この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

どの裁判所に提起すべきかの問題を裁判管轄の問題といいます。
過払金返還請求の場合、請求金額が140万円以下の場合は、自分の住所地を管轄する簡易裁判所、または、相手方貸金業者の本店所在地または取引支店・営業所所在地を管轄する簡易裁判所に訴訟提起することになります。
請求金額が140万円を超える場合は、自分の住所地を管轄する地方裁判所の本庁または支部、あるいは、相手方貸金業者の本店所在地または取引支店・営業所所在地を管轄する地方裁判所の本庁または支部に訴訟提起することになります。
裁判の管轄
どの裁判所に,どのような事件の訴訟を提起すればよいのかは,すべて法律で定められています。過払い金返還請求訴訟も同様です。
このどの裁判所に訴えを提起すべきかの問題のことを「裁判管轄」の問題といいます。この裁判の管轄には,2つのものがあります。
1つは「事物管轄」と呼ばれる管轄です。これは,第一審を担当する裁判所を簡易裁判所と地方裁判所のどちらにするかの管轄です。
もう1つは,「土地管轄」と呼ばれる管轄です。これは、どの地域にある裁判所に訴え提起するのかの管轄です。
事物管轄がどの種類の裁判所に提起すべきかの問題であるのに対し,土地管轄の問題は,物理的にどの地域にある裁判所に訴訟提起をするべきかの問題になります。
過払い金返還請求訴訟の事物管轄
それでは,過払い金返還請求はどの裁判所に訴訟提起すればよいのでしょうか?
まず事物管轄は、請求する金額に応じて異なります。
具体的に言うと、請求金額が140万円以下の場合には簡易裁判所に,140万円を超える場合には地方裁判所に事物管轄があることになります。
なお,過払い金返還請求における請求金額は,過払い金の元本金額(損害賠償も請求する場合はその賠償金額の元本金額を加えた金額)のことと捉えるのが通常です。
過払い金の利息や遅延損害金(損害賠償も請求する場合はその損害賠償の遅延損害金も同様。)は、請求金額に加算しません。
例えば,過払い金元本額が130万円で,過払い金の利息金額が20万円であった場合,合計すれば150万円です。
しかし、上記のとおり、利息金額は考慮にいれないので、この場合の請求金額は元本額の130万円となり、事物管轄は簡易裁判所にあることになります。
過払い金返還請求訴訟の土地管轄
次に土地管轄ですが,土地管轄は,原則として被告の「普通裁判籍」のある地域を管轄する裁判所に土地管轄があることになります。
普通裁判籍とは,被告(請求されている人)が個人の場合であれば被告の住所地,被告が法人であれば被告の主たる事務所(本店所在地)または営業所の所在地です。
ただし,普通裁判籍以外に「特別裁判籍」もあります。
この特別裁判籍の1つに,財産権上の訴えの場合における義務履行地があります。財産権上の訴えの場合、普通裁判籍のほか、義務履行地を管轄する裁判所にも土地管轄が認められます。
過払い金返還請求権は,法的に言うと,不当利得返還請求権です。財産上の請求であることは間違いありません。
そして,この不当利得の返還については,利得した受益者が損失者の住所地において返還すべき義務を負っています。現実的には銀行振込等で返還されるとしても関係はありません。
つまり,過払い金返還債務の義務履行地は,消費者(過払いを請求する側の人)の住所地になります。
したがって,過払い金返還請求の場合には,特別裁判籍として,原告(過払いを請求する側の人)の住所地を管轄する裁判所も土地管轄が認められることになります。
過払い金返還請求の場合は,相手方貸金業者の本店所在地や取引をしていた営業所の所在地を管轄する裁判所だけでなく,原告の住所地を管轄する裁判所も管轄として認められるのです。
過払金返還請求訴訟の管轄(まとめ)
まとめると,過払い金返還請求訴訟の管轄は以下のようになります。
- 過払金の額が140万円以下の場合
自分の住所地を管轄する簡易裁判所(または,相手方貸金業者の本店所在地または取引支店・営業所所在地を管轄する簡易裁判所) - 過払金の額が140万円を超える場合
自分の住所地を管轄する地方裁判所の本庁または支部(あるいは,相手方貸金業者の本店所在地または取引支店・営業所所在地を管轄する地方裁判所の本庁または支部)
なお、具体的な裁判所の土地管轄を知りたい場合は、以下のページをご確認ください。

