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自己破産において同時廃止となるのはどのような場合か?

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自己破産の手続において同時廃止となるのは,破産手続開始の時点において「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」です。

ただし,免責不許可事由の調査が必要となる場合には,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときであっても,同時廃止にはならないことがあります。

具体的には,①否認権行使等によって回収できる財産がある場合またはその可能性がある場合,②免責不許可事由がある場合またはあると疑われる場合,③個人事業主の場合などには,同時廃止にならないことがあります。

同時廃止事件と管財事件

自己破産の手続には,管財手続(管財事件)と同時廃止手続(同時廃止事件)があります。

管財手続は,破産手続の原則的な形態です。裁判所によって破産管財人が選任され,その破産管財人が,破産者の財産を調査・管理・換価処分して配当することになります。

管財手続の場合,調査の結果,配当すべき財産がなければ「異時廃止」として破産手続は終了することになります。

他方,「同時廃止」とは,破産管財人が選任されず,破産手続の開始と同時に破産事件が廃止されることをいいます。破産手続開始と同時に破産手続が廃止されるので,同時廃止と呼ばれているのです。この同時廃止で終わる手続を同時廃止手続と呼んでいます。

同時廃止事件が債務者にとって有利である理由

管財事件の場合には,裁判所によって破産管財人が選任され,その破産管財人により財産の調査や管理,換価処分が行われます。そのため,破産管財人の報酬も含めてそれなりに高額な費用がかかります。

東京地方裁判所大阪地方裁判所など多くの裁判所では,少額管財といって,裁判所に納める引継予納金の金額が少額で済む手続も用意されていますが,それでも,20万円前後の予納金は必要となってきます。

他方,同時廃止の場合には,破産管財人は選任されず,破産手続も開始と同時に終了となります。したがって,申立てにかかる費用(郵便切手代、官報公告費用)のほかには費用がかかりません。だいたい1万6000円ほどで済むことになります。

また,同時廃止の場合,破産管財人による調査・管理・換価処分などの管財業務も行われませんから,手続終了までの期間も,管財手続よりも短くて済みます。

そのため,同時廃止で済むのか,それとも,管財事件(個人の場合には大半が少額管財)となるのかは,費用や時間の面からみても,現実的には重要な問題となってきます。

破産法216条1項に定める要件

破産法 第216条

  • 第1項 裁判所は,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは,破産手続開始の決定と同時に,破産手続廃止の決定をしなければならない。

前記のとおり,管財事件においては,破産管財人による調査の結果,配当すべき財産が無い場合には,破産手続が廃止によって終了されます。破産手続開始と異なる時期に廃止となるため,これを異時廃止といいます。

他方,同時廃止とは,破産手続開始と同時に破産手続が廃止される場合をいいます。

具体的に言うと,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」には,同時廃止となります(破産法216条1項)。

破産手続には,破産管財人の報酬をはじめ様々な費用がかかりますから,費用が捻出できなければ手続を進めていくことは不可能です。

したがって,開始時点ですでに,破産債権者への配当どころか破産手続を進めていくだけの財産すら無いことが明らかである場合には,破産管財人を選任して手続を進めることは無意味かつ不可能であるということになります。

そのため,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」には同時廃止となるのです。

ただし,後述するように,実際の運用では,上記の破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足することのほかに,免責不許可事由がないことなども,同時廃止となるかどうかの判断の要素とされています。

「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すること」の意味

上記のとおり,同時廃止の法律上の要件は「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」です。

破産財団とは,破産者の財産の総体のことをいいます。破産手続の費用を支弁するのに不足するというのは,要するに,破産者が、破産管財人報酬等の予納金を含む破産手続費用を支払うだけの財産を持っていないということです。

したがって,破産者に予納金を含む破産手続費用を支払うだけの財産がない場合には,同時廃止となります。

東京地方裁判所や大阪地方裁判所など多くの裁判所では、少額管財の引継予納金は、原則として20万円とされています。したがって,20万円を支払うだけの財産がないという場合には,この,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すること」に当たるということになるでしょう。

この判断の基準を「20万円基準」と呼ぶことがあります。

なお,この20万円基準の判断には,基本的に自由財産は含まれません。自由財産とは、破産財団に含まれない財産のことです。例えば、差押禁止財産があります。各裁判所ごとに自由財産となる財産についての基準を設けていることもあります。

したがって,自由財産と認められる財産のうちに20万円以上の財産があっても,それはカウントされないので,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すること」に当たると判断されることがあります。

ただし,現金だけは別です。99万円以下の現金は法律上自由財産とされていますが,実際に保有している現金が一定額以上ある場合には,特別な事情のない限り,破産手続費用を支弁することができる場合に当たるものとして扱われ,同時廃止にはならないとされます。

例えば、東京地方裁判所の場合には、33万円を超える現金がある場合には同時廃止になりません。大阪地方裁判所でも、現金と預貯金あわせて50万円を超える場合には同時廃止にならないとされています。

同時廃止と免責不許可事由の関係

前記のとおり,同時廃止になるのは「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」です。

もっとも,免責不許可事由がある場合には,裁量免責をしてよいかどうかを判断する必要があります。そして,その前提として,破産管財人による免責に関する調査が必要なってきます。

そのため,明確な法律上の条文があるわけではないのですが,免責不許可事由があると疑われる場合や免責不許可事由の調査が不十分な場合,または,免責不許可事由があるという場合には,管財事件(少額管財事件)になる場合があります。

まとめ:同時廃止の要件

同時廃止の手続では破産管財人が選任されません。そのため,財産や免責不許可事由(または裁量免責の可否)の調査が十分になされないおそれがあります。

また,費用の安い同時廃止とするために,申立ての段階で,財産や免責不許可事由を申告しないなど,不正な申立てがなされる可能性がないとはいえません。

そこで,実務では,同時廃止とするかどうかの判断は,かなり慎重なものとなっています。

具体的には,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すること」の判断については,申立書の記載等からみて,明らかな場合でなければなりません。

財産があると疑われる場合(否認権行使によって財産を回収できる場合も含みます。)や資産調査が不十分な場合には,破産管財人の調査を要するとして,管財事件(少額管財事件)となる場合があります。

また,前記のとおり,免責不許可事由があると疑われる場合や免責不許可事由の調査が不十分な場合,または,免責不許可事由があるという場合には,破産管財人による免責調査を要するとして,やはり管財事件(少額管財事件)となる場合があります。

したがって,実際の運用上,同時廃止となるのは,以下のすべてを満たす場合であるといえるでしょう。

同時廃止の要件
  • 引継予納金を支払えるだけの財産(自由財産を除く)が無いことが明らかなこと
    • 東京地裁の場合には、33万円を超える現金を持っていないこと
    • 大阪地裁の場合には、現金・預貯金の合計額が50万円を超えていないこと
  • 否認権行使によって破産手続費用を支弁するだけの財産を回収できる可能性がないことが明らかであること
  • 免責不許可事由がないことが明らかであること

ただし,これらの要件を充たさないため,同時廃止ではなく管財手続になる場合であっても,個人の自己破産の場合には,引継予納金の金額が少額で済む「少額管財」になるのが通常でしょう。

個人事業者・自営業者の場合

債務者が個人事業者・自営業者である場合,事業者でない場合よりも契約関係や財産関係が複雑なことがあります。そのため,事業者でない方の場合よりも十分な調査をすることが求められます。

そこで,個人事業者・自営業者の自己破産の場合には,同時廃止ではなく,管財手続になるのが原則とされています。ただし,この場合も,引継予納金の金額が少額で済む「少額管財」になるのが通常でしょう。

同時廃止になるかどうかの見込み

同時廃止となるかどうかの判断は,実際には微妙であるという場合もありますので,専門家である弁護士や司法書士に相談した方がよいでしょう。

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