
自己破産の手続が開始されると、一定の公的資格等を利用することが制限されます。これを「資格制限」といいます。資格制限は、免責が許可されると解除されます。
自己破産における資格制限
自己破産のデメリットの1つとしてあげられるものに,「資格制限」があります。資格制限とは,破産手続の開始によって,一定の公的資格等を得ることができなくなり,あるいは資格を(一定期間)失うことをいいます。
資格制限は破産法には規定されていません。それぞれの資格の取得要件等を定める法律に個別に規定されています。
もっとも,破産手続開始から一生資格が使えなくなってしまうわけではありません。免責許可を受ければ,もとのとおり資格を取得したり,資格を使えるようになったりします。これを復権といいます。
特に自己破産における資格制限が問題となることが多いものは,警備員,生命保険の外交員(生命保険募集人),建設業,宅地建物取引主任者(宅建)などでしょう。
資格制限の類型
自己破産によってすべての資格が取得できなったり,使えなくなったりするわけではありません。制限される資格は限られています。
資格制限の対象となる資格には公的資格や職業に関するものが多いですが,それだけでなく,一定の私法上の地位(後見人・保佐人・遺言執行者など)も資格制限の対象となる場合があります。
また,資格制限には,2つのタイプがあります。
1つは,当然に資格が喪失してしまうというタイプです。
例えば,弁護士・司法書士・公認会計士・税理士・警備員・宅地建物取引主任者などの資格は,破産手続開始後復権までの間は資格を取得することができないだけでなく,すでにこれらの資格を持っている場合でも,破産手続開始によって,当然に,復権するまで資格が使えなくなってしまいます。
もう1つは,当然に資格が喪失してしまうわけではなく,一定の手続を経て資格が使えなくなるというタイプです。
生命保険外交員の場合には,破産手続開始後復権までの間に新たにこの資格を取得することはできませんが,破産手続開始時点ですでにこの資格を持っている場合には,保険会社が保険外交員の登録を取消し等の手続をとらない限りは資格を使って仕事をすることが可能です。
なお,取締役が破産手続開始決定を受けると,取締役の地位を失うことになりますが,これは取締役という資格が制限されているわけではなく,取締役の破産によって会社との委任契約が終了するため,取締役の地位を失うということです。
したがって,自己破産の手続中であっても,株主総会で再度取締役として選任されれば,またその地位に戻ることができます。
制限される資格の具体例
では,具体的にどの資格が制限されるのかというと,実に多岐にわたります。ここですべての制限される資格を挙げることはできませんので,代表的なものだけ挙げてみます。
- 卸売業者
- 貸金業者
- 教育委員会委員
- 行政書士
- 警備員
- 警備業者
- 建築士事務所開設者
- 建設業(一般建設業,特別建設業)
- 後見人
- 公証人
- 公認会計士
- 質屋
- 司法修習生
- 司法書士
- 社会保険労務士
- 商工会議者会員
- 人事官
- 生命保険募集人
- 税理士
- 損害保険代理店
- 宅地建物取扱主任者
- 宅地建物取扱業
- 中小企業診断士
- 通関士
- 土地家屋調査士
- 廃棄物処理業者(一般廃棄物処理業者,産業廃棄物処理業者)
- 不動産鑑定士
- 弁護士
- 弁理士
- 保護者
- 保佐人
- 補助人
- 遺言執行者
- 旅行業務取扱主任者
- 旅行業者?
資格制限される期間
自己破産をすると,居住の制限や通信の秘密の制限もなされます。もっとも,これらの制限は,破産手続が終了すれば当然に終了されます。
ところが,資格制限の場合は,破産手続が終了したとしてもそれだけで制限がなくなるわけではありません。
それでは,この資格制限はいつまで続くのかというと,「復権」するまでです。
復権とは,文字どおり,権利を回復することをいいます。では,いつ復権するのかというと,代表的な場合は,免責許可決定が確定した時です。したがって,免責許可決定が確定すれば,資格制限は解除されるということです。