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一部の債権者だけ任意整理できるか?

任意整理の画像
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任意整理では、一部の債権者だけ対象とすることも可能です。ただし、リスクもあります。複数の債権者がいる場合、すべての債権者を対象として任意整理をするのが原則です。

一部債権者だけを対象とする任意整理の可否

例えば,債権者として消費者金融A社,住宅ローンを借りているB銀行がいたとします。こういう場合に,A社からの借金だけ任意整理をして,B銀行は普通に支払っていくという方法をとることができるのでしょうか?

つまり、複数の債権者がいるにもかかわらず、一部の債権者だけを対象にして任意整理できるのかという問題です。

任意整理も,裁判手続ではないとはいえ,倒産手続の一種です。そのため,債権者平等の原則が妥当します。債権者平等の原則とは,すべての債権者を平等に扱うという意味です。

一部の債権者だけ任意整理をし,その他の債権者については任意整理をしないということになると,任意整理をした債権者だけは,約定どおりの返済を受けられなくなるのに,その他の債権者は約定どおりの返済を受け続けることができるということになり,債権者平等に反する可能性があります。

そのため,任意整理においても,原則として,すべての債権者を対象として任意整理をすべきではあります。

しかし、任意整理はあくまで私的な交渉です。債権者平等以上の具体的な制約があるわけではありません。したがって、一部の債権者だけを対象として任意整理をすることは可能です

ただし、常に一部だけを対象とできるわけではなく、また、リスクもあります。

一部の債権者だけの任意整理の条件

前記のとおり、一部の債権者だけを対象とする任意整理は可能です。ただし、常に可能なわけではありません。以下のような場合には、一部の債権者だけを対象とする任意整理は難しいでしょう。

返済原資が不足する場合

返済の原資との関係で,全社まとめて任意整理を行わないと,各社の返済金額を調整できないという場合こともあります。

例えば、債権者はA、B、Cの3社、毎月の返済可能な金額が5万円だったとして、そのうちのAとBだけ任意整理をして、Cは通常どおり支払っていくこととします。

しかし、この事案で、Cへの返済額が3万円で、AとBへの返済は任意整理をしても3万円だった場合、返済可能額5万円を超えてしまっているので、全部を返済できないことになってしまいます。このような場合には、A、B、Cの3社をまとめて任意整理をする必要があります。

したがって、任意整理の場合であっても、一部の債権者だけを対象とするということは常に可能なわけではありません。一部しか任意整理しないことによって返済原資が不足するのであれば、一部だけの任意整理はできないということになります。

後に自己破産や個人再生を行う可能性がある場合

一部債権者のみ任意整理をした場合、任意整理をした後に自己破産個人再生をする場合において不利益を生じる可能性があります。特に,任意整理をした債権者から過払い金が返還された場合が,最も不利益を生じる可能性が高くなります。

例えば,過払い金が発生する見込みのある貸金業者またはすでに完済していて過払い金返還しかないという貸金業者のみを対象とし,その他債務が残る債権者は対象としないで任意整理をしたとします。

この場合に,過払い金回収後,任意整理をしなかった債権者への返済ができなくなり,自己破産や個人再生をする必要が出てくるという場合があります。

しかし,過払い金は,自己破産や個人再生においては資産として扱われます。完済した貸金業者から過払い金の返還を受けた場合も同様です。

資産として扱われるということは,自己破産においては,債権者への配当の原資となるということですし,個人再生においては,清算価値保障原則から返済金額に影響してくるということになります。

ところが,すでにその過払い金を使い切ってしまっていたとすると,配当原資に充てることができなくなってしまいます。これは,配当すべき財産を処分してしまったということで,免責不許可事由となる場合があります。

また,過払い金を親族等への返済に使ってしまっていたような場合には,破産管財人がその親族に対して,否認権を行使して,支払った金銭の返還を請求するというような事態になるおそれもあります。

個人再生の場合も,免責不許可事由はありませんが,上記否認権行使の問題が生ずることはあります。また,過払い金が高額である場合,清算価値に加えられて返済金額が大きくなることもあります。

その際,過払金が残っていれば,それを返済に充てればよいでしょうが,もし残っていなければ高額の返済をしていかなければならなくなります。その返済が難しいと裁判所が判断すれば,個人再生が認可されなくなるということもあり得るのです。

このように、自己破産や個人再生で不利益を生じる可能性があることから、収支からみて返済原資が十分にあり、一部債権者だけしか任意整理をしなかったとしても返済が滞ることはないと認められるような場合でなければ、一部債権者だけの任意整理はできないということになります。

原則は全債権者を対象とした任意整理

前記のとおり、一部債権者のみ任意整理をした結果、任意整理に失敗したり、自己破産や個人再生で不利益を生じてしまって問題となるケースが少なからずあります。

そのため、日本弁護士連合会(日弁連)では,「債務整理事件処理の規律を定める規程」を制定し,原則として、一部債権者だけ(特に過払いとなっている貸金業者だけ)任意整理をすることはできないものと定めています。

したがって、任意整理は、全債権者を対象とするのが原則です。一部の債権者だけを対象とする任意整理も可能ではありますが、特別な事情(住宅ローンや自動車ローンなどは外したいなどの事情)がない限りは、全債権者を対象としておいた方がよいでしょう。

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