
相互保証型のペアローンとは、ペアローン債務者のそれぞれが各自の持分に応じて住宅ローンを組んでいるだけでなく、相互に他方の住宅ローンについて連帯保証人となっているというケースです。
連帯保証債務(債権者からみれば保証債務履行請求権)は、住宅の建設・購入等に必要な資金の貸付けではないので、住宅資金貸付債権とはいえません。したがって、住宅資金特別条項を利用できないのが原則です。
ただし、相互保証型のペアローンであっても、ペアローン債務者がともに個人再生を申し立てたときには、債務者の双方について住宅資金特別条項の適用が認められることがあります。
さらに、相互保証型のペアローンの借主(および連帯保証人)の一方だけが個人再生を申し立てた場合も、他方の住宅ローンを担保するための担保権が実行されるおそれがなく、住宅ローン会社も同意しているときには、住宅ローンと連帯保証債務の両方を住宅資金貸付債権として扱うことが可能であると解されています。
ペアローンとは
民事再生法 第198条
- 第1項 住宅資金貸付債権(民法第500条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に第53条第1項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。
夫婦や親子などが共同して住宅を建設・購入等する場合に「ペアローン」の形で住宅ローンを組むということがあります。
ペアローンとは、夫婦等が住宅を共有し、それぞれの持分に応じて各自個別に住宅ローンを組み、その各自の住宅ローンを担保するために共有住宅全体に抵当権を設定している場合のことをいいます。
例えば、夫婦で3000万円の住宅を購入する際に、夫が2000万円の住宅ローンを組んで住宅の持分の3分の2を取得し、妻が残りの1000万円の住宅ローンを組んで住宅の持分の3分の1を取得するような場合です。
この場合、夫の2000万円の住宅ローンについても、妻の1000万円住宅ローンについても、夫婦それぞれの共有持分部分だけではなく、住宅全体に抵当権が設定されるのが通常です。
そうすると、妻からみれば、自分の住宅持分(3分の1部分)に自分の住宅資金貸付債権ではない夫の住宅ローンの抵当権が設定されており、夫からみれば、自分の住宅持分(3分の2部分)に自分の住宅資金貸付債権ではない妻の住宅ローンの抵当権が設定されているということになります。
つまり、夫についても、妻についても、住宅資金貸付債権ではない相手方の住宅ローンを担保するための抵当権が、自分の住宅持分に設定されているということです。
個人再生の住宅資金特別条項を利用するためには、対象とする債権が住宅資金貸付債権に該当する場合であっても、住宅資金貸付債権を担保するための抵当権のほかに、住宅資金貸付債権でない債権を担保するための抵当権が住宅に設定されている場合には、住宅資金特別条項を利用できないとされています(民事再生法198条1項ただし書き前段)。
したがって、ペアローンの場合には、ペアローン債務者それぞれの住宅持分に、自分のものではない相手方の住宅ローンを担保するための抵当権が設定されることになるので、上記民事再生法198条1項ただし書き前段により、住宅資金特別条項を利用できないのが原則です。
もっとも、民事再生法198条1項ただし書きの趣旨は、住宅資金貸付債権でない債権の抵当権等が実行されることにより住宅を失うことになると、住宅資金特別条項の利用を認める意味が無くなってしまうという点にあります。
そうであるとすれば、住宅資金貸付債権でない債権を担保するための抵当権等が住宅に設定されている場合であっても、その抵当権等が実行されるおそれがないときには、住宅資金特別条項の利用を認めることができると言えます。
そこで、東京地方裁判所などでは、ペアローンの場合であっても、ペアローン借主である夫婦等がともに個人再生を申し立てたときには、夫婦等の双方について住宅資金特別条項の適用を認めるという運用をとっています。
また、さらに進んで、ペアローン債務者の一方だけが個人再生を申し立てた場合であっても、他方の住宅ローンを担保するための担保権が実行されるおそれがなく、住宅ローン会社も同意しているときには、住宅資金特別条項の利用が認められることもあり得ます。
相互保証型ペアローンの問題点
民事再生法 第196条
- この章、第12章及び第13章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
- 第1号 住宅 個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が二以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。
- 第2号 住宅の敷地 住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権をいう。
- 第3号 住宅資金貸付債権 住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。
- 第4号 住宅資金特別条項 再生債権者の有する住宅資金貸付債権の全部又は一部を、第199条第1項から第4項までの規定するところにより変更する再生計画の条項をいう。
- 第5号 住宅資金貸付契約 住宅資金貸付債権に係る資金の貸付契約をいう。
ペアローンには、相互保証型のペアローンがあります。
相互保証型のペアローンとは、ペアローン債務者のそれぞれが各自の持分に応じて住宅ローンを組んでいるだけでなく、相互に他方の住宅ローンについて連帯保証人となっているというケースです。
前記の例で言うと、夫は、自身の住宅ローンのほか、妻の住宅ローンの連帯保証人にもなり、妻は、自身の住宅ローンのほか、夫の住宅ローンの連帯保証人にもなっているというケースです。
この場合、夫婦等それぞれの住宅ローンは住宅資金貸付債権といえるとしても、連帯保証債務(債権者からみれば保証債務履行請求権)は、住宅の建設・購入等に必要な資金の貸付けではないので、住宅資金貸付債権とはいえないのが原則です。
したがって、通常のペアローンにおいて住宅資金特別条項が認められる場合であっても、相互保証型のペアローンの場合には、通常のペアローンと同じように住宅資金特別条項の利用が認められるわけではないのです。
とはいえ、相互保証型のペアローンの場合であっても、住宅資金特別条項の適用が認められないとすると、住宅を維持しつつ債務者の経済的更生を図ろうした趣旨にそぐわない可能性があります。
そこで、相互保証型のペアローンのおいても、住宅資金特別条項を利用できないかどうかを考える必要があります。
相互保証型のペアローンにおいて住宅資金特別条項を利用できるかどうかについては、ペアローンとして住宅資金特別条項の利用が認められる場合であるだけでなく、連帯保証債務履行請求権が住宅資金貸付債権にあたるかどうかが問題となってきます。
連帯保証債務履行請求権の住宅資金貸付債権該当性
相互保証型のペアローンにおいて住宅資金特別条項を利用できるかどうかについては、その前提として、連帯保証債務履行請求権が住宅資金貸付債権にあたるかどうかが問題となってきます。
前記のとおり、連帯保証債務履行請求権は住宅資金貸付債権に当たらないのが原則です。
住宅資金貸付債権に当たらない以上、住宅資金特別条項を適用できないので、その連帯保証債務履行請求権は一般の再生債権として扱われ、減額・分割払いの対象となります。
もっとも、住宅ローンの連帯保証債務履行請求権が減額されてしまうと、住宅ローン会社によって、連帯保証人の信用不安や担保の毀損などを理由として、住宅ローン本体の契約の期限の利益を喪失させるなどの対応をされてしまう可能性があります。
期限の利益が喪失すると、住宅ローンは分割払いではなく一括払い請求になり、一括払いができないと、住宅ローン会社によって住宅が競売され、最終的に住宅が失われることになります。
しかし、それでは、住宅資金特別条項の趣旨を達することができません。
そこで、東京地方裁判所などでは、住宅ローンの主債務者と連帯保証人が一緒に個人再生を申し立てた場合、連帯保証人が対象となる住宅の共有者であり、その住宅に居住しているなど、住宅資金貸付債権の要件をある程度満たしている場合には、住宅ローンの連帯保証債務履行請求権も住宅資金貸付債権として取り扱い、住宅資金特別条項の利用を認められることがあります。
相互保証型のペアローンで住宅資金特別条項を利用できる場合
前記のとおり、ペアローンであっても、ペアローン債務者がともに個人再生を申し立てたときには、夫婦等の双方について住宅資金特別条項の適用を認めるという運用がとられています。
また、同様に、住宅ローンの主債務者と連帯保証人が一緒に個人再生を申し立てた場合、連帯保証人が対象となる住宅の共有者であり、その住宅に居住しているなど、住宅資金貸付債権の要件をある程度満たしている場合には、住宅ローンの連帯保証債務履行請求権も住宅資金貸付債権として取り扱い、住宅資金特別条項の利用を認められることがあります。
そのため、相互保証型のペアローンであっても、ペアローン債務者がともに個人再生を申し立てたときには、夫婦等の双方について住宅資金特別条項の適用が認められることがあります。
したがって、相互保証型のペアローンの場合には、まず、ペアローン債務者が一緒に個人再生を申し立てることができるかどうかを検討する必要があります。
相互保証型ペアローン債務者の一方のみによる個人再生の申立て
上記のとおり、相互保証型ペアローンであっても、ペアローン債務者がともに個人再生を申し立てたときには、夫婦等の双方について住宅資金特別条項の適用が認められることがあります。
さらに進んで、相互保証型のペアローンにおいて、ペアローン債務者の一方だけが個人再生を申し立てた場合でも、住宅資金特別条項の適用が認められるかどうかが問題となってきます。
ペアローン債権者の一方について住宅資金特別条項の利用が認められないとすると、他方の住宅ローン債権者が期限の利益を喪失させるなどして住宅の抵当権を実行する可能性が生じます。
そうなると、やはり、住宅資金特別条項の趣旨を達することができないことになりかねません。
そこで、相互保証型のペアローンの借主(および連帯保証人)である夫婦等の一方だけが個人再生を申し立てた場合も、他方の住宅ローンを担保するための担保権が実行されるおそれがなく、住宅ローン会社も同意しているときには、住宅ローンと連帯保証債務の両方を住宅資金貸付債権として扱うことが可能なケースがあると解されています。