
個人再生委員とは、個人再生の手続において、債務者の財産・収入の状況の調査および再生債権の評価に関し裁判所を補助し、または、再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告をするため、裁判所が指定する者のことをいいます(民事再生法223条1項、244条)。
通常の民事再生手続において裁判所によって選任される監督委員の個人再生版です。東京地方裁判所(立川支部を含む。)では、全件について個人再生委員が選任される運用となっています。
個人再生委員とは
個人再生の手続は、自己破産の場合と異なり、再生債務者自らが債権者と交渉し、再生計画案を作成するなどの手続を行っていかなければならない手続です。
しかし、再生債務者自らだけで手続を行うのは困難な場合がありますし、不正等により債権者の公平を害するという危険性もないわけではありません。そのため、第三者的な見地からの指導や監督が必要となってきます。
無論、個人再生の手続は、裁判所が監督することになりますが、個別具体的に手続をみていくためには、より再生債務者に密着して指導監督を行うのが望ましいでしょう。
そこで、個人再生の手続においては、裁判所によって「個人再生委員」が選任され、裁判所は、個々の個人再生手続をその個人再生委員に指導監督させることができるものとされています(民事再生法223条1項、244条)。
個人再生ではない通常の民事再生手続においても、裁判所によって選任された監督委員が再生手続を指導監督していますが、その個人再生版が、この個人再生委員です。
個人再生委員の選任
民事再生法 第223条
- 第1項 裁判所は、第221条第2項の申述があった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、一人又は数人の個人再生委員を選任することができる。ただし、第227条第1項本文に規定する再生債権の評価の申立てがあったときは、当該申立てを不適法として却下する場合を除き、個人再生委員の選任をしなければならない。
- 第2項 裁判所は、前項の規定による決定をする場合には、個人再生委員の職務として、次に掲げる事項の一又は二以上を指定するものとする。
- 第1号 再生債務者の財産及び収入の状況を調査すること。
- 第2号 第227条第1項本文に規定する再生債権の評価に関し裁判所を補助すること。
- 第3号 再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告をすること。
- 第3項 裁判所は、第1項の規定による決定において、前項第1号に掲げる事項を個人再生委員の職務として指定する場合には、裁判所に対して調査の結果の報告をすべき期間をも定めなければならない。
- 第4項 裁判所は、第1項の規定による決定を変更し、又は取り消すことができる。
- 第5項 第1項及び前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
- 第6項 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。
- 第7項 第5項に規定する裁判及び同項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。
- 第8項 第2項第1号に掲げる事項を職務として指定された個人再生委員は、再生債務者又はその法定代理人に対し、再生債務者の財産及び収入の状況につき報告を求め、再生債務者の帳簿、書類その他の物件を検査することができる。
- 第9項 個人再生委員は、費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる。
- 第10項 第54条第3項、第57条、第58条、第60条及び第61条第2項から第4項までの規定は、個人再生委員について準用する。
民事再生法 第244条
- 第221条第3項から第5項まで、第222条から第229条まで、第232条から第235条まで及び第237条第2項の規定は、給与所得者等再生について準用する。
前記のとおり、裁判所は、個人再生手続の指導監督をさせるために、個人再生委員を選任することができます。
もっとも、民事再生法によれば、個人再生委員を選任するかどうかは、個々の事件に応じて裁判所が決定することができるとされています(ただし、再生債権評価手続が行われる場合には、個人再生委員が必ず選任されます。)。
つまり、個人再生委員を選任せずに個人再生手続を進めるという場合もあるということです。実際、多くの裁判所では、個人再生委員を選任しないのが原則的運用であるというところもあります。
しかし.個人再生委員を選任した方が、より客観的に手続を進めていけることは確かです。
そのため、東京地方裁判所や東京地方裁判所立川支部では、原則として、内容を問わず、全件につき個人再生委員が選任されるという運用が行われています。
個人再生委員は、弁護士等の個人再生手続に精通した者が選ばれることになります。ただし、実際には、弁護士以外の者が選ばれたという例はないようです。
東京地方裁判所本庁では、基本的に、23区内に所在する法律事務所に所属する弁護士のうちで、個人再生手続の申立てや破産管財人等の経験が多く、しかも、弁護士登録10年以上の弁護士が個人再生委員に選任されるという運用になっています。
東京地方裁判所立川支部でも、多摩地区に所在する法律事務所に所属する弁護士のうちで、個人再生手続の申立てや破産管財人等の経験が多く、しかも、弁護士登録10年以上の弁護士が個人再生委員に選任されるという運用になっています。
ただし、立川支部の個人再生事件の場合には、23区内の弁護士が選任されるという場合もあります。
個人再生委員の役割・関与
前記のとおり、個人再生の手続は、基本的には、再生債務者が自ら進めていかなければなりません。したがって、個人再生委員が率先して、個人再生の各手続を行ってくれるというものではありません。
もっとも、再生債務者が個人再生手続を進めていくに当たって、重要となる手続の節目においては、個人再生委員の指導・監督がなされ、個人再生委員が裁判所に対して手続の進行について意見を述べることになります。
この個人再生委員の意見は、裁判所の判断に重大な影響を及ぼします。むしろ、ほとんど決定的な影響を及ぼすといってもよいかもしれません。
個人再生委員は、以下のとおり、個人再生手続の全般に関与し、手続において非常に重要な役割を担っているのです。
再生手続開始前の役割
個人再生を申し立てると、すぐに再生債務者と個人再生委員との打ち合わせ・事情の聴取が行われます。
また、個人再生委員が選任されている場合、履行テストは個人再生委員が管理することになりますので、個人再生委員が指定した銀行預金口座に、履行テストのための予納金を毎月振り込んでいくことになります。
個人再生委員は、事情聴取や履行テストの支払い状況などをもとに、個人再生手続を開始すべきかどうかについての意見書を作成して、それを裁判所に提出します。
この意見書が、個人再生手続を開始するかどうかに重大な影響を与えることになります。
再生手続開始後の役割
個人再生の手続が開始された後も、個人再生委員は、再生債務者の作成した債権認否一覧表や再生計画案などの提出を受けてそれをチェックし、場合によっては、中立・公平性を害しない程度で、それらの修正等の助言を行うこともあります。
また、個人再生委員は、再生債権者の書面決議に付する旨の決定や意見聴取に付する旨の決定をすべきかどうかや、再生計画認可決定をすべきかどうかについてなども意見を述べることになります。
これらの個人再生委員の意見は、裁判所が付議・付意見決定をするかどうか、最終的な再生計画の認可決定をするかどうかなどの判断において、非常に重大な影響を持ってきます。
その他、再生債権の評価申立てがなされた場合には、東京地裁以外の裁判所でも個人再生委員が必ず選任されることになっており、この個人再生委員が再生債権の評価手続を主導していくことになるなど、さまざまな場面で個人再生手続において役割を果たすことになります。
再生計画認可決定確定後の役割
個人再生においては、再生計画認可決定が確定すれば、手続としては終了ということになり、個人再生委員も任を解かれることになります。
ただし、再生計画に基づく弁済の遂行中に、再生計画変更の申立てやハードシップ免責の申立て等がなされた場合には、個人再生委員が新たに選任され、その個人再生委員が調査を行い、意見を述べることになります。
この場合、新たに選任される個人再生委員は、従前と同様の弁護士が選任されるのが通常です。