
個人再生手続が開始されると、住宅資金貸付債権を含む再生債権は弁済が禁止されます。しかし、住宅資金貸付債権の弁済が禁止されると、期限の利益が喪失し、遅延損害金が発生してしまいます。
そこで、裁判所は、再生債務者が再生手続開始後に住宅資金貸付債権の一部を弁済しなければ住宅資金貸付契約の定めにより当該住宅資金貸付債権の全部または一部について期限の利益を喪失することとなる場合に、住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認めるときは、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者の申立てにより、その弁済をすることを許可することができるとされています(民事再生法197条3項)。これを「一部弁済許可」といいます。
一部弁済許可を受けるためには、裁判所に対して、一部弁済許可の申立てをする必要があります。
住宅資金貸付債権の一部弁済許可とは
民事再生法 第197条
- 第3項 裁判所は、再生債務者が再生手続開始後に住宅資金貸付債権の一部を弁済しなければ住宅資金貸付契約の定めにより当該住宅資金貸付債権の全部又は一部について期限の利益を喪失することとなる場合において、住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認めるときは、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者の申立てにより、その弁済をすることを許可することができる。
個人再生において、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を定めた再生計画が裁判所によって認可されると、住宅ローンなど住宅資金貸付債権だけは減額せずに支払いを続けることができ、その結果、自宅住居を処分しないで済みます。
住宅資金特別条項を利用しようという場合、住宅ローンの支払いは従前どおりに継続しておくのが通常です(滞納している場合は別です。)。
もっとも、個人再生の手続が開始されると、再生債権は、再生計画によらなければ弁済できなくなります。
つまり、再生手続開始後は、再生計画が認可されるまで、再生債権の弁済を禁止されるのです(民事再生法85条1項)。
住宅ローンなどの住宅資金貸付債権も再生債権です。したがって、住宅ローンも弁済が禁止されるのが原則です。
しかし、住宅ローンの弁済を止めてしまうと、住宅資金特別条項の「そのまま型」が使えなくなってしまいますし、期限の利益が失われ、遅延損害金も発生してしまいます。
そこで、「一部弁済許可」という制度が用意されています。
一部弁済許可とは、裁判所は、再生債務者が再生手続開始後に住宅資金貸付債権の一部を弁済しなければ住宅資金貸付契約の定めにより当該住宅資金貸付債権の全部または一部について期限の利益を喪失することとなる場合に、住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認めるときは、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者の申立てにより、その弁済をすることを許可することができるとする制度です(民事再生法197条3項)。
住宅ローンなど住宅資金貸付債権について、裁判所により一部弁済許可を受けておけば、再生手続開始後も、住宅ローン等の弁済を継続することができるようになります。
住宅資金特別条項、特に「そのまま型」を利用しようという場合には、この一部弁済許可の申立てをしておかなければなりません。
一部弁済許可の要件
個人再生において、住宅資金貸付債権について一部弁済許可を受けるためには、以下の要件を満たしている必要があります。
- 再生債務者が再生手続開始後に住宅資金貸付債権の一部を弁済しなければ住宅資金貸付契約の定めにより当該住宅資金貸付債権の全部または一部について期限の利益を喪失することとなる場合であること
- 住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認められること
住宅ローンの契約(住宅資金貸付契約)では、債務者が住宅ローンの支払いをしなかった場合、期限の利益を喪失する旨の条項が定められているのが通常です。
したがって、再生手続開始後に住宅資金貸付債権の支払いをしなかった場合に期限の利益を喪失することになるという要件は、ほとんどの場合に満たすことになるでしょう。
住宅資金特別条項を定めた再生計画認可の見込みがあるかどうかについては、個人再生の要件や住宅資金特別条項の要件を満たしているかどうかを全体的に判断する必要があります。
一部弁済許可の手続
個人再生において、住宅資金貸付債権について裁判所から一部弁済許可を受けるためには、まず、裁判所に対して一部弁済許可の申立てをする必要があります。
一部弁済許可の申立ては、個人再生手続開始の申立てと一緒に行うのが通常です。遅くとも、個人再生手続開始の申立て後再生手続開始までの間には、一部弁済許可を申し立てなければなりません。
申立ては、一部弁済許可の申立書を裁判所に提出する方式によって行います。
多くの裁判所で一部弁済許可申立書の書式が用意されていますので、これに必要事項を記入して作成します。
一部弁済許可申立書は、正本と副本の2通を用意して、この2通を裁判所に提出することになります。
一部弁済許可の申立書が提出されると、裁判所が一部弁済許可をするかどうかを判断します。
個人再生委員が選任されている場合は、個人再生委員が一部弁済許可をすることが相当かどうかを判断して裁判所に意見書を提出し、それをもとに裁判所が一部弁済許可をするかどうかを判断します。
一部弁済許可をすることが相当と判断した場合、裁判所は、一部弁済許可をする決定をします。
一部弁済許可を得ずに住宅ローンを支払った場合
裁判所による一部弁済許可を受けないまま、住宅ローンなどの住宅資金貸付債権の支払いを続けていた場合、その支払いは、民事再生法85条1項の弁済禁止に違反することになります。
民事再生法85条1項の弁済禁止に違反する支払いは、無効です。
したがって、再生債務者は住宅ローン会社に対して、その弁済額を不当利得として返還するよう請求できることになります。この不当利得返還請求権も資産ですから、清算価値に加算されます。
ただし、実際に不当利得返還請求をすると、住宅ローン会社から支払いを滞納したものとして扱われて期限の利益喪失を主張され、住宅資金特別条項の利用に支障を生じるおそれがあります。
そのため、実際には、不当利得返還請求をしない場合が多いでしょう。ただし、その場合でも、不当利得返還請求権自体がなくなるわけではありませんので、清算価値への計上はなくなりません。
また、一部弁済許可を受けずに住宅ローン等を支払ってしまうと、民事再生法85条1項違反ですので、「再生手続が法律の規定に違反」するものとして、再生手続が廃止になってしまう可能性もあります(民事再生法230条2項、241条2項1号、174条2項1号、191条1号)。
したがって、個人再生において住宅資金特別条項を利用する場合で「そのまま型」を利用する場合には、住宅資金貸付債権について一部弁済許可を申し立てておくことを忘れないようにする必要があります。