この記事にはPR広告が含まれています。

住宅ローンが保証会社に代位弁済された後でも個人再生の住宅資金特別条項を利用できるか?

住宅資金特別条項の画像
point

住宅ローンを滞納すると、住宅ローンの保証会社が借主に代わって住宅ローン債権者に代位弁済をし、それによって、その住宅ローン債権は保証会社に移ります。

しかし、この保証会社に移った債権は「民法第500条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者が当該代位により有するもの」(民事再生法198条1項)に該当するので、住宅ローン保証会社が代位弁済した後は、住宅資金特別条項を利用できなくなるのが原則です

ただし、例外的に、代位弁済日から6か月を経過するまでに再生手続開始の申立てをした場合に限り、保証会社の代位弁済が無かったことになり、それによって、住宅資金特別条項を利用できるようになるとされています(住宅ローンの「巻戻し」。同条2項)。

住宅ローン保証会社による代位弁済

銀行や住宅金融支援機構などの住宅ローン会社から住宅ローンを借りる際、住宅に抵当権を設定されるだけでなく、連帯保証人として、親族等のほかに「保証会社」が付けられることが多いと思います。

法的にみると、借主は、貸主である住宅ローン会社との間で金銭消費貸借契約を締結するとともに、住宅ローンの保証会社との間で保証委託契約を締結することになります。

一方、住宅ローン会社と保証会社は、その保証委託に基づいて、保証契約を締結します。

借主が住宅ローンを滞納すると、住宅ローンの期限の利益が失われて分割払いの定めはなくなり、住宅ローン会社は、借主および連帯保証人に対して住宅ローン残高を一括で支払うよう請求できるようになります。

そして、借主が住宅ローン残高を支払わなかった場合、住宅ローン会社は、連帯保証人である保証会社に対して、保証契約に基づき、借主の代わりに連帯保証債務(住宅ローン残高)を支払うよう請求します。

保証会社は、この請求に応じて、住宅ローン会社に対し、連帯保証債務(住宅ローン残高)を弁済します。この保証会社による住宅ローン会社に対する連帯保証債務の弁済を「代位弁済」といいます。

保証会社が代位弁済をしたことにより、住宅ローン会社の借主に対する住宅ローン債権は消滅します。

しかし、その代わりに、「弁済による代位」の効力が発生し、住宅ローン債権は保証会社に移り、保証会社は借主に対して求償権を取得します。

そして、保証会社は、借主に対し、求償権に基づいて、借主の代わりに弁済した住宅ローン残高を支払うよう請求することになります。

保証会社による代位弁済後の住宅資金特別条項の利用の可否

民事再生法 第198条

  • 第1項 住宅資金貸付債権(民法第499条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に同項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。

民法 第499条

  • 債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。

個人再生において住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の対象となるのは「住宅資金貸付債権」です。

住宅資金貸付債権とは、住宅建設・購入・改良に必要な資金の貸付の再生債権で、分割払いの定めがあり、その債権またはその債権の保証会社の求償権を担保するために住宅に抵当権が設定されているもののことをいいます(民事再生法196条3号)。

典型的なものは住宅ローンです。

住宅資金貸付債権に該当する住宅ローンを保証会社が代位弁済すると、その住宅ローン債権は保証会社に移ります。

代位弁済後に移ってきた保証会社の有する債権も住宅資金貸付債権となり、住宅資金特別条項の利用が可能なようにも思えます。

しかし、住宅資金貸付債権は「民法第499条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く。」とされています(民事再生法198条1項)。

民法499条の規定による代位(弁済による代位)とは、第三者が、債務者のために弁済をすることによって、債権者が有していた債権などの権利を行使できるようになるというものです。

この弁済による代位によって住宅資金貸付債権を有する債権者に代位した再生債権者が代位によって取得した債権は、住宅資金貸付債権から除かれるということです。

保証会社は保証人または連帯保証人ですので、「弁済をするについて正当な利益を有する者」に該当します(大判昭和9年11月24日等)。

したがって、保証会社が代位により取得した住宅ローン債権は「民法第499条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するもの」に該当するので、住宅資金貸付債権から除かれることになります。

つまり、保証会社が代位弁済をしてしまった後は、住宅資金特別条項を利用できなくなるのが原則ということです。

ただし、保証会社の代位弁済に関しては、後述のとおり、「巻戻し」と呼ばれる救済制度が用意されています。

住宅ローンの「巻戻し」の利用

民事再生法 第198条

  • 第2項 保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行した場合において、当該保証債務の全部を履行した日から6月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、第204条第1項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなる者の権利について、住宅資金特別条項を定めることができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。

前記のとおり、保証会社が代位弁済をしてしまった後は、住宅資金特別条項を利用できなくなるのが原則です。

しかし、住宅ローンを借りる際に保証会社が付けられ、住宅ローンの滞納が生じると保証会社が代位弁済をするのが通常です。

それにもかかわらず、保証会社が代位弁済をした後はもはや一切住宅資金特別条項を利用できないとしてしまうと、住宅資金特別条項の利用範囲がかなり限定され、債務者の救済を図ろうとした趣旨に反しかねません。

そこで、保証会社が住宅資金貸付債権の保証債務を履行(代位弁済)した場合であっても、その保証債務の全部を履行(代位弁済)した日から6か月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、再生計画に住宅資金特別条項を定めることができるとされています(民事再生法198条2項)。

巻戻し」と呼ばれる制度です。

この巻戻し制度を利用できれば、保証会社が代位弁済をしたとしても、その代位弁済日から6か月以内に個人再生手続開始の申立てをすれば、保証会社の代位弁済は無かったことになります。

保証会社の代位弁済が無かったことになる結果、住宅ローン債権はもとの住宅ローン会社に復帰し、住宅資金特別条項を利用できるようになるのです。

とはいえ、猶予は6か月しかありません。6か月を経過してしまうと、もはや巻戻しはできません。

再生手続開始の申立てをするための準備も必要となりますから、住宅資金特別条項の利用を考えているのであれば、保証会社に代位弁済をされたらすぐに行動を開始した方がよいでしょう。

タイトルとURLをコピーしました