
免責されない非免責債権の1つに「雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権」があります。個人事業者が自己破産をしたとしても、雇用をしていた従業員(使用人)からの未払い給料や預かり金返還の請求権については免責されないということです。
雇用関係に基づく使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
破産法 第253条
- 第1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
- 第5号 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
個人(自然人)の自己破産の目的は,免責の許可を受けることです。免責とは,借金など債務の支払い義務を免除してもらうことをいいます。
もっとも,免責の許可を受けたかどうかにかかわらず,そもそも免責許可によっても,支払い義務を免れることができない債権というものがあります。そのような債権のことを非免責債権といいます。
この非免責債権の1つに「雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権」があります(破産法253条1項5号)。
雇用関係の意味
民法 第623条
- 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
雇用関係とは、雇用契約に基づく法律関係のことです。
雇用契約とは、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」契約のことです(民法623条)。
「当事者の一方」とは,「使用者」のことです。つまり,雇用主です。他方,「相手方」とは,「労働者」のことです。「使用人」「被用者」「従業員」などと呼ぶこともあります。
つまり、雇用契約というのは、労働者の方で使用者に対して使用者のために労働しますよと約束する代わりに、使用者は労働者に対してその労働の対価として報酬(賃金)を与えることを約束する契約であるということになります。
雇用契約がこういうものだとすると,雇用関係のもっとも重要な要素は,労働者が使用者のために労働することと使用者がその労働の対価として労働者に対して報酬を支払うことであるということになります。
「労働」とその対価である「報酬」がキーポイントです。報酬とは規定されていますが,給料もこれに含まれます。
もう1つのポイントは,指揮命令関係です。つまり,雇用関係においては,労働者は使用者のために働くということが根底にあります。
そのため,労働者は,使用者の監督の下に指揮命令を受けて働くことが前提となります。
雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権
「雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権」とは何でしょうか?
まず,「使用人」とは,使用者によって使われる人です。そして,雇用関係に基づくものであるというのですから,つまりは,労働者(従業員)のことです。
そして,この使用人の「請求権」とは,使用人から使用者に対してなされる請求のことですから,つまりは,給料の請求権や退職金の請求権などが代表的な請求権となります。
ところで,この給料等の請求権のうちの一部は,破産法上「財団債権」と呼ばれる扱いがなされています。この財団債権も免責されません。
このように給料等の請求権のうち一部は財団債権であってそもそも免責されないにもかかわらず,どうして給料等の請求権をわざわざ非免責債権にもしているのでしょうか?
それは,財団債権とされる給料等の請求権は,一部にすぎないからです。
財団債権とされるのは,給料請求権のうち「破産手続開始前3か月間」のものに限られ,退職金請求権は「退職前3月前の給料の総額相当部分」のみに限られています。
したがって,それ以外の部分は財団債権とはならないというわけです。
しかし,これでは使用人には不利益です。そこで,使用人保護のために,財団債権とならない部分についても免責できないように,あえて非免責債権とされているのです。
使用人の預り金の返還請求権
「使用人の預り金」とは,文字どおり使用者が使用人から預かっている金銭です。積立金などがこれにあたります。これも,使用人保護の観点から非免責債権とされているのです。
なお,ここでの給料等の請求権の話は,自由財産になるかどうかという話とはまったく逆の話です。
自由財産になるかどうかは,破産者が給料等を会社などに請求することができるかどうかという話です。つまり、使用人・労働者が破産した場合の問題です。
これに対して非免責債権になるかどうかは,破産者が給料等を支払わなければならないかどうかの話です。つまり,使用者が破産した場合の問題です。