この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

借金も貸主側から見れば貸金請求権という債権ですから、時効により消滅する場合があります。消滅時効が完成するまでの期間は、「権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から10年間」のいずれか早い方です(民法167条1項)。
貸金業者や銀行からの借金の場合、時効の更新(中断)がされていない限り、「返済期限の日から5年間」返済をしなかったときには、時効により消滅すると考えておけば足りるでしょう。
消滅時効の援用とは
民法 第166条
- 第1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
- 第1号 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
- 第2号 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
債権は、一定期間が経過すると時効によって消滅します。つまり、その債権はもはや回収できなくなるということです。債務者の側からいえば、もはやその債権に基づく支払いをしなくてよくなるということです。
この法制度のことを「消滅時効」といいます(民法166条1項)。
借金も、金銭消費貸借契約に基づく債権・債務です。したがって、やはり一定期間の経過によって時効消滅することになります。そのため、借金の整理のために消滅時効の援用という方法をとる場合があります。
この債権の消滅時効期間は、民法改正により、以下のいずれかのうちの早い方となりました。
- 権利を行使することができることを知った時から5年間
- 権利を行使することができる時から10年間
貸金業者等からの借入れの場合の消滅時効期間
かつては、商事債権について通常よりも短い消滅時効期間とする定めがありましたが、民法改正に伴い、現在は廃止になっています。
そのため、現在では、貸金業者からの借入れであっても、そうでない借入れであっても、消滅時効の期間は、前記のとおり、「権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から10年間」のいずれか早い方ということになります。
もっとも、貸金業者や銀行などは貸付のプロです。
自ら貸付けの条件や返済スケジュールを設定し、返済の有無も管理しています。「権利を行使することができる時」が来れば、そのことをすぐに知ることができる体制を構築しています。
したがって、貸金業者や銀行などからの借入れの場合は、特別な事情の無い限り、貸金業者等が「権利を行使することができることを知った」のはいつなのかを考える必要はないでしょう。
つまり、特別な事情の無い限り、「権利を行使することができる時」=「権利を行使することができることを知った時」と考えれば足りるということです。
そうすると、貸金業者や銀行などからの借入れについては、「権利を行使することができる時」=「権利を行使することができることを知った時」から「5年」で時効により消滅すると考えることになります。
なお、ヤミ金などに対しては、お金を返す必要はありません。ヤミ金の場合には貸付行為自体が違法無効なので、交付されたお金については返還する必要がないからです。あえて消滅時効を援用する必要もないのです。
消滅時効期間の起算点
消滅時効の期間は「権利を行使することができる時」またはそれを「知った時」を起算点としてスタートします。
「権利を行使することができる時」がどの時点かは、期限の定めがあるのか否かによって異なります。
期限の定めがある場合は、その期限到来時が「権利を行使することができる時」となります。他方、期限の定めがない場合には、債権成立時が「権利を行使することができる時」となります。
とはいえ、貸金業者や銀行からの借金の場合、返済期限を定めていないものなど、まず考えられません。
したがって、貸金業者等からの借金については、返済期限の日から消滅時効の期間が開始されると考えておけば足ります。
時効の更新(中断)に注意
前記のとおり、貸金業者等からの借金については、返済期限の日から5年間が時効期間となるのが通常です。ただし、その5年間の途中で時効が更新されている場合には、その限りではありません。
債権者(貸主)は、時効によって権利が消滅してしまわないようにするため、「時効の更新」(改正前は「時効の中断」と呼ばれていました。)の措置をとることができます(民法147条2項)。
時効が更新される事由としては、債務の返済、確定判決を取得されていることや債権者との間で支払いを認める示談・和解をしていることなどが挙げられます。
時効が更新されると、それまで進行していた時効期間はすべてリセットされ、時効更新の時から再スタートになってしまいます。
したがって、返済期限の日から5年間を経過していたとしても、その5年間の途中で時効が更新されていた場合には、時効が完成していないことになります。
借金について消滅時効を援用しようという場合には、時効の更新(中断)がされていないかどうかをよく確認しておく必要があります。
令和2年(2020年)3月31日以前の借入れの場合
これまでの話は、現行の改正後民法におけるものです。現行の改正後民法は令和2年(2020年)4月1日から施行されています。
この令和2年4月1日よりも前(令和2年3月31日以前)に発生した債権の消滅時効期間は、改正前の例によるとされています(改正民法附則10条4項)。
したがって、令和2年3月31日以前に借り入れをした場合、その借金の消滅時効期間は、改正前の規定に従うことになります。
具体的に言えば、「権利を行使できる時」から10年間が原則で、貸金業者や銀行などから借金の場合は5年間となります。
改正前は、「権利を行使することができることを知った時」という起算点はありませんでしたので、貸金業者等からの借入れの場合は、単純に、返済期限日から5年間を消滅時効期間と考えればよいことになります。
借金の消滅時効期間のまとめ
貸金業者などからの借金の消滅時効期間は、2020年(令和2年)4月1日より前か後かにかかわらず、時効更新されていない限り、「返済期限日から5年」です。
時効更新されないまま、すでに返済期限日から5年を経過している場合には、消滅時効の援用が可能です。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
弁護士・司法書士に依頼する必要はあるのか?
借金の消滅時効を援用することは、難しくありません。債務者自身で行うことも可能です。
とは言え、自分で行うのは不安、貸金業者の担当者とやり取りをするのが煩わしいということもあるでしょう。
また、自分の気づかないうちに判決を取られていたことなどによって時効になっていなかった場合、通知を送ることで、ヤブヘビになってしまうこともあり得ます。
確実に時効になっているのかを確認した上で消滅時効の援用するために、弁護士や司法書士に消滅時効援用を依頼するのも一つの方法です。
なお、行政書士にはそもそも代理権が認められていません。したがって、依頼するのであれば、弁護士か司法書士になります。また、借金額が140万を超える場合には、司法書士の権限外になるため、弁護士に依頼する必要があります。
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本サイトでも債務整理について解説していますが、より深く知りたい方のために、債務整理の参考書籍を紹介します。
クレジット・サラ金処理の手引き(6訂版)
編著・出版:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会
東京の三弁護士会による債務整理・クレサラ事件処理全般についての実務書。債務整理全般を1冊でまとめている実務書は意外と少ないので、債務整理を知るにはちょうど良い本です。
債務整理事件処理の手引: 生活再建支援に向けて
編集:日本司法書士会連合会 出版:民事法研究会
債務整理全般について、実務の基本的処理をまとめた本。債務整理全般を知るにはちょうど良い本です。
消滅時効援用の文例・書式(忘れたころに借金の請求が来たときに読む本)
著者・出版:相模川法律事務所
電子書籍。本と言っても、消滅時効援用の文例・書式だけを記載した電子書籍です。金額は100円です。