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自己破産すると退職金・退職手当も回収されてしまうのか?

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退職金・退職手当を請求できる権利(退職金請求権)は,破産手続において換価処分の対象となります。ただし,破産手続開始前にすでに退職金を受領している場合には,現金または預貯金として判断されます。

破産手続開始の時点ですでに退職しているものの退職金を受け取っていない場合や,破産手続中に退職することが決まっている場合には,退職金の4分の1の額を裁判所に納付しなければなりません。

破産手続開始の時点でまだ退職しておらず,退職する見込みもない場合も,原則論としては退職金の4分の1の額を裁判所に納付しなければなりません。しかし,多くの裁判所では,8分の1の額を納付すれば足り,また,8分の1の額が20万円以下の場合には,納付も不要とされています。

すでに受領している退職金・退職手当の取扱い

勤務先を退職して,自己破産の手続開始前に,退職金・退職手当がすでに支払われている場合,その金銭が現金として保管されているのであれば現金として,預金・貯金口座に入っているのであれば預金・貯金として扱われることになります。

したがって,もとが退職金であったかどうかに関係なく,現金または預貯金として換価処分すべきか否かが決められることになります。

手持ちの現金であれば,99万円までは自由財産となります。したがって,その金額までであれば,自己破産をしても処分をしないでよいことになります。

預金・貯金の場合、東京地方裁判所大阪地方裁判所をはじめとした多くの裁判所では、預金合計額20万円までは自由財産として扱われます。したがって,その金額までであれば,預貯金を解約しないでもよいことになります。

まだ受領していない退職金の請求権の取扱い(原則論)

退職はしたもののまだ退職金を受け取っていない場合やまだ退職さえしていないという場合でも,その退職金を請求することができる権利(退職金請求権)は、「将来の請求権」であり、財産として扱われます。

もちろん,勤務先に退職金制度があることが前提です。制度が無い場合には,そもそも退職金を請求する権利も無いので,問題になりません。

退職金制度があり,退職金請求権がある場合,この退職金請求権は,そのうちの4分の3は差押禁止債権となりますが,残りの4分の1は差押えが可能な権利です。

したがって,退職金債権の4分の3は破産手続上も処分されない自由財産となりますが,残りの4分の1は自由財産とはならず,換価処分の対象となるのが原則です。

つまり,破産法の建前でいくと,破産手続開始決定の時点で退職したならばもらえるであろう退職金のうちの4分の1は換価処分できることになります。

この退職金の金額は,将来定年などで退職した時点での金額というわけではなく,あくまで破産手続開始時点で退職したらいくらもらえるのかということが基準となります。

退職金債権を換価処分するとはどういうことかというと,破産管財人が勤務先の会社から退職金債権の4分の1を取り立てるということです。

もっとも,退職金を回収するためには,その勤務先を退職するか,または退職金の前払いをしてもらわないといけないということになります。

そうすると,退職金を取り立てるためには,破産者に会社を退職してもらうか,または,破産管財人が会社に対して退職金の4分の1の前払いを請求することになってしまいます。

しかし,勤務先を退職すると破産者は収入を失いますし,また破産管財人が勤務先に請求すると,破産したことが会社に知られてしまい,後々の勤務に悪影響を及ぼすおそれがないとは言えません。

そこで,破産者が破産管財人に対して退職金支給見込額の4分の1に相当する金銭を支払う代わりに,退職金請求権を破産財団から放棄(または実施的に回収が完了した形に)してもらうという取扱いをすることになるでしょう。

ただし,後述のとおり,東京地方裁判所や大阪地方裁判所をはじめとした多くの裁判所では,退職金請求権について,上記の原則的取扱いよりも破産者に有利な運用をとっています。

各地方裁判所における退職金請求権の取扱い

前記のとおり,退職金債権のうち4分の1は財産換価処分の対象となりますが,実際問題として,退職金はかなり高額となることがあるため,4分の1を破産者が積み立てるといっても容易ではありません。

4分の1だけ積み立てて自己破産すれば,将来本当に退職した時に全額もらえるのだから不都合はないとも思われます。

しかし,実際,将来退職するときに退職金が支払われるのか,もっと言うと勤務先が存続しているのかすら分からないのですから,一概に将来もらえるからよいと考えることもできません。

したがって,4分の1は換価対象であるという原則を厳格に適用しすぎると,退職金がある人は自己破産できないということになってしまうおそれがあります。

そこで,東京地方裁判所や大阪地方裁判所をはじめとする多くの裁判所では,財産換価基準(自由財産拡張基準)を設けており,退職金債権について,自由財産となる範囲を拡大する取扱いをしています。

もっとも,どのような場合でも自由財産拡張が認められるわけではありません。具体的には以下の3つの場合ごとに考える必要があります。

退職金請求権の自由財産拡張が問題となる3つの場面
  • すでに退職しているが退職金を受け取っていない場合
  • いまだ退職をしていないが破産手続中に退職することが決まっている場合
  • まだ退職をしておらず,かつ,破産手続中に退職する見込みもない場合

すでに退職しているが退職金を受け取っていない場合

すに退職しているが退職金を受け取っていない場合,今後退職金を受け取ることができるのは,ほぼ確実です。

そのため,この場合には,自由財産の拡張はなされず,破産法の原則どおり,退職金債権の4分の1が換価処分の対象となるとされています。

したがって,自己破産手続の開始後に退職金請求権の4分の1の額を納付しなければなりません。

まだ退職していないが破産手続中に退職することが決まっている場合

まだ退職していないが破産手続中に退職することが決まっている場合も,退職金を受け取ることができるのはほぼ確実といえます。

そのため,すでに退職している場合と同様,自由財産の拡張はなされず,破産法の原則どおり,退職金債権の4分の1が換価処分の対象となるとされています。

したがって,この場合も,自己破産手続の開始後に退職金請求権の4分の1の額を納付しなければなりません。

まだ退職をしておらず,かつ,破産手続中に退職する見込みもない場合

まだ退職しておらず,破産手続中に退職する見込みもない場合は,将来退職金をもらえる見込みがあるとはいっても,現実に退職金が手元に入ってくるのは先の話です。

しかも,いざ将来退職するというときに,本当に退職金がもらえるのかどうかは未知数です。

前記のとおり,こういう不確定な要素があるにもかかわらず,退職金債権の4分の1を換価処分できるとすると,破産者に過大な負担を与えてしまう可能性もあります。

そこで、東京地裁や大阪地裁では、退職金の見込み額の8分の1の額が20万円以下の場合には、退職金債権全額を自由財産とするという取扱いをしています。

さらに、退職金見込額の8分の1の額が20万円を超える場合でも、退職金支給見込額の8分の7を自由財産とするという取扱いをしています。つまり,裁判所に納めなければならない金額は,退職金見込額の8分の1だけで済むということです。

したがって、裁判所への納付が必要とされるのは退職金支給見込額が160万円以上の場合だけであり、しかも、その8分の1の額だけ自己破産手続の開始後に納付すればよいというになります。

この東京地裁や大阪地裁の換価基準・自由財産拡張基準は、他の多くの裁判所でも採用されています。

退職金請求権と同時廃止の関係

同時廃止となるのは,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときです。

したがって,退職金債権の4分の1と他の財産を併せても,破産手続費用を支払うのに足りない場合には,同時廃止となります。

さらに、前記のとおり、多くの裁判所では,破産手続開始時に退職しておらず,かつ,破産手続中に退職する見込みがない場合,退職金債権について自由財産の拡張の取扱いがなされています。

具体的には,退職金債権の8分の1が20万円以下の場合には,退職金債権全額について自由財産となるので,退職金債権は考慮されず,その他の財産で破産手続費用を支払うのに不足するのであれば,同時廃止となります。

例えば,破産手続開始時にまだ退職しておらず退職する予定もないという場合で,80万円の退職金支給見込があり,これに加えて15万円の財産を持っていたとします(他の財産・免責不許可事由は無いものとします。)。

この場合,破産法の原則でいくと,退職金債権の4分の1の20万円と15万円の財産の合計35万円の財産があることになるので,同時廃止とはなりません。

しかし、東京地裁や大阪地裁では,退職金債権の8分の1が20万円未満の場合には退職金債権全額が自由財産となり破産財団に組み入れられませんから,破産財団としては退職金債権以外の財産10万円しか無いということになります。

したがって,20万円の破産手続費用を支払うだけの財産が無いということになるので,同時廃止となります。

ただし,これはあくまで各裁判所の「運用」です。場合によっては,財産が25万円あると判断されて,少額管財となるということも無いとは言えませんので確認は必要でしょう。

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