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貸金業者の悪意の受益者推定を認めた最高裁判所第二小法廷平成19年7月13日判決(平成18年(受)第276号)とは?

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利息制限法の制限超過利息の受領につきみなし弁済が適用されない場合,その貸金業者は悪意の受益者と推定されるとした判例として,最高裁判所第二小法廷平成19年7月13日判決(平成18年(受)第276号事件)があります。

最二小判平成19年7月13日(平成18年(受)第276号)の事案

最高裁判所第二小法廷平成19年7月13日(最二小判平成19年7月13日・平成18年(受)第276号事件・集民第225号103頁)の事案は、過払金返還請求の事案です。

過払い金返還請求権の性質は、不当利得返還請求です。

したがって、利得者が悪意の受益者に当たる場合には、その不当利得である過払金の元本全額に加えて、それに対する利息も請求できることになります(民法703条、704条)。

過払い金返還請求の場面においては,相手方である貸金業者が悪意の受益者といえるのかどうかが,過払金の利息を請求できるかどうかの分水嶺となります。

悪意の受益者性とみなし弁済

貸金業者が悪意の受益者と言えるかどうかについては、みなし弁済が関わってきます。

みなし弁済とは、利息制限法の制限利率を超える本来無効な利息を受け取った場合でも、旧貸金業規制法で定める要件を満たす場合には、有効な弁済として受け取ることができるという制度です(現在はすでに廃止されています。)。

このみなし弁済は、最二小判平成18年1月13日によって、事実上、適用されることがほとんど認められなくなっていました。したがって、本事例でもみなし弁済は当然認めらていません。

しかし、貸金業者側は、このみなし弁済を悪意の受益者でないことの理由付けとして利用するようになっていました。

具体的には、実際にみなし弁済が認められないとしても、取引の当時、みなし弁済が適用されるものと認識しており、過払金返還することを認識していなかったから、悪意の受益者ではないという理由付けとして利用されているのです。

本判例における借主(消費者)側の主張

みなし弁済が適用されるためには、貸金業者は、返済を受けるごとに、旧貸金業規制法(現在の貸金業法)18条所定の事項を記載した書面(18条書面)を借主に交付しなければならないとされていました。

しかし、本件の事案では、返済を受ける前にあらかじめ、各回の返済期日、各回の返済金額、その元本・利息の内訳、融資残額を記載した償還表を交付していたものの、18条書面は交付していませんでした。

そこで、上記貸金業者側の主張に対し、借主(消費者)側は、18条書面の交付がなく、みなし弁済は適用されないと認識していたはずであるから、過払金を返還しなければならないことも認識していたはずであり、悪意の受益者であると主張しています。

本判例における貸金業者側の反論

上記借主側の主張に対し、貸金業者側は、18条書面の代わりに償還表を交付しており、取引の当時、18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に知らせているなどの場合にはみなし弁済が適用されるとの見解があったことから、みなし弁済が適用されると信じるに至ったことについてやむを得ない「特段の事情」があったため、悪意の受益者ではないと反論しています。

要するに、18条書面を交付しなくてもみなし弁済は適用されるという見解があったので、それを信じて18条書面を交付せずに、代わりに償還表を交付していたから、みなし弁済が適用されると信じるに至ったことについてやむを得ない特段の事情があると主張したのです。

原審(東京高等裁判所平成17年10月27日判決)の判断

この判決の原審(東京高等裁判所平成17年10月27日判決)は、貸金業者側の主張を認めました。

すなわち、18条書面に代わる償還表が交付されており、貸金業者においてみなし弁済が適用されると信じるに至ったやむを得ない特段の事情があったと言えるので、貸金業者が悪意の受益者であったとは言えず、過払金の利息は発生しないと判示したのです。

この原審に対して借主側が上告したのが、最二小判平成19年7月13日(平成18年(受)第276号)です。

本判例は、18条書面を交付しなくてもみなし弁済の適用があると信じるに至ったことについてやむを得ない特段の事情はなく、貸金業者が悪意の受益者であるとの推定を覆すことはできないとして、貸金業者が悪意の受益者であると判示しました。

※なお,同日に同じ第二小法廷から同じく過払い金の利息に関する別判例(平成17年(受)第1970号事件・民集61巻5号1980頁)があります。

悪意の受益者の推定に関する判断

貸金業者を悪意の受益者と推定することについて、最二小判平成19年7月13日(平成18年(受)第276号)は、以下のとおり判示しています。

金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は,その 超過部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。

これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には18条書面を交付しなかったというのであるから,これらの本件各弁済については貸金業法43条1項の適用は認められず,被上告人は,上記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であることが推定されるものというべきである。

引用元:裁判所サイト

利息制限法の制限超過部分は,まず元本に充当され,計算上元本が完済となった後は,貸金業法43条1項(みなし弁済)が適用される場合を除いて,過払い金として返還しなければなりませんが,そのことを,貸金業者が認識していないはずはありません。

上記判例は,そのことを明らかにした上で,貸金業者が制限超過利息を受領したもののみなし弁済が適用されない場合は、「みなし弁済の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情」があるときでない限り、原則として,当該貸金業者は悪意の受益者と推定されると判示しました。

本件では、貸金業者は18条書面を交付していないので、みなし弁済の適用はありません。したがって、本件貸金業者は悪意の受益者であると推定されると判示しました。

「特段の事情」に関する判断

悪意の受益者として推定されるということは、消費者側としては,相手方が貸金業者であること,その貸金業者が利息制限法の制限超過部分を受領したことを主張・立証すれば足りるということです。

そして、この推定を覆すためには、貸金業者側で「みなし弁済の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情」があることを主張・立証する必要があります。

この「特段の事情」の有無について、最二小判平成19年7月13日(平成18年(受)第276号)は、以下のとおり判示しています。

平成11年判決は,制限超過部分の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされる場合について,貸金業法43条1項2号が18条書面の交付について何らの除外事由を設けていないこと,及び債務者は18条書面の交付を受けることによって払い込んだ金銭の利息,元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができることを理由に,上記支払が貸金業法43条1項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには,特段の事情がない限り貸金業者は上記払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと判示したものである。

被上告人は,上告人に対し,償還表を交付したと主張しているが,この償還表は,本件各貸付けの都度上告人に交付されるもので,約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載したものであるというのであるから,上記償還表に各回の返済金額の元本・利息の内訳が記載されていたからといって,実際に上記償還表に記載されたとおりの弁済がされるとは限らないし,払い込まれた弁済金が上記償還表に記載されたとおりに,利息,元本等に充当されるとも限らない。したがって,平成11年判決の上記説示によれば,貸金業法43条1項の適用が認められるためには,上記償還表が交付されていても,更に18条書面が交付される必要があることは明らかであり,上記償還表が交付されていることが,平成11年判決にいう特段の事情に該当しないことも明らかというべきである。なお,平成16年判決は,債務者が貸金業者から各回の返済期日の前に貸金業法18条1項所定の事項が記載されている書面で振込用紙と一体となったものを交付されている場合であっても,同項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできないとしたものであり,被上告人が交付したと主張する上記償還表のような貸付けに際して貸金業者から債務者に交付される書面について判示したものではない。

そうすると,少なくとも平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには,平成11年判決以後,上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり,上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することはできない。

したがって,平成16年判決までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたというだけで被上告人が悪意の受益者であることを否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

引用元:裁判所サイト

本判例は、本件貸金業者には「みなし弁済の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情」がないと判断しました。

平成11年判決の解釈

上記判決文における「平成11年判決」とは、最高裁判所第一小法廷11年1月21日判決のことです。

この平成11年判決は、特段の事情のない限り、貸金業者は上記払込みを受けたことを確認した都度、直ちに、18条書面を債務者に交付しなければならないと判示しています。

この判決からすると、特段の事情がある場合には、払い込みを受けるたびに直ちに18条書面を交付する必要はないということになります。

そこで、貸金業者側は、返済計画を記載した償還票をあらかじめ交付しているので、平成11年判決における特段の事情があり、18条書面を交付しなくてもみなし弁済の適用があったと主張しました。

しかし、最二小判平成19年7月13日(平成18年(受)第276号)は、償還表が交付されていたとしても、それどおりに支払がされ、元本や利息に充当されるかどうかは分からない以上、平成11年判決における特段の事情はなく、18条書面の交付が必要なことに変わりはないとして,貸金業者側の主張を退けました。

平成16年判決の解釈

上記判決文における「平成16年判決」とは、最高裁判所第二小法廷平成16年2月20日判決(民集58巻2号380頁)です。

この平成16年判決は、18条書面は、返済前ではなく、返済後ただちに交付されなければならないと判示したものです。

そのため、平成16年判決は、償還表のような貸付けに際して貸金業者から債務者に交付される書面について判示したものではないとして、平成16年判決を根拠とする原審の判断を否定しています。

本判決における「特段の事情」

上記を前提に、最二小判平成19年7月13日(平成18年(受)第276号)は、「平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項(みなし弁済)の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情」の有無について判断しています。

そして、上記特段の事情があったと言うためには、「平成11年判決以後、上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか、上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要」であるとしました。

その上で、単に、償還表を交付していれば18条書面を交付しなくてもみなし弁済の適用があるとの認識に一致する見解があったというだけでは、特段の事情があったとは言えないとして、原審判決を排斥しました。

最二小判平成19年7月13日(平成18年(受)第276号)以降の変遷

最二小判平成19年7月13日(平成18年(受)第276号)は、同日の判決(平成17年(受)第1970号)とともに,消費者側に非常に有利な判決でした。

そのため,これらの判決以降,しばらくの間,貸金業者側から悪意の受益者を争ってくることはかなり減少していました。

しかし,その後,平成18年1月13日以前は,相手方が貸金業者であるというだけでは悪意の受益者と推定することができないという判例(最二小判平成21年7月10日)が出されました。

そのため,再び貸金業者側が悪意の受益者性を争ってくるようになりました。

現在では,必ずと言っていいほど,悪意の受益者性を争ってくるようになっています(ただし,悪意の受益者ではないという判断をした裁判例は多くありません。)。

もっとも,平成18年1月13日より前とそれ以降で分けて考える必要があります。

まず,平成18年1月13日以降については,単に期限の利益喪失特約下で制限超過利息を受領したということだけでは,悪意の受益者と推定されることはありません。

したがって,貸金業者において支払の任意性以外のみなし弁済の要件を満たしていたかどうかが問題となってきます。

他方,平成18年1月13日より前については,前記最二小判平成19年7月13日民集61巻5号1980頁がそのまま使えるということになりますから,貸金業者が制限超過利息を受領したことを立証するだけで,悪意の受益者と推定されることになります。

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