
諸費用ローンとは、住宅の建設資金や購入資金のための住宅ローンそのもののほかに、住宅の建設や購入等に付随して必要となる各種費用を支払うための資金の借入れのことをいいます。
この諸費用ローンは住宅資金貸付債権に該当せず、住宅ローンのほかに、諸費用ローンを担保するための抵当権等が住宅に設定されている場合には、個人再生における住宅資金特別条項を利用できないのが原則です。
ただし、諸費用ローンであっても、その諸費用ローンの使途が住宅の購入や建設に密接に関連する資金であり、金額も住宅資金そのものの借入れに比べて僅少であるような場合には、諸費用ローン債権を住宅資金貸付債権として扱い、住宅資金特別条項の利用が認められることもあります。
その場合には、諸費用ローンを担保するための抵当権等が住宅に設定されている場合でも、住宅資金特別条項の利用が可能となります。
諸費用ローンとは
住宅を建設・購入・改良するためには、建設資金・購入資金・改良資金そのものだけでなく、それに付随して、さまざまな費用が必要となってきます。
例えば、不動産の登記費用、そのための司法書士報酬、保証会社に対する保証料、不動産仲介業者に対する仲介手数料、各種の登録手数料、団体信用保険料や火災保険料などの各種保険料などが必要となります。
住宅の建設資金や購入資金のために銀行などの住宅ローン会社から住宅ローンを借りる際、この住宅ローンのほかに、上記の各種費用を支払うための資金をまとめて借入れをする場合があります。
この住宅の建設資金や購入資金のための住宅ローンそのもののほかに、住宅の建設や購入等に付随して必要となる各種費用を支払うための資金の借入れを「諸費用ローン」と呼ぶことがあります。
住宅ローンを借りる際、その住宅ローンを担保するために、当該住宅に抵当権が設定されるのが通常です。
諸費用ローンも借り入れた場合には、住宅ローンの抵当権ほかに、この諸費用ローンを担保するための抵当権も一緒に住宅に設定されることがあります。
住宅資金特別条項における諸費用ローンの問題点
民事再生法 第198条
- 第1項 住宅資金貸付債権(民法第500条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に第53条第1項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。
個人再生の手続において住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用したいという場合、前記の諸費用ローンが問題となることがあります。
諸費用ローンを被担保債権とする抵当権が設定されていないのであれば、その諸費用ローンは、他の借金と同様、通常の再生債権として扱われるだけですので、住宅資金特別条項の利用に特別の問題は生じません。
問題となるのは、住宅ローンだけでなく、諸費用ローンについても抵当権が設定されてしまっている場合です。
住宅資金特別条項を利用するためには、対象とする債権が「住宅資金貸付債権」でなければなりません(民事再生法196条3号)。
また、対象とする債権が住宅資金貸付債権に該当する場合であっても、住宅資金貸付債権を担保するための抵当権のほかに、住宅資金貸付債権でない債権を担保するための抵当権が住宅に設定されている場合には、住宅資金特別条項を利用できないとされています(民事再生法198条1項ただし書き)。
住宅資金貸付債権とは、住宅の建設もしくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地または借地権の取得に必要な資金を含む。)または住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。保証会社。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているもののことをいいます。
諸費用ローンは、住宅の建設・購入・改良に必要となる資金そのものではありません。
しかも、諸費用ローンは、住宅ローンよりも金利が高く、住宅ローン減税の対象にもなりませんし、住宅金融支援機構の融資対象にもなりませんから、金融実務上も住宅ローンとは別のものとして扱われています。
したがって、諸費用ローンは、住宅資金貸付債権には該当しないと考えるのが原則です。
そうすると、住宅ローンの抵当権のほかに、諸費用ローンを担保するための抵当権が住宅に設定されている場合には、住宅資金貸付債権でない債権を担保するための抵当権が住宅に設定されていることになります。
したがって、住宅ローンについて住宅資金特別条項は利用できなくなるのが原則ということになります。
諸費用ローンが住宅資金貸付債権と認められる場合
前記のとおり、住宅ローンの抵当権のほかに、諸費用ローンを担保するための抵当権が住宅に設定されている場合には、住宅資金貸付債権でない債権を担保するための抵当権が住宅に設定されていることになるため、住宅資金特別条項を利用できないのが原則です。
もっとも、住宅を建設・購入等するためには、不動産の登記費用などの各種諸費用は必須です。その意味で言えば、諸費用に充てるための資金は、住宅の建設や購入等に必要となる資金に含まれると言えます。
また、これら各種の諸費用のために、住宅ローンそのものとあわせて諸費用ローンを組むことは一般的に行われていることです。
それにもかかわらず、住宅の建設資金や購入資金等そのものでないために住宅資金特別条項の適用が認められなくなるというのでは、住宅を維持することによって債務者の経済的更生を図ろうとした住宅資金特別条項の趣旨を没却するおそれがあります。
そこで、諸費用ローンであっても、以下の場合には、諸費用ローン債権が住宅資金貸付債権として扱われることがあります。
- 諸費用ローンの使途が住宅の購入や建設に密接に関連する資金であること
- 諸費用の金額が住宅資金そのものの借入れに比べて僅少であること
諸費用ローンが住宅資金貸付債権として扱われれば、その諸費用ローンを担保するための抵当権等が住宅に設定されていても、住宅資金貸付債権以外の担保権が住宅に設定されていることにはなりませんから、住宅資金特別条項の利用が認められます。
したがって、諸費用ローンを担保するための抵当権が設定されている場合、その諸費用ローンが住宅を建設・購入・改良するために必要不可欠な資金を得るための借入れであることを主張立証する必要があるでしょう。