
個人再生の手続においては、裁判所によって個人再生委員が選任されることがあります。
個人再生委員の選任にあたって、裁判所は、①再生債務者の財産および収入の状況の調査をすること、②再生債権の評価手続に関する裁判所の補助をすること、③再生債務者による適正な再生計画案を作成するために必要な勧告をすること、のいずれか(または全部)の職務を指定することができるとされています。
個人再生委員が選任される場合、その個人再生委員がどのような意見を裁判所に提出するかは、個人再生の成否にかなり関わってきます。
個人再生委員の職務・役割
民事再生法 第223条
- 第1項 裁判所は、第221条第2項の申述があった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、一人又は数人の個人再生委員を選任することができる。ただし、第227条第1項本文に規定する再生債権の評価の申立てがあったときは、当該申立てを不適法として却下する場合を除き、個人再生委員の選任をしなければならない。
- 第2項 裁判所は、前項の規定による決定をする場合には、個人再生委員の職務として、次に掲げる事項の1又は2以上を指定するものとする。
- 第1号 再生債務者の財産及び収入の状況を調査すること。
- 第2号 第227条第1項本文に規定する再生債権の評価に関し裁判所を補助すること。
- 第3号 再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告をすること。
- 第3項 裁判所は、第1項の規定による決定において、前項第1号に掲げる事項を個人再生委員の職務として指定する場合には、裁判所に対して調査の結果の報告をすべき期間をも定めなければならない。
- 第4項 裁判所は、第1項の規定による決定を変更し、又は取り消すことができる。
- 第5項 第1項及び前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
- 第6項 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。
- 第7項 第5項に規定する裁判及び同項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。
- 第8項 第2項第1号に掲げる事項を職務として指定された個人再生委員は、再生債務者又はその法定代理人に対し、再生債務者の財産及び収入の状況につき報告を求め、再生債務者の帳簿、書類その他の物件を検査することができる。
- 第9項 個人再生委員は、費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる。
- 第10項 第54条第3項、第57条、第58条、第60条及び第61条第2項から第4項までの規定は、個人再生委員について準用する。
個人再生は、自己破産と異なり、裁判所から選任された破産管財人のような第三者が手続を主導していくわけではなく、再生債務者が自ら手続を主体的に進めて行かなければならない手続です。
もっとも、専門家である第三者による指導・監督のもとに手続を進めていく方が、適正・公平な手続を進めていくことができることはたしかです。
そこで、裁判所は、利害関係人の申立てまたは職権で、個人再生委員を選任することができるとされています(民事再生法223条1項)。
裁判所は、個人再生委員を選任するに当たって、以下の3つの職務のうちの1つまたは2つ以上を指定することになっています(民事再生法223条2項)。
- 再生債務者の財産および収入の状況の調査
- 再生債権の評価手続に関する裁判所の補助
- 再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告をすること
上記職務から分かるように、個人再生委員は、裁判所に代わって調査等を行うという裁判所の補助者としての役割を有するだけでなく、再生債務者に対する助言者としての役割も有しているといえます。
東京地方裁判所本庁および立川支部では、上記個人再生委員の役割を重視して、個人再生事件全件につき個人再生委員を選任することとし、その場合、上記3つの職務すべてを指定するという運用になっています。
他方、東京地裁以外の裁判所では、必ず個人再生委員が選任されるわけではなく、事案に応じて選任するか否かが決められています。
再生手続の開始における職務・役割
個人再生の手続を開始してもらうためには、法律で定められた再生手続開始の要件を満たしていることが必要です。
裁判所は、基本的に、提出された個人再生の申立書を審査して、開始要件を満たしているかどうかを判断します。
もっとも、裁判所は、個人再生委員を選任して、再生債務者の財産・収入の状況を調査の職務を指定して行わせることができます。
個人再生委員は、再生債務者の財産・収入状況等を調査して、それを裁判所に報告し、裁判所はその報告を参考にして開始要件を満たしているかどうかを判断することになります。
東京地方裁判所の場合
東京地方裁判所の場合は、個人再生申立てがされると、その段階で個人再生委員が選任されます。
そして、その個人再生委員が、申立書の審査・追加資料の提出の要請・再生債務者との面談などを行って再生債務者の財産・収入状況を調査します。
その上で、再生手続の開始要件を満たしているかどうかを判断し、それに基づいて、裁判所に対して、再生手続を開始すべきかどうかの意見書を提出することになっています。
裁判所は、個人再生委員からの意見を参考にして、再生手続開始決定をするか否かを判断することになります。もっとも、個人再生委員の意見がそのまま反映されるのが通常です。
個人再生委員が開始相当との意見を提出してくれれば、ほとんどの場合、再生手続開始となりますが、反対に、開始不相当との意見が提出されると、再生手続は却下されてしまう可能性が非常に高くなります。
また、東京地裁では履行テストが行われますが、この履行テストは、個人再生委員が管理することになります。
具体的には、申立てから6か月間、個人再生委員名義の預金口座に、再生計画における弁済額と同額を毎月振り込むという形で履行テストが行われていきます。
再生債権の調査における職務・役割
個人再生の手続においては、再生債権の確定のために再生債権の調査手続が行われます。
この債権調査において、再生債務者または再生債権者によって再生債権の評価申立てがなされた場合、裁判所は、個人再生委員を選任し、再生再生債権の評価に関して裁判所を補助する職務を指定して行わせることができます。
個人再生委員は、再生債務者・再生債権者等に対して資料の提出を求めるなどして再生債権の調査を行い、その調査結果を裁判所に報告し、また、評価に関する意見書を提出します。
裁判所は、その個人再生委員からの報告・意見をもとにして、再生債権評価の決定をすることになります。
東京地方裁判所の場合
東京地方裁判所の場合には、再生手続開始の申立ての時点で個人再生委員が選任され、かつ再生債権調査の補助職務も指定されているため、再生債権評価の申立てに際して、新たに個人再生委員が選任されることはありません。
したがって、当初から選任されている個人再生委員が、引き続いて再生債権の評価に関する調査を行い、裁判所に対して、調査の報告および評価に関する意見書を提出します。
この個人再生委員による再生債権評価の意見は、裁判所の評価決定において重要な影響を及ぼします。
また、東京地裁の場合には、上記再生債権の評価だけでなく、再生債権の認否においても、個人再生委員が再生債務者の作成した債権認否一覧表および財産状況に関する報告書をチェックして、再生債務者に訂正等をアドバイスするという職務も行います。
再生計画の認可における職務・役割
個人再生においては、再生債務者が再生計画案を作成し、これについて再生債権者の同意または意見を求めた上で、裁判所が再生計画の認可要件を満たしているかどうかを判断することになります。
裁判所は、再生計画案の適正な作成のために、個人再生委員を選任し、再生計画案作成に関する再生債務者への勧告の職務を指定して行わせることができます。
選任された個人再生委員は、再生債務者の作成した再生計画案をチェックして、適正な再生計画案が作成されるように、適宜、その訂正等の勧告・アドバイスを行うことになります。
個人再生委員の勧告等によって作成された再生計画案が裁判所に提出されると、裁判所は、再生計画案が適正であるか否かを審査します。
その上で、小規模個人再生の場合であれば再生計画案を再生債権者の決議に付する旨の決定(付議決定)を、給与所得者等再生の場合であれば届出再生債権者の意見を聴く旨の決定(付意見決定)をします。
そして、上記債権者の決議や意見を経て、再生計画認可の要件を判断し、認可または不認可の決定をすることになります。
東京地方裁判所の場合
東京地方裁判所の場合も、再生債務者は再生計画案を個人再生委員に提出して、個人再生委員はその再生計画案をチェックし、訂正を求めるなど、適正な再生計画案が作成されるよう指導します。
個人再生委員によるチェックの上で再生計画案が作成され、それが裁判所に提出されると、個人再生委員は、裁判所に対して、小規模個人再生の場合であれば付議決定をすべきかどうかの意見書を、給与所得者等再生の場合であれば付意見決定をすべきかどうかの意見書を提出します。
裁判所は、上記個人再生委員の意見を参考として、付議または付意見決定をするかどうかを判断します。
付議決定または付意見決定がなされ、債権者から不同意回答書や意見書が提出されると、個人再生委員は、それらの意見をもとに、さらに再生計画の認可要件を調査して、裁判所に対して、再生計画を認可するのが相当であるかどうかの意見書を提出します。
裁判所は、個人再生委員からの意見書を参考として再生計画認可の可否を判断することになります。
再生計画認可決定後の職務・役割
再生計画が認可され、認可決定が確定すると、個人再生手続は終了となり、選任されていた個人再生委員は解任されることになります。
もっとも、再生計画認可決定後に、再生債務者が再生計画に基づく弁済をできなくなったなどの事情があり、再生計画変更の申立てやハードシップ免責の申立てがなされた場合には、個人再生委員が選任されます。
個人再生委員は、再生債務者の財産・収入等の状況を調査し、変更再生計画案のチェックや再生計画変更の決定や免責決定が相当かどうかの意見書の提出等の職務を行うことになります。
その他の職務・役割
前記の職務のほか、個人再生委員は、抵当権実行手続中止の申立てや再生手続廃止の申立てがなされた場合等にも選任され、裁判所の調査等の補助を行う場合があります。