
免責不許可事由の1つに,「虚偽の債権者名簿(第248条第5項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第1項第6号において同じ。)を提出したこと」があります。
例えば、家族、親戚、友人、勤務先、取引先などだけ債権者名簿や債権者一覧表から外して提出すると、この免責不許可事由に該当し、免責が許可されないことがあります。ただし、裁判所の裁量によって免責が許可されることはあります。
免責不許可事由となる虚偽の債権者一覧表等の提出
破産法 第252条
- 第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
- 第7号 虚偽の債権者名簿(第248条第5項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第1項第6号において同じ。)を提出したこと。
自己破産をする最大の目的は、裁判所に免責を許可してもらうことです。免責が許可されると、借金の支払義務がすべて免除されます。借金を支払わなくてもよくなるということです。
もっとも、自己破産を申し立てたからといって、必ず免責が許可されるとは限りません。破産法252条1項各号に列挙された免責不許可事由がある場合には、免責が不許可とされることもあり得ます。
破産法252条1項7号は、虚偽の債権者名簿や債権者一覧表を裁判所に提出することは免責不許可事由に該当すると規定しています。「虚偽の債権者名簿等提出行為」と呼ばれる免責不許可事由です。
破産法は,あくまで債権者に対する配当等を適正に行うことを主たる目的としています。無論,破産者の経済的更正も重要な目的ですが,やはり第一の目的は各債権者に対する適正・公平な配当にあります。
例えば、迷惑をかけたくないなどの理由から、家族、親戚、友人、勤務先、取引先から借入れ等をしているにもかかわらず、これらの人だけ債権者から外した債権者名簿や債権者一覧表を作成して裁判所に提出してしまうような場合が挙げられます。
債権者に関して虚偽の報告をすると,正当な債権者が破産手続に参加できず,あるいは,何の関係もない人間が債権者として配当を受けることになるなど,もっとも重大な目的である適正・公平な配当ができなくなってしまいます。
したがって,債権者について虚偽の報告をすることは,破産手続においてもっとも重大な背信的行為といえます。それゆえ,虚偽の債権者名簿を提出する行為は,免責不許可事由とされているのです。
債権者名簿・債権者一覧表
破産法252条1項7号によって免責不許可事由となる場合とは,「虚偽の」「債権者名簿」を「提出した」場合です。
「債権者名簿」とは,免責許可を申立てる際に提出する債権者全員の名称等を記載した名簿のことをいいます。
この債権者名簿は,破産手続開始申立ての際に提出する債権者一覧表で代用することができます(破産法248条5項)。そのため,債権者一覧表で代用していた場合には、虚偽の債権者一覧表を提出した場合に免責不許可事由となります。
個人の自己破産の場合、破産手続開始と免責許可の申立ては同時にされます。提出するのも、債権者一覧表だけでよく、別途債権者名簿を提出する必要はないとされているのが通常です。
したがって,個人破産において破産法252条1項7号が問題になるとすれば,債権者名簿の虚偽性ではなく,債権者一覧表の虚偽性ということになるでしょう。
虚偽の意味
前記の債権者名簿または債権者一覧表について,虚偽のものを提出した場合には,免責不許可事由となります。
「虚偽」とは,単にうっかりして一部の債権者を書き忘れてしまったような場合は含みません。
積極的に債権者に迷惑をかけてやろうというつもりで,ある債権者だけ申告しなかったり,架空の債権者を申告したことによって,債権者名簿・一覧表全体が真実とはかけ離れたものになってしまっているようなひどいものであった場合を,虚偽といいます。
そして,このような虚偽の債権者名簿・債権者一覧表を,真実のものであるかのようにみせて裁判所に「提出した」場合に,免責不許可事由となるのです。
虚偽債権者一覧表等の提出に関するよくある事例
この虚偽の債権者一覧表等提出行為に抵触するおそれがあるものとしてよくある事例が,家族、親族、友人、勤務先、取引先には迷惑をかけたくないから,その人たちから借入れをしていたとしても,その人たちだけ債権者一覧表に載せないでおくというものです。
つまり,裁判所に内緒で,家族や勤務先などにだけは返済していこうとしてしまうということです。
心情的には分かるのですが,言うまでもなく,このような行為は破産手続においては許されないことですので,気をつけてください。
裁量免責の可能性
破産法 第252条
- 第2項 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
前記のとおり,虚偽の債権者名簿または債権者一覧表を裁判所に提出すると,免責不許可事由に該当してしまいます。したがって、原則として免責は許可されません。
しかし、常に免責不許可となるわけではありません。裁判所が、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」には、免責許可されることもあります。これを裁量免責と言います(破産法252条2項)。
虚偽の債権者名簿・債権者一覧表を提出してしまったとしても、あらためて虚偽のない債権者名簿・債権者一覧表を提出し、真摯に反省して、破産手続に協力すれば、裁量免責の可能性はあります。