
破産手続開始時において所持している現金が99万円以下である場合,その現金は自由財産となり,換価処分を要しないとされています。したがって,99万円までであれば,自己破産しても現金を持っておくことができます。
なお,99万円以下の現金は換価処分の対象にはならないものの、一定額(例えば、東京地方裁判所では33万円)を超える現金がある場合には、手続が同時廃止ではなく管財手続になることはあります。
「現金」の意味
まず,前提として,このページで説明する「現金」とは,手持ちの金銭のことを意味しています。
預金や貯金は,たしかに引き出せばすぐに現金化できますが,法的にいえば,あくまで銀行等に対する預貯金払戻請求権という債権ですので,ここでいう「現金」には含まれないということにはご注意ください。
自由財産となる現金
破産法 第34条
- 第3項 第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
- 第1号 民事執行法(昭和54年法律第4号)第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭
民事執行法 第131条
- 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
- 第3号 標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
民事執行法施行令 第1条
- 民事執行法(以下「法」という。)第131条第3号(法第192条において準用する場合を含む。)の政令で定める額は,66万円とする。
破産法34条3項1号によれば,「民事執行法第131条第3号 に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭」は,破産財団に属しない,つまりは,自己破産しても処分しなくてよい自由財産となるとされています。
そして,民事執行法第131条第3号に規定する金銭とは,「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」です。これに2分の3を乗じた額の金銭(現金)は自由財産となる,というわけです。
ここで「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」とは,いったいいくらの金銭をいうのかということになりますが,この金額は政令(民事執行法施行令)によって定められています。
民事執行施行令によれば,「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額」とは,66万円であるとされています。
そうすると,破産法において自由財産となる現金とは,「民事執行法第131条第3号 に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭」ですので,上記66万円に2分の3を乗じた現金,つまり,「99万円の現金」ということになります。
したがって,自己破産をしたとしても,99万円以下の現金は自由財産となり換価処分されず,破産者が持っていて良いということになります。
自己破産における現金の取扱い
前記のとおり,破産法上,現金のうち99万円までは自由財産となりますから,破産財団に組み入れられず,自由に使ってよいということになります。
他方,99万円を超える現金を持っている場合には,99万円を超える部分は破産財団に組み入れられますので,破産管財人に引き継ぐことになります。
たとえば,100万円の現金を持っている場合には,99万円までは破産者が持っていてもよいのですが,1万円は破産管財人に引き渡して配当等に使われるということになるのです。
現金の所持と同時廃止の関係
前記のとおり,99万円以下の現金は自由財産となるのですから,破産手続開始時に99万円以下の現金を持っていたとしても,換価すべき財産はなく,同時廃止となるようにも思えます。
しかし,残念ながらそうではありません。一定額の現金を持っている場合、手続としては、同時廃止ではなく管財手続(個人の自己破産の場合には、通常は少額管財手続。)になるという運用になっています。
例えば、東京地方裁判所では,33万円以上の現金がある場合には,管財事件(少額管財)となるという運用になっています。
したがって、現金99万円を持っていた場合(ほかの財産は無いものとします。)、この99万円の現金は自由財産となりますが、手続としては少額管財となるため、引継予納金として20万円を支払うことになります(結果として、自己破産をした場合持っておける現金は、結局、79万円ということになります。)。
200万円の現金を持っていた場合(その他の財産は無いものとします。)であれば,自由財産となるのは99万円だけですから,残りの101万円は破産財団に組み入れることになります。ただし,20万円の引継予納金は,この101万円に含まれていると考えるのが通常でしょう。