
個人再生(個人民事再生)を利用して債務整理を実現するためには,裁判所によって再生計画を認可してもらわなければなりません。
個人再生の再生計画を認可してもらうためには,まず,再生手続を開始してもらわなければなりませんが,そのためには,再生手続の開始要件を充たしている必要があります。さらに,再生計画を認可してもらうためには,再生計画認可の要件も充たしていなければなりません。
また,再生手続中に再生手続が廃止されてしまえば無意味となるので,再生手続廃止事由がないことも要件として必要と言えるでしょう。
これら再生手続開始要件や再生計画認可要件などは,小規模個人再生と給与所得者等再生では異なる部分があります。また,住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用する場合には,住宅資金特別条項に固有の要件も充たしている必要があります。
個人再生(個人民事再生)の要件
個人再生(個人民事再生)の手続を利用する目的は,裁判所によって再生計画を認可してもらうということです。
もっとも,個人再生も裁判手続です。したがって,個人再生の再生計画を認可してもらうに至るまでには,民事再生法で定めるさまざまな法律要件を充たしていることが必要となります。
この個人再生の要件は,最低でも2つの場面においてそれぞれ要件を満たしている必要があります。
1つは,再生手続を開始してもらう場面での要件です。
まずは再生手続を開始してもらわなければ,そもそも再生計画を認可してもらえるかどうかという話にすらなりません。そこで,再生手続を開始してもらうための再生手続開始要件を満たしていることが必要となります。
もう1つは,再生計画を認可してもらう場面での要件です。
再生手続が開始されたからといって,必ず再生計画が認可されるわけではありません。再生手続開始要件とは別に,再生計画を認可してもらうための再生計画認可要件も満たしていなければなりません。
また,一定の事由(廃止事由)がある場合には,再生手続が開始されたとしても,再生計画認可の判断に至る前に,再生手続が廃止により打ち切られてしまう場合もあります。
再生手続が廃止されてしまうと再生計画が認可されることもなくなってしまうので,廃止事由に該当しないことも,個人再生を成功させるために必要な要件と言えるでしょう。
さらにいえば,個人再生には,住宅ローンの残っている自宅を処分せずに住宅ローン以外の借金を個人再生で整理できる住宅資金特別条項(住宅ローン特則)という特殊な制度が用意されています。これを利用する場合には,別途,住宅資金特別条項を利用するための要件も必要となってきます。
これらの要件をすべて充たしていてはじめて,個人再生における再生計画の認可に至るのです。
個人再生の再生手続開始の要件
前記のとおり,まずは何より,個人再生の手続を開始してもらわなければ話になりません。個人再生手続を開始してもらうためには,再生手続開始の要件を満たしている必要があります。
再生手続開始の要件を満たしているかどうかは,再生手続開始決定(または棄却等)をする時点で判断されます。
再生手続開始要件としては,以下の要件が必要です。
- 個人再生を含む民事再生手続全般に必要とされる開始要件
- 個人再生特有の開始要件
- 小規模個人再生であれば小規模個人再生特有の開始要件
- 給与所得者等再生であれば給与所得者等再生特有の開始要件
- 住宅資金特別条項を利用する場合には,再生計画に住宅資金特別条項を定めるための要件
これらの要件を満たしていてはじめて,個人再生の手続を開始してもらうことができるのです。
民事再生手続全般に共通の開始要件
個人再生を含む民事再生手続全般に共通する再生手続開始要件としては,以下のものがあります。
- 再生手続開始原因があること
- 再生手続開始申立棄却事由がないこと
- 申立てが適法であること
個人再生共通の開始要件
前記民事再生全般共通の開始要件のほか,個人再生(小規模個人再生および給与所得者等再生)を利用する場合には,以下の再生手続開始要件も必要となります。
- 債務者が個人であること
- 債務者に継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
- 再生債権額が5000万円を超えていないこと
小規模個人再生特有の開始要件
個人再生のうち小規模個人再生の場合には,上記個人再生共通の開始要件のほか,以下の要件を満たしていることも必要です。
- 小規模個人再生を行うことを求める旨の申述をしたこと
給与所得者等再生特有の開始要件
個人再生のうち給与所得者等再生の場合には,前記個人再生共通の開始要件のほか,以下の要件を満たしていることも必要です。
- 債務者に給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいこと
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日,ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日,破産免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てでないこと
- 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述をしたこと
個人再生手続を継続していくための要件
個人再生手続が開始されても,再生計画認可の判断に行きつく前に,手続が廃止による打ち切りにされてしまうと,個人再生は無意味になってしまいます。
したがって,再生手続の廃止事由がないことも,個人再生を成功させるために必要となる要件であるといえるでしょう。
小規模個人再生の場合
小規模個人再生においても,一定の事由がある場合には,再生手続が廃止されてしまうことがあります。
また,小規模個人再生においては,再生債権者による再生計画案の決議が行われます。この決議において,再生計画案が可決されなかった場合も,小規模個人再生の手続は廃止されてしまいます。
小規模個人再生の手続を廃止されないためには,再生手続中を通じて以下の要件を充たしている必要があります。
- 決議に付するに足りる再生計画案の作成の見込みがあること
- 再生計画案提出期間またはその伸長期間内に,決議に付するに足りる再生計画案を提出したこと
- 民事再生法41条1項各号及び同法42条1項各号に定める行為をする場合には,裁判所の許可を得ること
- 再生計画案の決議において,不同意を述べた再生債権者が,議決権を有する再生債権者の総数の半数に満たず,かつ,その議決権を有する再生債権者の再生債権の額が総額の2分の1を超えないため,再生計画案が可決されたこと
- 財産目録に不正なく記載すべき財産を記載していること
なお,債権届出期間後再生計画認可の決定の確定前に再生手続開始事由の不存在が明らかになった場合にも,再生手続は廃止されます(民事再生法192条1項)。
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の手続を廃止されないためには,再生手続中を通じて以下の要件を充たしている必要があります。
- 不認可事由のない再生計画案作成の見込みがあること
- 再生計画案提出期間またはその伸長期間内に,不認可事由のない再生計画案を提出したこと
- 民事再生法41条1項各号及び同法42条1項各号に定める行為をする場合には,裁判所の許可を得ること
- 財産目録に不正なく記載すべき財産を記載していること
なお,債権届出期間後再生計画認可の決定の確定前に再生手続開始事由の不存在が明らかになった場合にも,再生手続は廃止されます。
個人再生の再生計画認可の要件
個人再生手続が開始されても,最終的に裁判所による再生計画認可決定をしてもらえないのでは,個人再生をした意味がありません。再生計画を認可してもらうためには,再生計画認可要件が必要となります。
再生計画認可の要件を満たしているかどうかは,再生計画認可または不認可決定をする時点で判断されます。
再生計画認可要件としては,以下の要件が必要です。
- 個人再生を含む民事再生手続全般に必要とされる認可要件
- 個人再生特有の再生計画認可要件
- 小規模個人再生であれば小規模個人再生特有の認可要件
- 給与所得者等再生であれば給与所得者等再生特有の認可要件
- 住宅資金特別条項を利用する場合には,住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可要件
これらの要件を充たしていなければ,個人再生の再生計画を認可してもらうことはできません。
民事再生手続全般に共通の認可要件
個人再生を含む民事再生手続全般に共通する再生計画認可の要件としては,以下のものがあります。
- 再生計画遂行の見込みがあること
個人再生特有の再生計画認可要件
前記民事再生全般共通の認可要件のほか,個人再生(小規模個人再生および給与所得者等再生)を利用する場合には,個人再生共通の要件として,以下の再生計画認可要件も必要となります。
- 再生債権額が5000万円を超えないこと
- 再生計画に基づく弁済額が民事再生法231条2項3号から4号に定める最低弁済額を下回っていないこと
- 再生手続又は再生計画に不備を補正できない法律違反がないこと
小規模個人再生特有の再生計画認可要件
個人再生のうち小規模個人再生の場合には,前記個人再生共通の認可要件のほかに,さらに小規模個人再生特有の認可要件も必要となります。
- 再生計画の決議が不正の方法によって成立したものでないこと
- 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するものでないこと
- 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること
給与所得者等再生特有の再生計画認可要件
個人再生のうち給与所得者等再生の場合には,前記個人再生共通の認可要件のほかに,さらに給与所得者等再生特有の認可要件も必要となります。
- 再生手続に不備を補正できない重大な法律違反があること
- 再生計画に不備を補正できない法律違反があること
- 再生計画が再生債権者の一般の利益に反しないこと
- 債務者に給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいこと
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日,ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日,破産免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てでないこと
- 計画弁済総額が可処分所得額の2年分以上であること
住宅資金特別条項を利用する場合
住宅資金特別条項を利用する場合には,これまでに述べてきた個人再生の各要件に加えて,住宅資金特別条項に固有の要件を満たしている必要があります。
- 再生計画に住宅資金特別条項を定めるための要件
- 住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可要件
再生計画に住宅資金特別条項を定めるための要件
まずそもそも、再生計画に住宅資金特別条項を定めることができる場合でなければなりません。再生計画において住宅資金特別条項を定めることができるのは,以下の要件を充たしている場合です。
住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可要件
住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されるためには,各個人再生手続の認可要件および再生計画に住宅資金特別条項を定めることができる場合の要件のほか,以下の要件も必要となります。
- 住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出したこと
- 再生計画が遂行可能であると認められること
- 再生債務者が住宅の所有権又は住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれないこと
個人再生の要件・利用条件のまとめ
以上のとおり,個人再生(個人民事再生)を利用して裁判所による再生計画認可決定を受けるためには,さまざまな要件をクリアしていなければなりません。しかも,それぞれの要件には,法的な解釈が必要となるものもあります。
小規模個人再生の要件・利用条件のまとめ
小規模個人再生の再生手続を開始してもらい,再生計画を認可してもらうためには,主として以下の要件が必要となってきます。
- 再生手続開始原因があること
- 再生手続開始申立棄却事由がないこと
- 申立てが適法であること
- 債務者が個人であること
- 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること
- 再生債権額が5000万円を超えていないこと
- 小規模個人再生を行うことを求める旨の申述をしたこと
- 再生手続又は再生計画に不備を補正できない法律違反がないこと
- 民事再生法41条1項各号及び同法42条1項各号に定める行為をする場合には,裁判所の許可を得ること
- 財産目録に不正なく記載すべき財産を記載していること
- 再生計画案提出期間またはその伸長期間内に,決議に付するに足りる再生計画案を提出したこと
- 再生計画遂行の見込みがあること
- 再生計画に基づく弁済額が民事再生法231条2項3号から4号に定める最低弁済基準額を下回っていないこと
- 再生計画の決議が不正の方法によって成立したものでないこと
- 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するものでないこと
- 再生計画案の決議において,不同意を述べた再生債権者が,議決権を有する再生債権者の総数の半数に満たず,かつ,その議決権を有する再生債権者の再生債権の額が総額の2分の1を超えないため,再生計画案が可決されたこと
給与所得者等再生の要件・利用条件のまとめ
給与所得者等再生の再生手続を開始してもらい,再生計画を認可してもらうためには,主として以下の要件が必要となってきます。
- 再生手続開始原因があること
- 再生手続開始申立棄却事由がないこと
- 申立てが適法であること
- 債務者が個人であること
- 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること
- 再生債権額が5000万円を超えていないこと
- 債務者に給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいこと
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日,ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日,破産免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てでないこと
- 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述をしたこと
- 再生手続に不備を補正できない重大な法律違反がないこと
- 民事再生法41条1項各号及び同法42条1項各号に定める行為をする場合には,裁判所の許可を得ること
- 財産目録に不正なく記載すべき財産を記載していること
- 再生計画案提出期間またはその伸長期間内に,不認可事由のない再生計画案を提出したこと
- 再生計画に不備を補正できない法律違反がないこと
- 再生計画遂行の見込みがあること
- 再生計画に基づく弁済額が民事再生法231条2項3号から4号に定める最低弁済基準額を下回っていないこと
- 再生計画が再生債権者の一般の利益に反しないこと
- 計画弁済総額が可処分所得額の2年分以上であること
住宅資金特別条項の要件・利用条件のまとめ
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用する場合には,上記の小規模個人再生または給与所得者等再生の要件に加えて,主として以下の要件を充たしていることも必要となってきます。
- 住宅資金特別条項の対象となる債権が「住宅資金貸付債権」に当たること
- 住宅資金貸付債権が法定代位により取得されたものでないこと
- 対象となる住宅に住宅ローン関係の抵当権以外の担保が設定されていないこと
- 対象となる住宅以外の不動産にも住宅ローン関係の抵当権が設定されている場合には,その住宅以外の不動産に後順位抵当権者がいないこと
- 個人再生申立ての際に提出する債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨を記載すること
- 住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出したこと
- 再生計画が遂行可能であると認められること
- 再生債務者が住宅の所有権又は住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれないこと