
貸金業者が民法704条の「悪意の受益者」に該当する場合、過払い金(過払金)に利息をつけて返還請求することができます。
過払い金(過払金)の利息
過払金それ自体にも利息が付きます。したがって,過払金返還請求する際には過払金の利息も忘れずに請求する必要があります。
過払い金(過払金)の返還を請求できる法的な根拠は,不当利息返還請求権にあります。つまり,過払い金が貸金業者にとって不当な利得であるから返還を請求できるということです。
不当利得は,受益者(利益を受領した人)が善意である場合,現存利益の返還を請求できるにすぎないのが原則です(民法703条)。善意とは,受領した利益が法律上の原因がないものであることを知らないという意味です。
しかし,利得者が「悪意の受益者」であるといえる場合には,現存利益のみならず,受け取ったすべての不当利得に利息をつけて返還しなければならないとされています(民法704条)。
過払い金返還請求の場合も同様です。貸金業者が悪意の受益者である場合には,過払い金の全額に利息をつけて返還するように請求することができるのです。
不当利得返還請求権における「悪意」とは,その利得が法律上の原因のないものであることを知っていることを意味します。
これを過払金返還請求の場合に当てはめると,過払い金返還請求における悪意とは,受領した金銭(過払い金)が,利息制限法所定の制限利率を超える利息であり,本来受け取る理由がないものであることを知っていたことということになります。
貸金業者は「悪意の受益者」か?
貸金業者に対して過払金に利息をつけて返還するように請求できるかどうかは,その貸金業者が悪意の受益者といえるのかどうかが問題となってくるということになります。
過払い金とは,そもそもは利息制限法の制限利率を超える利息です。貸金業者が利息制限法という法律に違反して受け取っていた利息を元本に充当し,計算上元本完済になった後も支払っていた金銭が過払い金です。
貸金業者は,その道のプロです。利息制限法の制限利率を知らなかったわけがありません。
そうであるとすれば,その利息制限法の制限利率を超える利息である過払い金は,消費者に返さなければならないものであることも,知らなかったはずはないのです。
したがって,貸金業者が善意者であるはずはなく,常に悪意の受益者である,と考えるのが自然でしょう。
しかし,残念ながらそう簡単はいかない部分があります。それは,後述するとおり,みなし弁済という制度と関係してきます。
悪意の受益者とみなし弁済
現在では廃止されていますが,かつて貸金業規制法(現在の貸金業法)には,みなし弁済という制度がありました。
これは,旧貸金業規制法43条1項に定める要件を満たしている場合には,利息制限法の制限超過利息を受領した場合であっても,適法な利息の受領とみなしてしまうという制度です。
つまり,利息制限法違反があっても,過払い金を返還しなくてよくなってしまうというものでした。
しかし,みなし弁済自体は廃止されたものの,貸金業者は,廃止後も,少なくとも廃止されるまではみなし弁済の適用があったのであるから,それまでは利息制限法の制限超過利息を受け取ることに法律上の原因があったといえるので,悪意の受益者には当たらないと主張していました。
みなし弁済の適用については,貸金業法が改正されてみなし弁済の規定が廃止される以前からすでに,最高裁判所の判例(最三小判平成18年1月13日)によって否定されており,実質的にみなし弁済の適用される場合はほとんど無いという判断がなされています。
したがって,制度廃止前であってもみなし弁済が適用されることはほとんどなかったということになりますから,貸金業者が主張するような「みなし弁済が適用されていたから悪意の受益者ではない」という主張も,ほとんど認められることはないといえます。
最高裁判所第二小法廷平成19年7月13日判決
そこで,貸金業者側は,その次の主張として,みなし弁済の適用はなかったかもしれないが,みなし弁済が適用されると認識していたし,そのように認識してもやむを得ない事情があったから,制限超過利息を受け取ることについて法律上の原因があり,悪意の受益者ではないという主張をしてくるようになりました。
最高裁判所第二小法廷平成19年7月13日判決(民集第61巻5号1980頁),以下のように判示して,上記貸金業者の主張も排斥しました。
貸金業者は、同項の適用がない場合には、制限超過部分は、貸付金の残元本があればこれに充当され、残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると、貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には、当該貸金業者は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
推定とは,法的にいえば,立証責任を転換するということです。
つまり,原則として貸金業者は悪意の受益者であるとした上で,ただし,貸金業者の側でみなし弁済の適用があったと認識していたこと及びそう認識したとしてもやむを得ない特段の事情があったことを立証した場合に限り,例外的に悪意の受益者ではないと認めると判断したのです。
上記特段の事情を立証して推定を覆すのは,至難の業です。したがって,現実的には,貸金業者は悪意の受益者であると判断した,といってよいくらいの判例です。
つまり,特段の事情のない限り,貸金業者は,貸金業者であるというだけで,悪意の受益者であると認められるということです。
この判例を基礎とするならば,貸金業者に対して過払金の利息を請求するためには,その業者が貸金業者であること(または,あったこと)を主張立証すればよいだけということになります。
最高裁判所第二小法廷平成21年7月10日判決
しかし,前記最二小判平成19年7月13日以降も,この過払い金の利息・悪意の受益者性については,多くの判例が出されてきました。
そのうちで,悪意の受益者性に関し,貸金業者との争いを激化させたといわれる判例が, 最高裁判所第二小法廷平成21年7月10日判決です。平成21年判例は,以下のように判示しています。
平成18年判決が言い渡されるまでは、貸金業者において、期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり、貸金業者が上記認識を有していたことについては、平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。したがって、平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については、これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない。
ここでいう平成18年判決とは,先に挙げた第二小法廷平成18年1月13日判決のことです。
同判例は,期限の利益喪失約款による利息制限法の制限超過利息の支払い強制のある状況下では,仮に制限超過利息を支払ったとしても,その支払いに任意性は認められず,したがってみなし弁済は成立する余地がないという判決です。
貸金業者は,利息制限法の制限超過利息も含めて支払いを怠った場合には,期限の利益が失われ,残額を一括して支払わなければならないという条項を契約書に記載しているのが通常です。
もっとも、期限の利益喪失条項が定められている状況では、例え利息制限法違反があっても、債務者としては支払わざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
そこで、仮に制限超過利息を支払ったとしても、債務者が任意に支払ったものではなく強制的に支払わされたようなものなので、支払いの任意性というみなし弁済の要件を満たさず、したがって、みなし弁済は成立しないというものです。
期限の利益喪失約款を定めずに貸付けを行う貸金業者は現実的にはほとんどいませんから,この平成18年判例は実質的にみなし弁済の適用の余地がないことを明らかにした画期的判決であるといわれています。
ところが,平成21年判例は,この平成18年判例が出されるまでは,貸金業者としても,まさかみなし弁済の適用がなくなるとは考えていなかったはずであるから,少なくとも平成18年判例が出された平成18年1月13日までは,単に貸金業者であるというだけでは悪意の受益者とは認められないという判断をしたのです。
そのため,現在では,平成18年1月13日以前については,単に貸金業者であるというだけでその貸金業者を悪意の受益者と認めることはできないという運用になってしまっています。
この判決以降,貸金業者は,再び全面的に悪意の受益者性を争うようになってしまいました。現在では,ほとんどすべての貸金業者が,程度の差はあれ,悪意の受益者性を争ってくるようになっています。
ただし,この判例は,逆に,平成18年1月14日以降の過払金の利息については,貸金業者であるというだけで利息が付けられることになるということを確定させたとも言えるでしょう。
平成23年12月における3つの最高裁判例
前記平成21年判例以降,平成18年1月13日以前の取引については,貸金業者が悪意の受益者ではあったことを消費者側で主張立証していかなければならなくなりました。
この点について,平成23年12月に,以下の3つの最高裁判決が出されています。
- CFJに対する最一小判平成23年12月1日(平成23年(受)第307号事件)
- プロミスに対する最一小判平成23年12月1日(平成23年(受)第407号事件)
- アコムに対する最一小判平成23年12月15日
この3つの判決はいずれも、貸金業法17条に定める書面(17条書面)に法定記載事項をすべて記載していたといえないので、みなし弁済が適用されると認識したとしてもやむを得ない特段の事情はないから、上記各貸金業者は平成18年1月14日よりも前の取引についても悪意の受益者であったと判断しました。
この3つの判例により,悪意の受益者性を主張立証するためには,貸金業法所定の記載事項をちゃんと記載していた17条書面と18条書面が交付されていなかったこと主張立証すればよい,ということがはっきりしたことになります。
実際の裁判における状況
前記のとおり,悪意の受益者性(特に平成18年1月13日以前の取引)を主張立証するためには,貸金業法所定の記載事項をちゃんと記載していた17条書面と18条書面が交付されていなかったこと主張立証することになります。
もっとも,手持ち資料の少ない消費者側で,貸金業者の悪意の受益者性を完全に立証するのは,ほとんど不可能といってよいでしょう。
前記平成21年判例からすると,貸金業者が悪意の受益者であることを消費者側が主張立証しなければならないということになりますが,すべての主張立証責任を消費者側に負わせるのは不公平です。
そのため,実際の裁判では,まずは貸金業者側が,みなし弁済の適用があったと認識していたこと及び認識したとしてもやむを得ない事情を主張立証し,それに対して消費者側が反論をしていくという形で進んでいくのが一般的でしょう。
具体的には,消費者側の手持ち資料があるのであれば,それに基づいてできる限り悪意の受益者性を主張立証し,それとともに,貸金業者に対して,資料の開示を請求します。
資料の開示とは,つまり,これまでの取引においてみなし弁済の適用があるかどうかが分かる資料,より具体的にいえば,全取引の17条書面と18条書面です。これらの開示を請求します。
これに対して,貸金業者側が17条書面等を開示してくれば,それをもとに悪意の受益者性の主張立証を追加していきます。
逆に,開示がなされなかった場合には,悪意の受益者ではないということについて効果的な反論がなされていないので,消費者側のある程度の主張立証に理由があるということで,その貸金業者は悪意の受益者であると認定してくれる場合が多いと思います。
ただし,裁判官によっては,実際の取引で交付された17条書面等の開示がなくても,サンプルの17条書面等が貸金業者側から提出されただけで,おそらく17条書面等の交付はなされていたであろうと推定して,特段の事情ありと認定してしまう場合もあるので,一応ある程度の主張立証はしておく必要があるでしょう。
過払い金の利息の利率
前記のとおり,貸金業者が悪意の受益者であり,過払金の利息を請求できるとして,その利息の利率をどのように考えるかが問題となってきます。
この点については,最三小判平成19年2月13日により,過払金の利息の利率は,民事法定利率の年5分(年5%)と判示されており,実務の運用もこの年5分でほぼ固まっているといってよいでしょう。
もっとも,民法改正により,令和2年4月1日以降に発生した利息の法定利率は年3%に変更されました(民法404条2項。ただし,令和2年4月1日より前に発生した利息については従前どおり年5%です。)。
したがって、令和2年4月1日以降に発生した過払金利息の利率を年3%とするのか年5%とするのかという点が問題となってきます。この点について、まだ最高裁判例はありません。
過払金の利息の発生時期
過払金の利息は,個々の返済によって過払金が生じた時から発生するのか,それともすべての取引が終了した時から発生するのかという議論があります。
しかし,実務上,個々の返済によって過払い金が発生するごとに利息も発生するという考え方がとられており,争いはないと言ってよいでしょう。
過払金利息のまとめ
前記のとおり,過払金の利息は認められることが多いと思われます。したがって,過払い金の返還を請求する場合には,年5パーセントの利息も忘れずに行うべきです。
なお、前記のとおり、令和2年4月1日以降に発生した過払金については、利息の利率を3パーセントであるという貸金業者側の主張が出されることがあります。