
個人再生において住宅資金特別条項を定めた再生計画を認可してもらうためには,個人再生本体の要件のほか,住宅資金特別条項に固有の要件も充たしている必要があります。
住宅資金特別条項を利用できかるかどうかが問題となる事例も少なくありません。以下では,代表的な事例について解説しています。
- 個人再生における住宅資金特別条項の要件
- 個人再生本体の要件を充たしていない場合
- 建物が区分所有や共有の場合
- 建物を他人に賃貸している場合
- 投資用マンションである場合
- 単身赴任していて自分は居住していない場合
- 二世帯住宅の場合
- 店舗兼居宅である場合
- 離婚合意で元妻等が居住しているが自身は居住していない場合
- 離婚の財産分与により所有権を取得した住宅の場合
- 相続により取得した住宅の場合
- 住宅が複数ある場合
- 駐車場や私道の土地にも共同抵当が設定されている場合
- 生活費の借入れや事業用の借入れ債権である場合
- 定期借地権付き住宅ローンの場合
- リフォームのための借入れである場合
- 住宅の売買代金債務・建設請負代金債務である場合
- 一括払いの借入れである場合
- 住宅ローンを担保するための抵当権が設定されていない場合
- 住宅ローンの借換えである場合
- 買換え・住替えローンである場合
- 個人再生申立て前に住宅を売却した場合
- 住宅ローンの連帯債務である場合
- 住宅ローンの連帯保証債務である場合
- 住宅ローンの保証会社の求償権に係る保証債務である場合
- 住宅ローンが保証会社によって代位弁済された場合
- 住宅ローンが保証会社以外の第三者によって代位弁済された場合
- 住宅ローン債権が債権譲渡された場合
- 諸費用ローンの場合
- ペアローンの場合
- 相互連帯保証付きのペアローンの場合
- マンション管理費の滞納がある場合
- 住宅に過去の住宅ローンの後順位抵当権が設定されている場合
- 住宅以外の共同抵当物件に住宅ローン以外の債権の後順位抵当権が設定されている場合
- 住宅に一般債権者による差押えや仮差押えがされている場合
- 住宅が競売されている場合
- 税金の滞納がある場合
- 住宅に税金滞納による滞納処分の差押えがされている場合
- 住宅の査定額が住宅ローン残額より大きい場合(アンダーローン住宅の場合)
- 住宅ローン以外の債務がない場合
- 債権者一覧表に住宅資金貸付である旨を記載しなかった場合
- 再生計画案に住宅資金特別条項を定めなかった場合
個人再生における住宅資金特別条項の要件
民事再生法 第196条
- この章、第12章及び第13章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
- 第1号 住宅 個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって,その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が2以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。
- 第2号 住宅の敷地 住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権をいう。
- 第3号 住宅資金貸付債権 住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。
- 第4号 住宅資金特別条項 再生債権者の有する住宅資金貸付債権の全部又は一部を、第199条第1項から第4項までの規定するところにより変更する再生計画の条項をいう。
- 第5号 住宅資金貸付契約 住宅資金貸付債権に係る資金の貸付契約をいう。
民事再生法 第198条
- 第1項 住宅資金貸付債権(民法第499条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に同項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは,この限りでない。
- 第2項 保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行した場合において、当該保証債務の全部を履行した日から6月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、第204条第1項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなる者の権利について,住宅資金特別条項を定めることができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
- 第3項 第1項に規定する住宅資金貸付債権を有する再生債権者又は第204条第1項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなる者が数人あるときは,その全員を対象として住宅資金特別条項を定めなければならない。
個人再生においては,住宅資金特別条項(住宅ローン特則)と呼ばれる制度が設けられています。
住宅資金特別条項とは,住宅ローンなど住宅資金貸付債権だけは約定どおり(またはリスケジュールして)返済を継続することにより住宅を処分せず,住宅ローン以外の債務を個人再生によって減額および分割払いにしてもらうという制度です。
住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されるためには,個人再生(小規模個人再生・給与所得者等再生)本体の要件を充たしているほか,住宅資金特別条項固有の要件も充たしていなければなりません。
住宅資金特別固有の要件には,以下のものがあります。
- 対象となる建物が「住宅」に当たること
- 住宅資金特別条項の対象となる債権が「住宅資金貸付債権」に当たること
- 住宅資金貸付債権が法定代位により取得されたものでないこと
- 対象となる住宅に住宅ローン関係の抵当権以外の担保が設定されていないこと
- 対象となる住宅以外の不動産にも住宅ローン関係の抵当権が設定されている場合には,その住宅以外の不動産に後順位抵当権者がいないこと
- 個人再生申立ての際に提出する債権者一覧表に当該債権が住宅資金貸付債権である旨および住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨を記載すること
- 住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出したこと
- 再生計画が遂行可能であると認められること
- 再生債務者が住宅の所有権または住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれないこと
これらの要件を充たしていなければならないため,住宅資金特別条項を利用できるかどうかが問題となる事例は少なくありません。
以下では,住宅資金特別条項を利用できるかどうかが問題となる事例についてご説明いたします。
個人再生本体の要件を充たしていない場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)は個人再生に付随する制度です。したがって,個人再生それ自体の要件を充たしていることが前提条件です。
そのため,個人再生の要件を充たしていない場合には,住宅資金特別条項を利用することはできません。
建物が区分所有や共有の場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,再生債務者が所有している建物である必要があります。
この「所有」は単独所有に限られません。区分所有や共有であっても,ここでいう所有に含まれます。
したがって,建物が区分所有や共有であっても,住宅資金特別条項の利用は可能です。
建物を他人に賃貸している場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,再生債務者が居住の用に供している自宅でなければなりません。
したがって,他人に賃貸している建物について住宅資金特別条項を利用することはできません。
ただし,定期賃貸借など,一定期間が経過した後に賃貸借契約が解消され,その後は自宅として利用することがはっきりしているといった事情がある場合には,住宅資金特別条項を利用できることがあります。
投資用マンションである場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,再生債務者が居住の用に供している自宅でなければなりません。
したがって,投資用マンションについて住宅資金特別条項を利用することはできません。
ただし,投資用マンションであっても,他人に賃貸などをしておらず,実際には自宅として居住しているという場合には,住宅資金特別条項の利用が可能です。
単身赴任していて自分は居住していない場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,再生債務者が居住の用に供している自宅でなければなりません。
単身赴任をしているため,対象となる建物に自分は居住しておらず,家族等のみが居住している場合には,再生債務者自身が居住いないので,住宅資金特別条項を利用できないように思われます。
しかし,単身赴任の場合には,あくまで一時的に生活の本拠を単身赴任先に移しているにすぎず,単身赴任が終了すれば,当該建物に戻り居住することが予定されているといえます。
そのため,単身赴任の場合には,住宅資金特別条項を利用できる場合があります。
二世帯住宅の場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,床面積の2分の1に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されていることが必要です。
二世帯住宅の場合,再生債務者およびその家族の世帯が自宅として利用している部分だけでなく,別世帯の家族もその建物を利用しています。
したがって,再生債務者およびその家族の世帯が自宅として利用している部分と別世帯家族が利用している部分を比較して,別世帯家族が建物の床面積の2分の1を超える部分を利用している場合には,住宅資金特別条項を利用することはできません。
店舗兼居宅である場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,床面積の2分の1に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されていることが必要です。
したがって,事業の店舗・事業所などとして利用している部分が建物の床面積の2分の1を超えている場合には,住宅資金特別条項を利用することはできません。
離婚合意で元妻等が居住しているが自身は居住していない場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,再生債務者が居住の用に供している自宅でなければなりません。
したがって,離婚の際の合意によって,所有する建物に再生債務者自身ではなく,元配偶者や子どもが居住しているという場合には,再生債務者が所有する建物であっても,再生債務者自身が居住している建物とは言えないので,住宅資金特別条項を利用することはできません。
離婚の財産分与により所有権を取得した住宅の場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,再生債務者が所有し,かつ,居住の用に供している自宅でなければなりません。
離婚の際の財産分与によって,夫婦の住宅について,夫婦の一方が所有権を取得することがあります。
財産分与によって所有権を得た場合でも,再生債務者が所有する建物であることには違いありませんから,それを居住の用に供しているのであれば「住宅」に該当します。
もっとも,住宅資金特別条項(住宅ローン特則)が適用されるのは「住宅資金貸付債権」が存在する場合です。
したがって,財産分与によって住宅の所有権を取得した場合であっても,住宅ローンなど住宅資金貸付債権を引き継いでいないときには,住宅資金特別条項を利用することはできません。
他方,建物所有権だけでなく,その建物の住宅ローンも引き継いでいるという場合には,住宅資金特別条項の利用が可能です。
相続により取得した住宅の場合
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を適用できる「住宅」は,再生債務者が所有し,かつ,居住の用に供している自宅でなければなりません。
相続によって建物の所有権を取得することがあります。
相続によって取得した建物であっても,再生債務者が所有する建物であることには違いありませんから,それを居住の用に供しているのであれば「住宅」に該当します。
もっとも,住宅資金特別条項(住宅ローン特則)が適用されるのは「住宅資金貸付債権」が存在する場合です。
したがって,相続によって住宅の所有権を取得した場合であっても,住宅ローンなど住宅資金貸付債権を引き継いでいないときには,住宅資金特別条項を利用することはできません。
他方,建物所有権だけでなく,その建物の住宅ローンも引き継いでいるという場合には,住宅資金特別条項の利用が可能です。
住宅が複数ある場合
住宅資金貸付債権における「住宅」に該当し得る建物が複数あるという場合もあり得るでしょう。
ただし,この場合,住宅資金特別条項を適用できるのは,その複数の建物のうちで生活の本拠と認められる1つの建物だけです。それ以外の住宅については住宅資金特別条項の適用は認められません。
駐車場や私道の土地にも共同抵当が設定されている場合
住宅ローンを担保するための抵当権を設定する場合,その住宅だけでなく,住宅の底地にも共同抵当を設定するのが通常ですが,さらに,底地以外の土地にも共同抵当を設定している場合があります。
例えば,底地とは別の筆になっている駐車場や私道などとして利用されている土地に,共同抵当が設定されている場合などがあります。
住宅資金特別条項を定めた再生計画の効力は,住宅のみでなく,その「住宅の敷地」にも及びます。
住宅の敷地とは,「住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権」のことです(民事再生法196条2号)。
したがって,駐車場や私道などの土地が,住宅の底地とは別の筆の土地であっても,住宅の用に供されている土地であると言える場合には,住宅資金特別条項の利用が可能です。
生活費の借入れや事業用の借入れ債権である場合
住宅資金特別条項の対象となる「住宅資金貸付債権」は,住宅の建設・購入に必要な資金または住宅の改良に必要な資金の貸付債権でなければなりません(民事再生法196条3号)。
したがって,生活費のための借入れや事業用の借入れは,住宅の建設・購入に必要な資金または住宅の改良に必要な資金の借入れではないので,住宅資金特別条項を利用できません。
定期借地権付き住宅ローンの場合
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は,住宅の建設・購入に必要な資金(住宅の用に供する土地または借地権の取得に必要な資金を含む。)または住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,その債権または保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
一般定期借地権付き住宅を購入(または建築)する場合,買主は,住宅の売主に対して代金を支払う(建設業者等に建設請負代金を支払う)だけでなく,その住宅の敷地の地主に対して保証金・権利金を支払う必要があります。
そのため,一般定期借地権付き住宅の購入・建設に関しては,購入・建設の費用だけなく,保証金・権利金も含めて住宅ローンとする定期借地権付き住宅ローンが利用されることがあります。
この定期借地権付き住宅ローンには保証金・権利金のための費用の貸付けも含まれていますが,保証金・権利金を支払って借地権を取得しなければ住宅を購入または建設することはできませんから,保証金・権利金の費用は「住宅の用に供する借地権の取得に必要な資金」(民事再生法196条3号)といえます。
したがって,定期借地権付き住宅ローンは「住宅資金貸付債権」に該当するので,住宅資金特別条項を利用することが可能です。
リフォームのための借入れである場合
住宅資金特別条項の対象となる「住宅資金貸付債権」には,住宅の建設・購入に必要な資金の貸付債権だけでなく,住宅の改良に必要な資金の貸付債権も含まれます(民事再生法196条3号)。
したがって,リフォームのために必要な資金の借入れによる場合も,住宅の改良に必要な資金の貸付債権に該当するので,住宅資金特別条項の利用が可能です。
住宅の売買代金債務・建設請負代金債務である場合
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は,住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,その債権または保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
したがって,住宅の売主が有する売買代金債権や住宅の建築業者等が有する請負代金債権は,貸付けではないので,住宅資金貸付債権には当たらないのが原則です。
もっとも,売買代金債権や請負代金債権は,貸付けではないとはいえ,住宅の建設・購入・改良に必要な資金であることは間違いありません。
そこで,これら住宅の購入や建設等のための売買代金債権や請負代金債権について分割払いの定めがある場合には,準消費貸借契約を締結して,これら売買代金債権や請負代金債権を貸付債権に切り替えた上で,その貸付債権を担保するため住宅に抵当権が設定したときは,住宅資金特別条項の利用が可能となることがあります。
なお,あくまで分割払いの定めがある場合です。一括払いのものについては,貸付債権に切り替えたとしても,住宅資金特別条項の利用はできません。
一括払いの借入れである場合
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は,住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,その債権または保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
したがって,住宅の建設等のための借入れであっても,支払方法が一括払いの場合には,分割払いの定めがあるものといえませんので,住宅資金特別条項を利用できません。
住宅ローンを担保するための抵当権が設定されていない場合
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は,住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,その債権または保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
したがって,住宅建設等の資金の貸付債権であっても,それを担保するための抵当権が住宅に設定されていないのであれば,住宅資金貸付債権に当たらず,住宅資金特別条項の利用はできません。
住宅ローンの借換えである場合
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は,住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,その債権または保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
ある住宅ローン会社から借り入れた住宅ローンを,別の住宅ローン会社で借り換える場合があります。
借換えローンは最初の住宅ローンを返済するための借入れですから,厳密に言えば,住宅の建設・購入に必要な資金または住宅の改良に必要な資金の貸付債権ではないようにも思われます。
しかし,借換えローンによって従前の住宅ローンが返済されると,その代わりに,今度は借換ローンへの返済が始まるのですから,従前の住宅ローンと新たな住宅ローンとが入れ替わったものにすぎないとみることができます。
そのため,借換えの場合にも,住宅資金特別条項の利用が可能であると解されています。
買換え・住替えローンである場合
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は,住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,その債権または保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
住宅を新たに買い替えたり,または,建て替えたりする際に,それ以前に住んでいた建物に関する住宅ローンに残額がある場合,その残ローンと新たな住宅の買換えまたは建替えの資金のための借入れを併せたローンが組まれることがあります。
一般に「買換えローン」や「住替えローン」などと呼ばれるものです。
しかし,この買換え・住替えローン債権は,その中に,以前の旧建物に関する貸付債権が含まれてしまっています。
この旧建物は,すでに再生債務者の所有でもなく,居住もしていないので住宅資金貸付債権における「住宅」ではありません。
したがって,買換え・住替えローン債権は住宅資金貸付債権とはいえず,住宅資金特別条項を利用できないのが原則です。
もっとも,買換えや建替えなどは珍しい事ではないこと,住宅の改良に必要となる資金の貸付けも住宅資金貸付債権に含まれることとの均衡などから,新たな建物を取得するに至った経緯や買換えローンの総額うちで残ローン額の占める割合などを考慮して,買換えローンについても住宅資金特別条項の利用が認められる場合もあります。
個人再生申立て前に住宅を売却した場合
個人再生を申し立てる前に,住宅を任意売却または競売によって売却することがあります。
すでに売却し,住宅の所有権も抵当権もなくなっている以上,仮に住宅ローンの残額があったとしても,その残ローンは住宅資金貸付債権とはいえないので,住宅資金特別条項は利用できません。
住宅ローンの連帯債務である場合
住宅資金特別条項を利用できるのは,再生債務者が住宅資金貸付債権を負っている場合です。
住宅ローンが連帯債務になっている場合でも,それぞれの連帯債務者が住宅ローン債務の債務者であることには違いありません。したがって,住宅資金特別条項の利用は可能です。
住宅ローンの連帯保証債務である場合
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は,住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,その債権または保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
住宅ローンの連帯保証人が負っている保証債務(債権者からみれば保証債務履行請求権)は,住宅の建設等に必要な貸付けではありませんし,保証債務履行請求権について抵当権は設定されませんから,住宅資金貸付債権に当たらないのが原則です。
しかし,保証債務について住宅資金特別条項の適用が認められないとすると,その保証債務は一般の再生債権として減額の対象となってしまい,住宅ローン会社が,連帯保証人の信用不安を理由に住宅ローンそれ自体の期限の利益を喪失させるなどの措置を講じるおそれがあります。
そうなると,仮に,住宅ローンの主債務者が住宅ローンの返済を約定どおりに続けていたとしても住宅を失ってしまうことになり,住宅資金特別条項の趣旨に沿わない結果が生じてしまうおそれがあります。
そこで,主債務者と連帯保証人がともに個人再生を申し立てた場合(主債務者は住宅ローン債権について住宅資金特別条項を利用。)には,連帯保証債務についても住宅資金特別条項の利用が可能となることがあります。
ただし,連帯保証人も,その住宅を所有(共有)し,かつ,その住宅に居住していることなどは必要です。
住宅ローンの保証会社の求償権に係る保証債務である場合
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は,住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,その債権または保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
住宅ローンを組む際に,住宅ローンそれ自体の保証人ではなく,その住宅ローンの保証会社が有する主債務者に対する求償権について保証人となる場合があります。
この求償権の保証債務(保証会社からみれば保証債務履行請求権)は,住宅の建設等に必要な貸付けではありませんし,保証債務履行請求権について抵当権は設定されませんから,住宅資金貸付債権に当たらないのが原則です。
また,住宅ローンそれ自体の保証債務履行請求権と異なり,求償権の保証債務が一般の再生債権として減額されたとしても,ただちに住宅ローンそれ自体に影響を及ぼすわけではありませんから,住宅ローンそれ自体の保証債務と同じとは言えません。
しかし,実際問題として,求償権の保証債務履行請求権が一般の再生債権として扱われると,保証委託契約の内容によっては住宅ローンそれ自体に間接的に悪影響を及ぼすおそれがあります。
また,保証会社が再生債権者の多数を占めた上で再生計画案に異議を述べたために再生手続が廃止になり,その結果,住宅ローンの債務者も求償権の保証人も住宅を失ってしまうということもあり得ます。
そうなると,仮に,住宅ローンの債務者が住宅ローンの返済を約定どおりに続けていたとしても住宅を失ってしまうことになり,住宅資金特別条項の趣旨に沿わない結果が生じてしまうおそれがあります。
そのため,住宅ローンそれ自体の債務者と保証会社の求償権の連帯保証人がともに個人再生を申し立てており(住宅ローンの債務者は住宅ローン債権について住宅資金特別条項を利用。),かつ,上記のように求償権の保証債務履行請求権が一般の再生債権となることによって住宅を失うおそれがある場合には,求償権の保証債務についても住宅資金特別条項の利用が可能となると解すべきです。
ただし,求償権の保証人も,その住宅を所有(共有)し,かつ,その住宅に居住していることは必要でしょう。
住宅ローンが保証会社によって代位弁済された場合
住宅資金特別条項の適用が認められるためには,住宅資金貸付債権が法定代位によって取得されたものでないことが必要です((民事再生法198条1項)。
住宅ローンが保証会社によって代位弁済されると,保証会社は,法定代位によって,その住宅ローンを取得することになります。
この保証会社が取得した住宅ローン債権は住宅資金貸付債権であったとしても,法定代位によって取得されたものですから,住宅資金特別条項を利用することはできません。
つまり,住宅ローンの保証会社が住宅ローンを代位弁済してしまうと,原則として住宅資金特別条項は利用できなくなるということです。
ただし,保証会社が住宅資金貸付債権の保証債務を履行(代位弁済)した場合であっても,その保証債務の全部を履行(代位弁済)した日から6か月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは,再生計画に住宅資金特別条項を定めることができるとされています(民事再生法198条2項)。「巻戻し」と呼ばれる制度です。
したがって,保証会社が代位弁済をしたとしても,その日から6か月以内に個人再生を申し立てることができれば,巻戻しにより,住宅資金特別条項の利用が可能となるということです。
住宅ローンが保証会社以外の第三者によって代位弁済された場合
住宅資金特別条項の適用が認められるためには,住宅資金貸付債権が法定代位によって取得されたものでないことが必要です((民事再生法198条1項)。
住宅ローンが保証会社以外の第三者(例えば,親族保証人など)によって代位弁済されると,その第三者は,法定代位によって,その住宅ローンを取得することになります。
この第三者が取得した住宅ローン債権は住宅資金貸付債権であったとしても,法定代位によって取得されたものですから,住宅資金特別条項を利用することはできません。
また,いわゆる「巻戻し」制度(民事再生法198条2項)は,代位弁済をしたのが保証会社である場合にのみ認められる制度ですので,第三者が代位弁済をした場合には使えません。
したがって,いずれにしても,保証会社以外の第三者が代位弁済をした場合には住宅資金特別条項は利用できなくなるということです。
住宅ローン債権が債権譲渡された場合
住宅資金特別条項の適用が認められるためには,住宅資金貸付債権が法定代位によって取得されたものでないことが必要です((民事再生法198条1項)。
住宅ローン債権が当初の住宅ローン債権者から別会社に債権譲渡されたとしても,代位弁済されたわけではありません。債権の同一性を保ったまま債権者が変更されたにすぎません。
したがって,住宅ローン債権が債権譲渡された場合でも,その譲渡債権について住宅資金特別条項を利用することは可能です。
諸費用ローンの場合
住宅資金貸付債権を担保するための抵当権のほかに,住宅資金貸付債権以外の債権を担保するための担保権が住宅に設定されている場合には,住宅資金特別条項を利用することができません(民事再生法198条1項ただし書き前段)。
住宅を購入する場合には,その住宅の購入代金だけでなく,登記手続の費用,印紙税,登録免許税,不動産取得税,火災保険等の各種保険料,仲介手数料などさまざまな費用が必要となります。
そこで,住宅ローンを組む際,住宅ローンとは別に,上記各種費用の資金のために「諸費用ローン」と呼ばれるローンの貸付けがされ,その諸費用ローンについても,住宅ローンとともに,住宅に抵当権が設定されることがあります。
この諸費用ローン債権は,住宅ローンよりも金利が高く,住宅ローン現在の対象にもならず,また,住宅金融支援機構の融資対象にもならないなどの点で金融実務上住宅ローンとは別のものとして扱われていることから,住宅資金貸付債権に該当しないと考えるのが原則です。
そして,「住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき 」,つまり,住宅資金貸付債権を担保するための抵当権のほかに,住宅資金貸付債権でない債権を担保するための担保権が住宅に設定されている場合には,住宅資金特別条項を利用できません(民事再生法198条1項ただし書き)。
したがって,諸費用ローンを担保するための抵当権が住宅に設定されている場合には,住宅資金貸付債権でない債権を担保するための担保権が住宅に設定されていることになるので,住宅資金特別条項を利用できないことになります。
ただし,諸費用ローンの使途が住宅の購入や建設に密接に関連する資金であり,金額も住宅資金そのものの借入れに比べて僅少であるような場合には,諸費用ローン債権を住宅資金貸付債権として扱い,住宅資金特別条項の利用が認められることもあります。
ペアローンの場合
住宅資金貸付債権を担保するための抵当権のほかに,住宅資金貸付債権以外の債権を担保するための担保権が住宅に設定されている場合には,住宅資金特別条項を利用することができません(民事再生法198条1項ただし書き前段)。
住宅ローンについて,いわゆる「ペアローン」が組まれている場合があります。
ペアローンとは,夫婦等が住宅を共有し,それぞれの持分に応じて互いに住宅ローンを組み,その各自の住宅ローンを担保するために共有住宅に抵当権を設定している場合のことをいいます。
夫婦ペアローンの場合,夫の共有持分には夫と妻の住宅ローンを担保するための抵当権が,妻の共有分には妻と夫の住宅ローンを担保するための抵当権が設定されていることになります。
これは,夫からみれば,自分の住宅資金貸付債権ではない妻の住宅ローンの抵当権が設定され,妻からみれば,自分の住宅資金貸付債権ではない夫の住宅ローンの抵当権が設定されていることになります。
したがって,それぞれ住宅資金貸付債権以外の債権を担保するための担保権が住宅に設定されている場合に当たり,夫も妻も,住宅資金特別条項を利用できないのが原則です。
もっとも,東京地方裁判所などでは,ペアローンの場合であっても,夫婦等の双方がともに個人再生を申し立てたときには,双方について住宅資金特別条項の利用が可能とされています。
さらに,ペアローンの一方のみが個人再生を申し立てた場合でも,他方の住宅ローンを担保するための担保権が実行されるおそれがなく,住宅ローン会社も同意しているときには,一方のみの個人再生申立てによって住宅資金特別条項の利用が認められることもあり得ます。
相互連帯保証付きのペアローンの場合
ペアローンには,上記事例のほか,夫婦等それぞれが持分に応じて住宅ローンを組んでいるだけではなく,相互に他方の住宅ローンについて連帯保証人となっているというケースもあります。
例えば,夫婦でペアローンを組んでいる場合,夫は,自身の住宅ローンのほか,妻の住宅ローンの連帯保証人にもなり,妻は,自身の住宅ローンのほか,夫の住宅ローンの連帯保証人にもなっているというケースです。
住宅資金貸付債権の連帯保証債務(債権者からみれば保証債務履行請求権)は,貸付債権ではないものの,主債務者と連帯保証人がともに個人再生を申し立てた場合には,住宅資金貸付債権として扱うことが可能であるとされています。
また,相互連帯保証のないペアローンについては,夫婦等がともに個人再生を申し立てた場合には,住宅資金特別条項の利用が可能であるとされています。
したがって,相互連帯保証付きのペアローンでも,夫婦等がともに個人再生を申し立てた場合には,住宅資金特別条項の利用が可能であるとされています。
なお,相互連帯保証付きのペアローンにおいて,夫婦の一方のみが個人再生を申し立てた場合は,相互連帯保証なしのペアローンの場合よりも難しくはなりますが,他方の住宅ローンを担保するための担保権が実行されるおそれがなく,住宅ローン会社も同意しているときには,一方のみの個人再生申立てによって住宅資金特別条項の利用が認められると解されています。
マンション管理費の滞納がある場合
住宅資金貸付債権を担保するための抵当権のほかに,住宅資金貸付債権以外の債権を担保するための担保権が住宅に設定されている場合には,住宅資金特別条項を利用することができません(民事再生法198条1項ただし書き前段)。
再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれる場合には認可されません(民事再生法202条2項3号)。
マンション管理費や修繕積立金債権は,当該マンションの区分所有権等に先取特権を有するものとされているため(建物の区分所有等に関する法律7条1項),再生手続においては別除権付再生債権として扱われることになります。
したがって,マンション管理費等の滞納がある場合には,住宅資金貸付債権以外の債権を担保するための担保権が住宅に設定されている場合に該当するので,住宅資金特別条項を利用できません。
そのため,マンション管理費等の滞納がある場合には,それを事前に解消しておくか,別除権協定を締結して先取特権を実行しないようにしてもらうなどの措置をとる必要があります。
例えば、管理組合との間で、管理費を分納とし、その支払いをしている間は別除権を行使しない旨の別除権協定を締結するなどの方法があります。
住宅に過去の住宅ローンの後順位抵当権が設定されている場合
住宅資金貸付債権を担保するための抵当権のほかに,住宅資金貸付債権以外の債権を担保するための担保権が住宅に設定されている場合には,住宅資金特別条項を利用することができません(民事再生法198条1項ただし書き前段)。
住宅ローンが残っている間に住宅を取り壊し,新たに住宅ローンを組んで住宅を建て直した場合,その住宅には,新たな住宅ローンを担保するための抵当権と過去の住宅ローンを担保するための抵当権の両方が設定されていることがあります。
この場合,新たな住宅ローンが住宅資金貸付債権であるとしても,過去の住宅ローンは,あくまで旧住宅の住宅ローンであって,新住宅からみれば住宅資金貸付債権ではありません。
したがって,住宅上に,住宅資金貸付債権を担保するための抵当権と,それとは別の債権(過去の住宅ローン債権)を担保するための抵当権が設定されていることになりますから,住宅資金特別条項を利用することはできません。
そのため,過去の住宅ローンを担保するための抵当権が設定されている場合には,それを事前に解消しておくか,別除権協定を締結して抵当権を実行しないようにしてもらうなどの措置をとる必要があります。
住宅以外の共同抵当物件に住宅ローン以外の債権の後順位抵当権が設定されている場合
住宅資金貸付債権を担保するために,住宅だけでなく他の不動産にも共同抵当が設定されている場合において,その他の不動産上に,住宅資金貸付債権を担保するための抵当権に劣後する後順位担保権がある場合には,住宅資金特別条項を利用できません(民事再生法198条1項ただし書き後段)。
したがって,住宅資金特別条項を利用するためには,共同抵当物件上に設定されている後順位抵当権を解消するほかありません。
住宅に一般債権者による差押えや仮差押えがされている場合
住宅資金特別条項を定めた再生計画は,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれる場合には認可されません(民事再生法202条2項3号)。
住宅に一般債権者による差押えや仮差押えがされている場合でも,再生手続が開始されると,その住宅にされている差押えや仮差押えの手続は中止され(民事再生法39条1項),再生計画認可決定が確定すると,効力を失います(同法184条)。
そうすると,住宅に一般債権者による差押えや仮差押えがされていたとしても,再生手続開始によって中止され,再生計画認可決定の確定により失効するので,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれませんから,住宅資金特別条項の利用が可能です。
住宅が競売されている場合
住宅資金特別条項を定めた再生計画は,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれる場合には認可されません(民事再生法202条2項3号)。
一般の再生債権者により住宅について強制執行としての競売が開始されていた場合,再生手続が開始されると,その住宅にされている差押えや仮差押えの手続は中止され(民事再生法39条1項),再生計画認可決定が確定すると,効力を失います(同法184条)。
そうすると,強制執行としての競売手続が開始されていたとしても,再生手続開始によって中止され,再生計画認可決定の確定により失効するので,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれませんから,住宅資金特別条項の利用が可能です。
これに対し,住宅ローン会社などの抵当権者により抵当権の実行として競売が開始されていた場合には,再生手続が開始しても,当然には競売手続は中止されません。
ただし,再生手続開始後,裁判所から抵当権実行手続の中止命令を発令してもらうことによって,抵当権に基づく競売手続を中止することが可能です(民事再生法197条)。
また,住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可決定が確定すれば,その認可決定正本を執行裁判所に提出することで競売は取り消されます(民事執行法183条2項)。
そうすると,抵当権に基づき競売手続が開始されていたとしても,抵当権実行手続の中止命令によって中止され,再生計画認可決定の確定により取り消されるので,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれませんから,住宅資金特別条項の利用が可能です。
税金の滞納がある場合
住宅資金特別条項を定めた再生計画は,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれる場合には認可されません(民事再生法202条2項3号)。
税金などの公租公課は,一般優先債権として扱われ,再生計画による減額の対象とならず,随時弁済しなければなりません。
そのため,公租公課の滞納がある場合には,これを解消するか,公租公課庁と協議をして分納にしてもらうなどの対処をしておく必要があります。
これらの対処がなされていない場合,再生計画の履行可能性がないものとして,そもそも個人再生それ自体が認可されないことがあります。
また,税金など公租公課を滞納していると,滞納処分により住宅を差し押さえられ公売により売却されてしまうおそれがあります。
この滞納処分による公売は,一般の再生債権に基づく競売と異なり,再生手続の開始によっても止めることができません。
そのため,公租公課の滞納がある場合には,滞納の解消や分納の協議をしていない限り,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれる場合に該当するものとして,住宅資金特別条項の利用が認められないことになる可能性があります。
住宅に税金滞納による滞納処分の差押えがされている場合
住宅資金特別条項を定めた再生計画は,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれる場合には認可されません(民事再生法202条2項3号)。
税金などの公租公課の滞納により,住宅に対して滞納処分による差押えがされている場合があります。
滞納処分による差押えがすでになされている以上,将来,滞納処分による公売によって住宅が売却される見込みがあることになります。
しかも,この滞納処分による差押えは,一般の再生債権による差押えなどと異なり,再生手続が開始されても中止されず,再生計画が認可されても失効または取消しはされます。
したがって,すでに住宅に対して滞納処分による差押えがされている場合には,これを解消しない限り,再生債務者が住宅の所有権を失うこととなると見込まれる場合に該当することになり,住宅資金特別条項の利用ができません。
住宅の査定額が住宅ローン残額より大きい場合(アンダーローン住宅の場合)
住宅の査定額が住宅ローン残額よりも大きい場合(いわゆる「アンダーローン」の場合)でも,個人再生の住宅資金特別条項を利用できないことはありません。
ただし,査定額と住宅ローン残額の差額は,住宅の価値として清算価値に計上されます。住宅ローンの返済以外に,この清算価値の額以上は最低でも返済していかなければなりません。
そのため,差額があまりに大きいと清算価値も大きくなり,その分返済総額も大きくなってしまいます。
場合によっては,返済総額が大きいため,返済をしていけるだけの収入が認められないられないとして,個人再生そのものが認可されないことになる可能性があります。
住宅ローン以外の債務がない場合
住宅ローン以外にまったく債務がない場合でも,住宅資金特別条項を利用できるかという問題があります。
例えば,住宅ローンの巻戻しを利用する場合や,ペアローンなどで夫婦ともに個人再生を申し立てるときに,夫婦の一方には住宅ローン以外に債務が無い場合などが考えられます。
この点については,住宅ローン以外の債務がない場合でも住宅資金特別条項の利用は可能であると考えられています。
債権者一覧表に住宅資金貸付である旨を記載しなかった場合
住宅資金特別条項を利用するためには,個人再生申立てに際して提出する債権者一覧表に,住宅資金貸付債権についてはその旨を,住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思があるときはその旨を記載しなければなりません(民事再生法221条3項3号,4号,244条)。
債権者一覧表に住宅資金貸付債権である旨や住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨を記載しておかないと,再生計画案に住宅資金特別条項を定めることができなくなってしまいます。
しかも,再生手続が開始すると,債権者一覧表を訂正することができなくなってしまうので,住宅資金貸付債権である旨と住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載は必ず忘れないようにしなければなりません。
再生計画案に住宅資金特別条項を定めなかった場合
住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されるためには,当然のことですが,再生計画案に住宅資金特別条項を定めておく必要があります。
再生計画案に住宅資金特別条項を定めなかった場合は,住宅資金特別条項が認められることはありませんので,注意が必要です。