
免責不許可事由の1つに,「破産法第40条第1項第1号,第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと」があります。
破産法では、破産者に対し、破産管財人等に対する説明義務(破産法40条1項1号)、重要財産開示義務(破産法41条)、免責調査に協力する義務(破産法250条2項)などを課しています。これらの義務に違反した場合、免責不許可事由に該当します。
免責不許可事由となる破産法上の各種義務違反行為
破産法 第252条
- 第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
- 第11号 第40条第1項第1号、第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
自己破産をする最大の目的は、裁判所に免責を許可してもらうことです。免責が許可されると、借金の支払義務がすべて免除されます。借金を支払わなくてもよくなるということです。
もっとも、自己破産を申し立てたからといって、必ず免責が許可されるとは限りません。破産法252条1項各号に列挙された免責不許可事由がある場合には、免責が不許可とされることもあり得ます。
破産法252条1項11号によれば,破産法40条1項1号,41条,250条2項など破産法に定められている義務に違反する行為をした場合には,免責不許可事由となるとされています。
破産法で定められている義務に違反する行為をした者にまで免責を与えるべきではないことは言うまでもないでしょう。そのため,免責不許可事由とされているのです。。
破産法上の義務違反
前記のとおり,破産法上の各種義務に違反した場合,免責不許可事由となります。
破産法40条1項1号の義務
破産法 第40条
- 第1項 次に掲げる者は、破産管財人若しくは第144条第2項に規定する債権者委員会の請求又は債権者集会の決議に基づく請求があったときは、破産に関し必要な説明をしなければならない。ただし、第5号に掲げる者については、裁判所の許可がある場合に限る。
- 第1号 破産者
第40条第1項第1号の義務とは,破産管財人等に対して破産に関する必要な説明をしなければらない破産者の義務です。「破産者の説明義務」と呼ばれています。
破産者は,破産管財人等から,なぜ破産するに至ったのか,財産状況はどうなっているのかなどの説明を求められた場合には,これに回答する義務があるということです。
これに回答しなければ,免責不許可事由になります。
なお,裁判所の調査に対して説明を拒絶または虚偽の説明をした場合には,破産法252条1項8号によって免責不許可事由となります。
破産法41条の義務
破産法 第41条
- 破産者は、破産手続開始の決定後遅滞なく、その所有する不動産、現金、有価証券、預貯金その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない。
第41条の義務とは「破産者の重要財産開示義務」です。
破産者は,所有する不動産・現金・有価証券・預貯金など裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出して,重要財産を開示しなければならない義務を負っています。
自己破産申立ての時点で,申立書に資産目録を添付して提出するのが通常ですので,破産手続開始決定後に,財産に変動がなければ,別途提出を求められることはありませんが,裁判所や破産管財人から,新たな財産の開示などを求められれば,それに応じる必要が生じます。
この重要財産開示義務に違反すれば,免責不許可事由となります。
破産法250条2項の義務
破産法 第250条
- 第1項 裁判所は、破産管財人に、第252条第1項各号に掲げる事由の有無又は同条第2項の規定による免責許可の決定をするかどうかの判断に当たって考慮すべき事情についての調査をさせ、その結果を書面で報告させることができる。
- 第2項 破産者は、前項に規定する事項について裁判所が行う調査又は同項の規定により破産管財人が行う調査に協力しなければならない。
破産法250条1項は、裁判所は、破産管財人に,免責不許可事由(破産法252条1項各号)の有無、裁量免責(破産法252条2項)するかどうかの判断に当たって考慮すべき事情について調査させることができると規定しています。
そして、破産法250条2項では、破産者は、この裁判所または破産管財人による免責に関する調査に協力しなければならない義務があると規定しています。「破産者の免責調査協力義務」と呼ばれています。
破産者が免責調査に協力しなければ,やはり免責不許可事由になります。
その他破産法上の義務
上記3つの義務が代表的な破産法上の義務ですが,その他にも破産法で定める義務に違反した場合すべてが,この破産法上の義務違反として免責不許可事由となります。
免責不許可事由としての重大性
仮に免責不許可事由があったとしても,今までの生活を反省して,生活を立て直そうと真摯な努力をし,破産手続に協力していけば,裁量免責を受けることができます。
しかし,これは逆に言うと,破産手続に協力しない人には免責は与えられないということです。
破産法上の各種義務に違反するということは,破産・免責手続に協力しないということですから,それらの義務違反行為は,免責不許可事由に当たる上に,さらに裁量免責も認められくなってしまう可能性が高いといえます。
したがって,破産法上の義務に違反する行為をすることは,自己破産をするにあたって,最もしてはならない行為といってよいでしょう。