
利息制限法所定の制限利率を超える利息が元本に充当されることをはじめて判断した判例として,最高裁判所大法廷昭和39年11月18日判決があります。このページでは,この最大判昭和39年11月18日についてご説明いたします。
制限超過利息の元本充当と引き直し計算
貸金業者からの借金について債務整理を行う場合、貸金業者から取引履歴の開示を受けて、それをもとに引き直し計算を行います。
引き直し計算とは、貸金業者との間で行ってきたすべての貸し借りの取引を利息制限法所定の制限利率に直し、制限超過利息をすべて借入れ元本に充当しながら、利息制限法に従った正式な債務残高に計算をし直していくという計算手法のことをいいます。
現在では,当たり前になっている引き直し計算という手法ですが,これも最初から当然に認められていたわけではありません。
上記のとおり、引き直し計算は、利息制限法所定の制限利率を超える利息を支払った場合に、その制限超過利息を貸金元本に充当するという計算方法です。したがって、制限超過部分を元本に充当することができるということが根拠となっています。
もっとも,利息制限法には,かつて「債務者において超過部分を任意に支払つたときは,その返還を請求することができない」という規定がありました(現在ではすでに削除)。
この規定があったため,債務者が任意に制限超過利息を返済をすると,その制限超過利息の返還を請求できなくなり以上,貸主が制限超過部分を受け取っても,それが任意の返済である限り有効なものとなるということであるというように解釈されていました。
そして,支払済みの制限超過利息が有効な利息の支払いとしてと解釈できる以上,その制限超過利息が元本に充当されることもないというように考えられていました。つまり,引き直し計算はできないと解釈されていたということです。
その考え方を変更し,利息制限法の制限超過部分を元本に充当することができると判断した判例が,最高裁判所大法廷昭和39年11月18日判決(最大判昭和39年11月18日)です。
最大判昭和39年11月18日の解説
最大判昭和39年11月18日では,以下のとおり判示されています(一部抜粋)。
債務者が,利息制限法(以下本法と略称する)所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息,損害金を任意に支払つたときは,右制限をこえる部分は民法491条により残存元本に充当されるものと解するを相当とする。
(中略)
債務者が利息,損害金の弁済として支払つた制限超過部分は,強行法規である本法1条,4条の各1項により無効とされ,その部分の債務は存在しないのであるから,その部分に対する支払は弁済の効力を生じない。従つて,債務者が利息,損害金と指定して支払つても,制限超過部分に対する指定は無意味であり,結局その部分に対する指定がないのと同一であるから,元本が残存するときは,民法491条の適用によりこれに充当されるものといわなければならない。
本法1条,4条の各2項は,債務者において超過部分を任意に支払つたときは,その返還を請求することができない旨規定しているが,それは,制限超過の利息,損害金を支払つた債務者に対し裁判所がその返還につき積極的に助力を与えないとした趣旨と解するを相当とする。
また,本法2条は,契約成立のさいに債務者が利息として本法の制限を超過する金額を前払しても,これを利息の支払として認めず,元本の支払に充てたものとみなしているのであるが,この趣旨からすれば,後日に至つて債務者が利息として本法の制限を超過する金額を支払つた場合にも,それを利息の支払として認めず,元本の支払に充当されるものと解するを相当とする。
更に,債務者が任意に支払つた制限超過部分は残存元本に充当されるものと解することは,経済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする本法の立法趣旨に合致するものである。右の解釈のもとでは,元本債権の残存する債務者とその残存しない債務者の間に不均衡を生ずることを免れないとしても,それを理由として元本債権の残存する債務者の保護を放擲するような解釈をすることは,本法の立法精神に反するものといわなければならない。
引用元:裁判所サイト
上記判決は,まず利息制限法の規定が強行法規であることを明言した上で,その利息制限法に違反する制限超過部分の支払いは無効であるとし,無効である以上,制限超過部分の債務はそもそも存在しないものであるといえるから,その制限超過部分への支払いは,弁済としての効力を生じないとしました。
加えて,支払いを利息や遅延損害金に充てるとして(充当の指定をして)支払ったとしても,そもそも制限超過部分は存在しないから,その部分について充当指定しても無意味であり,充当の指定は効力を生じないとしました。
そして,充当の指定が効力を生じないということは,充当指定がないということになるので,民法491条によって,制限超過部分は残存している元本に充当されるという判断をしました。
ここで問題となってくるのが前記の「債務者において超過部分を任意に支払つたときは,その返還を請求することができない」という利息制限法の旧規定ですが,この規定については,単に,任意に制限超過利息を支払った場合に,その返還に裁判所が積極的に助力を与えないという趣旨にすぎないものと捉えています。
つまり,債務者が任意に制限超過部分を支払った場合,これを返還するように請求することまでは認められないものの,だからといって,この規定によって,制限超過利息の支払いとその受領までも有効となるものではない(つまり,制限超過部分の支払は無効であることには変わりがない)という判断をしたということです。
また,元本充当を認めるもう1つの根拠として,いわゆる利息の天引きの場合に制限超過部分について元本の支払いに充当したものとみなしている2条の規定を挙げ、2条の趣旨からすれば、後日に制限超過部分を支払った場合でも元本に充当されるとしています。
さらに,上記判決は,最後に,制限超過部分が元本に充当されることは,「経済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする本法(利息制限法)の立法趣旨」に合致するということを明らかにしています。
以上のような理由から,最大判昭和39年11月18日は,利息制限法所定の制限利率を超える利息を支払った場合,その制限超過部分は,民法491条により元本に充当されるという判断をしています。
最大判昭和39年11月18日が実務に与えた影響
この最大判昭和39年11月18日によってはじめて,制限超過部分の元本充当が認められるようになり,利息制限法違反の取引について,元本充当計算(引き直し計算)という手法をとることができるようになったのです。
その意味では,債務整理において,最も重要な判例といってよいでしょう。
ただし,この判決においては,元本充当後の制限超過部分の利息の返還,すなわち,過払い金の返還までは認められていません。過払い金返還請求が認められるのは,この判決よりも後の判決まで待つことになります。