
リボルビング方式貸付の場合におけるみなし弁済の成立を否定した最高裁判例として、最高裁判所第一小法廷平成17年12月15日判決があります。
リボルビング方式におけるみなし弁済
かつての貸金業の規制に関する法(貸金業規制法。現在は貸金業法)には「みなし弁済」という制度がありました。これは,利息制限法所定の制限利率を超える利率の利息を受領したとしても,旧貸金業規制法43条1項の要件を満たす限り,それを有効な弁済として扱うという制度です。
現在ではすでに廃止されていますが,このみなし弁済は,貸金業者に極めて有利,消費者側に極めて不利な制度でした。
このみなし弁済が適用されるためには,旧貸金業規制法17条所定の要件を満たす書面(17条書面)の交付が必要とされていました。
そして,17条書面というためには,「返済期間及び返済回数」の記載(貸金業法17条1項6号)や「各回の返済期日及び返済金額」(貸金業法施行規則13条1項1号チ)の記載が必要とされていました。
これについて問題となるのが,リボルビング方式による貸付の場合です。リボルビング方式とは,要するに,毎月一定額の最低返済額と経過利息を支払うという方式のことです。
取引の途中で追加の貸付がなされた場合には,それまでの借入れも併せた残元利金について,最低返済額が設定され,それと経過利息とを毎月支払っていくことになります。
リボルビング方式の場合,すべての残元利金を併せた金額をもとに最低返済額を支払っていくことになるので,個々の貸付について返済期間や返済回数を定めることができません。
また,追加の借入れがなされると返済金額もそれに応じて変更されることになりますから,あらかじめ各回の返済金額を定めておくことも困難といえるでしょう。
そのため、貸金業者側から、このリボルビング方式の場合には「返済期間及び返済回数」の記載や「各回の返済金額」を17条書面に記載することは不可能ないし困難であるから、これらを記載していない場合でも17条書面を交付したものと言えるという主張がなされていました。
この主張に対し,そのような書面では17条書面を交付したとはいえないとして,みなし弁済の成立を否定する判断を下したのが,最高裁判所第一小法廷平成17年12月15日判決(最一小判平成17年12月15日)です。
最一小判平成17年12月15日の解説
最高裁判所第一小法廷平成17年12月15日判決は,以下のとおり判示しています(以下の引用は抜粋。)。
(1)貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として、貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)等にかんがみると、法43条1項の規定の適用要件については、これを厳格に解釈すべきものであり、17条書面の交付の要件についても、厳格に解釈しなければならず、17条書面として交付された書面に法17条1項所定の事項のうちで記載されていない事項があるときは、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである(最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。そして、仮に、当該貸付けに係る契約の性質上、法17条1項所定の事項のうち、確定的な記載が不可能な事項があったとしても、貸金業者は、その事項の記載義務を免れるものではなく、その場合には、当該事項に準じた事項を記載すべき義務があり、同義務を尽くせば、当該事項を記載したものと解すべきであって、17条書面として交付された書面に当該事項に準じた事項の記載がないときは、17条書面の交付があったとは認められず、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2)前記事実関係によれば、本件各貸付けは、本件基本契約に基づいて行われたものであるが、本件基本契約の内容は、①被上告人は、借入限度額の範囲内であれば繰り返し借入れをすることができる、②被上告人は、元金について、返済すべき金額の最低額(以下「最低返済額」という。)を超える金額であれば、返済額を自由に決めることができる、というものであることが明らかである。
すなわち、本件各貸付けは、本件基本契約の下で、借入限度額の範囲内で借入れと返済を繰り返すことを予定して行われたものであり、その返済の方式は、追加貸付けがあっても、当該追加貸付けについての分割払の約束がされるわけではなく、当該追加貸付けを含めたその時点での本件基本契約に基づく全貸付けの残元利金(以下,単に「残元利金」という。)について、毎月15日の返済期日に最低返済額及び経過利息を支払えば足りるとするものであり、いわゆるリボルビング方式の一つである。したがって、個々の貸付けについての「返済期間及び返済回数」や各回の「返済金額」(以下、「返済期間及び返済回数」と各回の「返済金額」を併せて「返済期間、返済金額等」という。)は定められないし、残元利金についての返済期間、返済金額等は、被上告人が、今後、追加借入れをするかどうか、毎月15日の返済期日に幾ら返済するかによって変動することになり、上告人が、個々の貸付けの際に、当該貸付けやその時点での残元利金について、確定的な返済期間、返済金額等を17条書面に記載して被上告人に交付することは不可能であったといわざるを得ない。
(3)しかし、本件各貸付けについて、確定的な返済期間、返済金額等を17条書面に記載することが不可能であるからといって、上告人は、返済期間、返済金額等を17条書面に記載すべき義務を免れるものではなく、個々の貸付けの時点での残元利金について、最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間、返済金額等を17条書面に記載することは可能であるから、上告人は、これを確定的な返済期間、返済金額等の記載に準ずるものとして、17条書面として交付する書面に記載すべき義務があったというべきである。そして、17条書面に最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間、返済金額等の記載があれば、借主は、個々の借入れの都度、今後、追加借入れをしないで、最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済していった場合、いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ、完済までの期間の長さ等によって、自己の負担している債務の重さを認識し、漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるものと解され、確定的な返済期間、返済金額等の記載に準じた効果があるということができる。
前記事実関係によれば、本件基本契約書の記載と本件各確認書等の記載とを併せても、確定的な返済期間、返済金額等の記載に準ずる記載があると解することはできない。したがって、本件各貸付けについては、17条書面の交付があったとは認められず、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
引用元:裁判所サイト
この判例は、まず、みなし弁済の成立要件である17条書面の解釈は厳格にしなければならないとしています。
そして、仮に、性質上、所定の記載事項を記載することが不可能であったとしても、その記載事項に準じた記載をしなければならず、それがない場合にはやはりみなし弁済は成立しないという非常に厳格な規範を定立しています。
その上で、リボルビング方式の場合も、以下の理由から、個々の貸付時点での返済期間等の記載をしなければ17条書面を交付したとはいえず、したがって、みなし弁済は成立しないという判断をしています。
- 確かに返済期間・返済回数・各回の返済金額をあらかじめ定めることが不可能ないし困難ではあるけれども、個々の貸付の時点であれば、その時点における返済期間・返済回数・返済金額を記載することは可能である。
- 個々の貸付け時における返済期間等の記載があれば、借主が、追加借入れをしなければいつ完済するのかなどを把握でき、債務の重さを認識して借入れを繰り返すことを避けることができるから、確定的な返済期間等の記載があるのに準じた効果があるといえる。
- したがって、リボルビング方式の場合であっても、この個々の貸付時点での返済期間等の記載をしなければ17条書面を交付したとはいえず、したがって、みなし弁済は成立しないという判断をしています。
実務に与えた影響
最一小判平成17年12月15日によって、リボルビング方式の貸付け(いわゆるリボ払いの貸付け)であっても、17条書面には返済期間等の記載に準じた記載をしなければならず、これを欠く場合には17条書面の交付があったと言えないので、みなし弁済は成立しないという理論が確定しました。