
生活保護を受給中であるからと言って、任意整理できないわけではありません。しかし、生活保護給付を返済に充てるのは、生活保護制度の趣旨に沿いません。したがって、生活保護受給中の場合には、任意整理以外の債務整理(自己破産)を検討した方がよいでしょう。
生活保護受給中の任意整理の可否
生活保護を受給中だけれども、少しでも返済したいので任意整理をしたいという人がいるかもしれません。
生活保護受給中に任意整理をするということは,生活保護の給付金を借金の返済に充てるということですから,そもそも許されるのかということが問題となります。
役所の生活保護課等の職員の中には,生活保護は生活を安定させるために特別に支払われる金銭なので,生活費にしか使えず,借金の返済に充てるようなことは許されないなどという人がいるようです。
しかし,借金の返済に充てるお金も生活に必要な金銭ということができますし,そもそも生活保護の給付金の使途については法律上の制限がありません。明らかに生活保護の趣旨に反するような使用以外は,原則としてその使途は自由なのです。
したがって,生活保護受給金を全部借金の返済に充てる借金の返済に充てるようなことはともかくとして,受給金の一部を借金返済に充てることも,法令上・理論上は許されるということになります。
つまり,生活保護受給中でも任意整理は不可能ではないということです(なお、後述のとおり、不可能ではないとしても、妥当ではありません。)。
返済原資は親族などが援助してくれるというような場合であれば,なおさら任意整理をすることに問題はないでしょう。
生活保護受給中に任意整理することの妥当性
前記のとおり、理屈の上では、生活保護受給中に任意整理することも不可能ではありません。
しかし、生活保護の趣旨は、最低限度の生活を維持することにあります。しかも、国民の税金から支出されるものです。生活保護給付を返済原資にして任意整理をすることは、生活保護制度の趣旨に沿わないものであり、妥当とは言えません。
何より、生活自体が厳しくて生活保護を受給しているというのに、借金の返済をしてより生活を厳しくしてしまっては、経済的に更生するのも難しくなってしまいます。
現在では,日本司法支援センター(法テラス)では,自己破産の場合に,弁護士費用だけでなく,裁判所に支払う予納金も立て替えてくれることになっており,しかも,生活保護受給者の場合には,立替金の返還も免除されることになっていますから,自己破産をする方が有利です。
そのため、生活保護受給中の場合には、自己破産を選択すべきでしょう。実際、生活保護のケースワーカーなどからも、借金がある場合には、自己破産を勧められることが多いようです。
もっとも,毎月の返済額が数万円程度と非常に少額であり、自己破産が認められないと考えられるような非常に例外的な場合には、任意整理を選択する場合もあるでしょう。
まとめ
以上のとおり、生活保護受給中でも、任意整理は不可能ではありません。
インターネットをみると「生活保護受給中は借金返済できない」「生活保護中は任意整理できない」と書かれている記事もあります。弁護士や司法書士のサイトにさえ、そのように書かれている記事が多くありますが、借金返済できない、任意整理できない、わけではありません。
そもそも借金返済できなかったら、家具や家電などを分割払いで買うこともできません。
「借金返済・任意整理ができない」のではなく、「生活保護給付を借金返済・任意整理に充てるのは妥当ではない」が正解です。
弁護士・司法書士の中には、生活保護受給中は自己破産しか受け付けないという場合もあります。したがって、現実的にも、生活保護受給中に任意整理をするのは難しいかもしれません。
やはり、生活保護受給中は、法テラスを使って自己破産することを検討すべきです。