らが寄与行為をしたこと
まず第一に,共同相続人自ら寄与行為をしていることが必要です。共同相続人以外の人が寄与行為をしたとしても,寄与分は認められません(ただし,後述の特別の寄与料請求が認められる場合はあります。)。寄与行為としては,一般的に,以下の類型があります。
- 家業従事型:被相続人が事業を行っていた場合に,その事業において労務を提供,つまりは事業を手伝っていた場合。
- 金銭等出資型:被相続人に対して,生活費や医療費等の援助などの財産的な給付を行った場合。
- 療養看護型:被相続人が病気などになってしまった場合に,その療養看護をしてあげたような場合。
- 扶養型:被相続人を継続的に扶養している場合
なお,あくまで代表的な類型ですから,これら以外でも,寄与行為が認められる場合はあります。
寄与行為が「特別の寄与」であること
寄与分が認められるためには,その寄与行為が「特別の寄与」でなければなりません。
寄与行為をするに当たって正当な対価や十分な利益を受け取っていたり,法律上の扶養義務や互助義務の範囲内での援助にとどまる場合には,「特別の寄与」とはいえません。
被相続人の財産が維持または増加したこと
寄与分が認められるのは,被相続人の財産が維持または増加した場合に限られます。
したがって,被相続人の事業に協力したり,財産上の給付をしたり,療養看護しただけで,結局,被相続人の財産が減少することを防ぐことに貢献できなかったり,財産を増加させることに貢献できなかったりした場合には,寄与分は認められないことになります。
たとえば,被相続人が認知症となり,その介護をしたとしても,その介護によって被相続人の財産の減少を防止したり,または増やしたといえるような場合でなければ,寄与分は認められないということです。
寄与行為と被相続人の財産の維持・増加との間に因果関係があること
被相続人の財産が維持または増加していたとしても,実際に,寄与行為とその維持または増加との間に因果関係がなければ,寄与分は認められません。
要するに,寄与行為によって被相続人の財産が維持または増加した,と言える場合でなければならないということです。
寄与行為はしたものの,被相続人の財産が維持または増加したのは全然別の理由によるものであるという場合には,寄与分は認められません。
寄与分額の決定方法
寄与分の額は,まず第一に共同相続人間の協議によって決めることができます(民法904条の2第1項)。共同相続人間の話し合いで決めるのが第一ということです。
共同相続人間の協議で決めることができなかった場合には,寄与行為をした相続人の請求により,家庭裁判所が,寄与行為者の請求により,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定めます(民法904条の2第2項)。
具体的には,寄与行為をした相続人が,家庭裁判所に寄与分を定める処分調停を申し立てることになります。調停によっても寄与分が決まらなかった場合には,寄与分を定める処分審判において決められることになります。
寄与分がある場合の相続分の算定方法
寄与分が認められる場合には,相続分は以下のように計算することになります。
- まず,被相続人の財産からから寄与分を控除します。寄与分を控除した相続財産のことを「みなし相続財産」といいます。
- 次に,みなし相続財産を法定相続分によって配分します。配分された相続分は「一応の相続分」と呼ばれることがあります。
- 最後に,寄与行為をした共同相続人の一応の相続分に,あらかじめ控除しておいた寄与分を加算します。
算定の具体例
たとえば,Aが死亡し,そのAにはB,C,D,Eの4人の子(全員嫡出子であったとします。)がおり,この3人のほかには相続人はいないとします。この場合に相続財産は1億円だったとします。
原則どおりに考えると,B・C・D・Eには2500万円ずつ法定相続分が認められることになります。
ところが,Bは,Aの事業を手伝っており,それによって,Bには寄与分として2000万円が認められたとするとどうなるでしょう?
この場合,まず,相続財産1億円から寄与分2000万円が控除されることになります。
したがって,BCDEの(みなし)相続財産は8000万円となり,これが,BCDEに法定相続分に従い分配されますので,各人2000万円となります。
さらに,Bには2000万円の寄与分があります。この2000万円に寄与分の2000万円が加算されることになり,Bの相続分は4000万円となります。
したがって,この事例においては,Bが4000万円,CDEがそれぞれ2000万円ずつを相続することになります。
相続人以外の者の寄与分の有無
前記のとおり,寄与行為をしたことにより寄与分が認められるのは,寄与行為をしたのが相続人である場合に限られます。
したがって,相続人以外の人が被相続に対して寄与行為をしたとしても,寄与分は認められません。
もっとも,例えば,相続人である夫の妻が,被相続人である夫の両親の介護を無報酬で行っている場合など,相続人でない人が被相続人に寄与する場合も少なくなく,このような場合にまったくその寄与行為が評価されないのは不公平であると考えられていました。
そこで,民法改正(2019年7月1日から施行)により,相続人でない人でも,一定の要件を充たす場合には,相続財産から一定の財産を取得できる「特別の寄与料請求」制度が設けられました(民法1050条)。
ただし,特別の寄与料請求ができるのは,相続人でなくてもよいものの,被相続人の親族に限られます。