
個人再生(個人民事再生)には,小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類の手続が用意されています。
このうち,小規模個人再生とは,個人である債務者のうち,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり,再生債権額が5000万円を超えないものが行うことを求めることができる民事再生法第13章第1節に規定する特則の適用を受ける民事再生手続のことをいいます(民事再生法221条1項)。
小規模個人再生とは
本来,法人を対象としている民事再生手続を個人でも利用できるように設けられたのが,個人再生の手続です。この個人再生には,「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という2つの手続が用意されています。
個人再生のうちでも基本類型となるのが小規模個人再生です。給与所得者等再生は,小規模個人再生の特則という位置づけになります。
小規模個人再生とは,個人である債務者のうち,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり,再生債権額が5000万円を超えないものが行うことを求めることができる民事再生法第13章第1節に規定する特則の適用を受ける民事再生手続のことをいいます(民事再生法221条1項)。
小規模個人再生は,もともともは,小規模の個人事業者を対象とすることを想定して策定された制度です。
しかし,実際には,後述のとおり,給与所得者等再生よりもメリットが大きい部分があることから,給与所得者であってもこの小規模個人再生を利用するのが一般的です。
小規模個人再生の要件
小規模個人再生は,借金などの債務を整理するためには,非常に有効な制度です。もっとも,裁判手続ですから,それを利用するための条件(法律要件)を充たしていなければ利用できません。
個人再生の手続においては、再生手続を開始させるかどうかという段階、再生手続を継続していってよいかという段階,さらに,再生計画を認可させてよいかどうかという段階の各段階において,それぞれ要件の審査が行われます。
つまり,小規模個人再生の再生計画が認可されるためには,それぞれの段階において,再生手続開始の要件と再生計画認可の要件を充たしている必要があるのです。
小規模個人再生の再生手続開始要件
小規模個人再生を利用するためには,まずは再生手続を開始してもらわなければ話になりません。小規模個人再生の再生手続開始の要件としては、以下のものがあります。
- 再生手続開始原因があること(民事再生法21条1項)
- 再生手続開始申立棄却事由がないこと(民事再生法25条)
- 申立てが適法であること
- 債務者が個人であること
- 債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある者であること(利用適格要件)
- 負債総額が5000万円を超えていないこと
- 小規模個人再生を行うことを求める旨の申述をすること
小規模個人再生の再生手続を継続していくための要件
小規模個人再生の手続が開始されても,手続が途中で廃止されて打ち切られてしまっては認可は受けられません。小規模個人再生において手続を継続していくための要件としては,以下のものがあります。
- 決議に付するに足りる再生計画案の作成の見込みがあること
- 再生計画案提出期間またはその伸長期間内に,決議に付するに足りる再生計画案を提出したこと
- 民事再生法41条1項各号及び同法42条1項各号に定める行為をする場合には,裁判所の許可を得ること
- 財産目録に不正なく記載すべき財産を記載していること
再生債権者による再生計画案の決議
小規模個人再生においては,再生債権者による再生計画案の決議が行われます。この決議において再生計画案が否決されると,再生手続は廃止され,認可される前に手続が打ち切られてしまいます。
具体的に言うと,以下の場合には,再生計画案は否決されたものとして扱われてしまいます。
- 不同意回答をした議決権者が,議決権者総数の半数以上である場合
- 不同意回答をした議決権者の議決権の額が,議決権者の議決権総額の2分の1を超える場合
小規模個人再生の再生計画認可要件
小規模個人再生の再生手続が開始され,再生債権者による決議において可決されたとしても,最終的に,裁判所による再生計画認可決定をもらわなければ意味がありません。
小規模個人再生の再生計画認可の要件としては、以下のものがあります。
- 再生手続に不備を補正できない重大な法律違反がないこと
- 再生計画に不備を補正できない法律違反がないこと
- 再生計画遂行の見込みがあること
- 再生計画の決議が不正の方法によって成立したものでないこと
- 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反していないこと
- 債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある者であること(利用適格要件)
- 再生債権総額が5000万円を超えていないこと
- 計画弁済総額が最低弁済額を下回っていないこと
- 清算価値保障原則を充たしていること
小規模個人再生の効果
小規模個人再生において,裁判所によって再生計画が認可されると,その再生計画に従って弁済をしていけばよいことになります。
もちろん,どのような内容の再生計画でもよいわけではありません。民事再生法で定める要件を充たした再生計画でなければ認可されることはありません。
しかし,小規模個人再生の再生計画では,事案にもよりますが,債務の減額と長期分割払いを定めることができます。具体的に言うと,小規模個人再生には以下のような効果が見込めます。
- 債務額を最低弁済額(債務額を5分の1から10分の1までに減額。ただし,最少額は100万円まで。)または破産した場合の配当予想額(清算価値)のいずれか高い方にまで減額できる。
- 3年から5年の分割払いにできる。
債務の減額
最低弁済額は,民事再生法で決められており,どのくらいの減額率となるのかは債務総額によって異なります。具体的には,以下の金額です。
- 無異議債権額および評価済債権額の総額が3000万円以下の場合は,基準債権額による。
- 基準債権額が100万円未満の場合,最低弁済額は「その基準債権額」
- 基準債権額が100万円以上500万円未満の場合,最低弁済額は「100万円」
- 基準債権額が500万円以上1500万円未満の場合,最低弁済額は「基準債権の5分の1」
- 基準債権額が1500万円以上の場合,最低弁済額は「300万円」
- 無異議債権額および評価済債権額の総額が3000万円を超え,5000万円以下の場合,最低弁済額は「無異議債権額および評価済債権額の総額の10分の1」
無異議債権額、評価済債権額、基準再生額は、とりあえず借金・債務の額と考えておけばよいでしょう。
例えば,500万円の債務であれば,最低弁済額は5分の1の100万円になります。債務額が4000万円であれば,最低弁済額は10分の1の400万円になります。
ただし,財産の価額の総額が最低弁済額を上回る場合には,財産価額総額までしか減額できません。これを清算価値保障原則といいます。
したがって,例えば,債務額500万円の場合,財産価額総額が200万円であれば,最低弁済額の100万円ではなく,200万円までしか減額できないということです。
分割払い
小規模個人再生においては,上記の減額された弁済額を,分割で支払っていくことになります。分割の期間は原則として3年間ですが,事情によっては5年の期間とすることもできます。
支払いのペースは毎月1回が基本ですが,3か月に1回などにすることも可能です。
給与所得者等再生との違い
前記のとおり,個人再生には,小規模個人再生と給与所得者等再生という2つの手続があります。
小規模個人再生と給与所得者等再生の手続の流れ自体は大きな違いはありませんが,もちろんいくつかの点で違いはあります。
大きな違いは,以下の2点でしょう。
要件における違い
小規模個人再生と給与所得者等再生は,要件が異なります。
小規模個人再生と給与所得者等再生のいずれでも収入の継続性・安定性が求められますが,小規模個人再生は、給与所得者等再生ほどの収入の安定性は求められていません。給与所得者等再生の方が、より安定した収入がないといけないということです。
また,後述のとおり,給与所得者等再生の場合には再生計画案に対する再生債務者による決議は行われませんが,小規模個人再生においては,再生債権者による決議が行われます。
弁済金額における違い
小規模個人再生の場合には,返済の総額を,最低弁済額または破産した場合の配当予想額(清算価値)のいずれか高い方以上の金額に設定する必要があります。
そのため,清算価値が小さければ,借金(担保の付いている債権を除く。)の総額が最大で原則5分の1(ただし,借金が3000万円を超えるような場合は10分の1)にまで減額することも可能となります。
小規模個人再生の場合は,基本的に,債権額を基準として返済の金額が決められるということです。
給与所得者等再生も,返済総額を最低弁済額または破産した場合の配当予想額(清算価値)のいずれか高い方以上の金額にしなければならないことは,小規模個人再生の場合と同じです。
しかし,給与所得者等再生の場合には,債権額ではなく,債務者が支払える金額も返済総額を決めるための基準に加えられます。
具体的に言うと,定期収入から税金等を差し引いて返済に充てられる最大限の金額(可処分所得)を算定し,その2年分以上を返済金額としなければならないとされています。
つまり,給与所得者等再生の場合は,返済総額を,最低弁済額,清算価値の額または可処分所得の2年分の額の全部のうちで最も高い金額以上の金額に設定する必要があるということです。
そのため,小規模個人再生の方が給与所得者等再生よりも,返済する金額は小さくなることが多いでしょう(ただし,財産価値総額を基準に債務額を定める場合には同じになることもあります。)。
したがって,返済金額から考えると,給与所得者等再生よりも小規模個人再生の方が債務者にとって有利であるといえます。
債権者の消極的同意の要否における違い
小規模個人再生の場合,その再生計画案が,再生債権者による決議において,再生債権者の頭数の半数以上又は再生債権額の過半数以上の消極的同意を得られなければ,再生手続が廃止されてしまい,認可に至る前に手続を打ち切られてしまいます。
消極的同意とは,要するに,再生計画案に対して異議(不同意)を述べないということです。異議を出さない再生債権者が,全再生債権者の頭数の半数未満かつ再生債権額の2分の1以下であるということが必要となるのです。
いいかえれば,再生債権者の頭数の半数以上または再生債権額の過半数を有する債権者が再生計画に異議を出すと,認可されないまま再生手続が終了させられてしまうのです。
これに対して,給与所得者等再生は,再生債権者による決議が行われませんので,再生債権者の消極的同意は必要ないものとされています。
小規模個人再生の場合,給与所得者等再生と異なり,再生債権者の意向によって手続が左右されてしまう可能性があるということです。
ただし,反対をしてくる債権者は限られています。今のところ,多くの信販会社や消費者金融,銀行などは異議を出してくることはあまりありません。
どのような場合に小規模個人再生を選べばよいのか?
前記のとおり,個人再生には,小規模個人再生と給与所得者等再生という2つの手続があります。そのため,どちらを選択すべきなのかという問題があります。
小規模個人再生が,給与所得者等再生よりも債務者にとって有利な点・メリットのある点は,やはり返済金額です。返済金額が少額で済むという点で,小規模個人再生の方が債務者にとって有利であるといえます。
そのため,小規模個人再生が多く用いられています。というよりも,個人再生の申立ての大半が小規模個人再生による申立てです。したがって,まずは小規模個人再生を検討するのが通常です。
もっとも,小規模個人再生の場合,一定数以上の債権者による消極的同意を得られなければ手続を廃止されてしまうというデメリットがあります。
不同意意見を出す債権者は限られていますが,あらかじめ消極的同意を得ることが難しいと想定される場合には,給与所得者等再生の選択も検討しなければならないでしょう。