この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

特定調停の申立書には、民事調停法4条の2第2項に定める記載事項のほか、特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述を記載しなければなりません(特定調停法3条2項)。
特定調停の申立て
特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律 第3条
- 第1項 特定債務者は、特定債務等の調整に係る調停の申立てをするときは、特定調停手続により調停を行うことを求めることができる。
- 第2項 特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述は、調停の申立ての際にしなければならない。
- 第3項 前項の申述をする申立人は、申立てと同時に(やむを得ない理由がある場合にあっては、申立ての後遅滞なく)、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料及び関係権利者の一覧表を提出しなければならない。
民事調停法 第4条の2
- 第1項 調停の申立ては、申立書を裁判所に提出してしなければならない。
- 第2項 前項の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
- 第1号 当事者及び法定代理人
- 第2号 申立ての趣旨及び紛争の要点
特定調停手続をしてもらうためには、特定債務等の調整に係る調停を申し立てる際に、特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述をする必要があります(特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律第3条1項、2項)。
この特定調停の申立ては、「特定調停の申立書」という書面を提出して申立てをする必要があります(民事調停法4条の2第1項)。
この申立書については、後述のとおり、各地の簡易裁判所にひな型が用意されています。したがって、ひな型に従って記載するだけで作成できます。
特定調停の申立書の記載事項
民事調停規則 第3条
- 法第4条の2第1項の申立書には、申立ての趣旨及び紛争の要点並びに第24条において準用する非訟事件手続規則(平成24年最高裁判所規則第7号)第1条第1項各号に掲げる事項を記載するほか、紛争の要点に関する証拠書類があるときは、その写しを添付しなければならない。
民事調停規則 第24条
- 特別の定めがある場合を除いて、調停に関しては、その性質に反しない限り、非訟事件手続規則の規定(同規則第2章第8節、第44条及び第49条第2項を除く。)を準用する。この場合において、同規則第2条第1項第2号中「非訟事件手続法(平成23年法律第51号。以下「法」という。)第42条の2」とあるのは、「民事調停法(昭和26年法律第222号)第21条の2」と読み替えるものとする。
非訟事件手続規則 第1条
- 第1項 申立書その他の当事者、利害関係参加人又は代理人が裁判所に提出すべき書面に は、次に掲げる事項を記載し、当事者、利害関係参加人又は代理人が記名押印するものと する。
- 第1号 当事者及び利害関係参加人の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所
- 第2号 当事者、利害関係参加人又は代理人の郵便番号及び電話番号(ファクシミリの番号 を含む。次項において同じ。)
- 第3号 事件の表示
- 第4号 附属書類の表示
- 第5号 年月日
- 第6号 裁判所の表示
- 第2項 前項の規定にかかわらず、当事者、利害関係参加人又は代理人からその住所、郵便番 号及び電話番号を記載した同項の書面が提出されているときは、以後裁判所に提出する同 項の書面については、これらを記載することを要しない。
特定調停の申立書には、以下の事項を記載しなければなりません(特定調停法3条2項、民事調停法4条の2第1項、民事調停規則3条、24条、非訟事件手続規則1条1項)。そして、その上で収入印紙を貼付して提出します。
- 申立人および法定代理人(氏名・名称、住所・所在地、連絡先、送達場所)
- 相手方および法定代理人(氏名・名称、住所・所在地、連絡先、送達場所)
- 申立ての趣旨
- 紛争の要点
- 特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述
- 事件の表示
- 付属書類の表示
- 年月日
- 裁判所の表示
これらの事項は、基本的に、必ず記載しなければならない事項です。申立書に記載する事項もあれば、申立書に添付する書類に記載する場合もあります。
特定調停の申立書の書式・書き方
前記のとおり、特定調停の申立書の書式・ひな形は、各裁判所で用意されているのが通常です。自分で一から作成する必要はありません。
以下では、東京簡易裁判所の書式に従って、申立書の具体的な書き方をご説明いたします(なお、裁判所によって申立書の書式は若干異なりますが、大枠は同じです。)。
表題部
雛型の一番上には「符号」という欄があります。ここは裁判所が記載する欄ですから記載は不要です。
また、書面の表題として「特定調停申立書」という文字が印字されています。その表題のすぐ下に年月日を記載する欄があります。ここに申立書を提出する日付の年月日を記載します。
次に、簡易裁判所の名称を記載する欄があります。ここには、提出先の簡易裁判所の名称を記載します。なお、書式では、すでに申立てをする裁判所名が記載されていることもあります。
その下には、「特定調停により調停を行うことを求めます」という記載が印字されています。これが、特定調停手続を求める旨の申述です。このように申立書には特定調停を求める旨の申述がすでに印字されているのが通常ですから、この申述を自分で記載する必要はありません。
申立人
申立人とは、申立てをした特定債務者の人です。つまりこの欄は、申立てをした自分の氏名等を記載する欄です。
記載するのは、自分の「住所」、「郵便番号」、「氏名」、「氏名の振り仮名」、「電話番号」、「FAX番号」「生年月日」です。FAXが無い場合にはFAX番号を記載しなくても大丈夫です。氏名の右横に押印します。印鑑は実印でなくても大丈夫です。
現在の氏名・住所と借入れの契約時の氏名・住所が違う場合には、契約時の氏名や住所も記載する必要があります。
「送達場所」には裁判所から特定調停に関する書類が送られてくることになります。したがって、ここには裁判所からの書類が送られてきてもよい場所、しかも、確実にちゃんと受け取ることができる場所を記載することになります。
送達場所が自分の住所等でない場合には、送達を受け取る人が自分やその家族でないという場合があります。その場合には、送達を受け取ってくれる人の氏名を記載することになります。
相手方
相手方とは、要するに債権者です。住所の欄には、債権者の住所を記載します。債権者が貸金業者などの会社の場合には、その会社の本店所在地と郵便番号を記載します。
その上で、会社の名称、本店の電話番号、FAX番号、そして、その会社の代表者の氏名を記載します。会社法人の場合、代表者は代表取締役です。したがって、代表取締役の氏名を記載します。
さらに、支店や営業所の所在地を管轄する裁判所に特定調停申立てをする場合には、その支店等の住所、郵便番号、電話番号、FAX番号を記載します。これらの会社の情報は、その会社の現在事項証明書や送られてきた請求書などをもとに記載します。
債権者が会社等の法人ではないという場合には、その債権者たる個人の氏名、住所、郵便番号、電話番号、FAX番号を記載します。FAX番号などが分からない場合には、記載しなくても大丈夫です。
なお、債権者が多数の場合には、特定調停申立書を債権者1社ごとに1通ずつ作成する必要があります。
申立ての趣旨
申立ての趣旨とは、特定調停の申立てをして、最終的にはどうしたいのかということです。上記の書式では、「債務額を確定したうえ債務支払方法を協定したい。」という文言がすでに印字されていますので、記載をする必要はありません。
紛争の要点
紛争の要点については、「債務の種類」と「契約の状況等」の記載が必要です。その他については、申立書添付の各書類において記載することになりますので、別紙のとおりの欄にチェックをすることになります。
債務の種類
紛争の要点のうち「債務の種類」には、「借受金債務」「保証債務」「立替金」「その他」の中から選択する方法によって記載します。
借受金債務とは、要するに自分の借金です。保証債務は、誰かの借金の保証人となっている場合です。保証債務の場合には、「借受人」欄には、主たる債務者、つまり実際に借金を負っている人の氏名も記載します。
立替金については、クレジットカードで物を買った場合のショッピングローンの支払いなどが代表的です。
上記のいずれにも当たらない場合には、その他を選択します。たとえば、求償債権、買掛金や慰謝料の支払いなどが考えられます。求償金とは、自分の借金を保証会社などが代わりに支払ってくれた後、その保証会社などから請求される金銭のことです。
契約の状況等
次に、それらの債務について、借受金額等の項目に、それぞれ「契約日」「借受金額」「現在の債務額」を記載します。これらを分かる範囲で記載します。
印紙の貼付欄等
特定調停申立書の1番下の欄には、中央に「調停事項の価額」記載欄、「手数料」記載欄、「ちょう用印紙」の金額記載欄、「予納郵便切手」の金額記載欄があり、右側には「貼用印紙欄」があります。
調停事項の価額とは、その調停によって申立人が話し合いを希望している部分の価額をいいますが、上記書式のとおり、すでに10万円という金額に固定化されていますので、別途、借金の金額を正確に記載する必要などはありません。
手数料は、この調停事項の価額によって異なりますが、上記のとおり、特定調停においては調停時効の価額が10万円に固定化されており、かつ、手数料の金額も500円に固定化されているため、こちらも記載は不要です。
この手数料500円は、収入印紙を申立書下部右側の「貼用印紙欄」に貼り付けて支払うことになります。なお、債権者が複数いる場合は、それぞれに500円かかります。
郵券については、申立てをする裁判所によって簡易裁判所に金額や提出の様式が異なる場合がありますから、直接申立てをする裁判所に問い合わせましょう。
なお、東京簡易裁判所では、債権者1社につき、500円(100円切手×4、10円切手×10)の郵便切手の提出が必要です。
特定調停申立書に添付する書類
特定調停の申立書には、以下の書類の添付が必要です。
- 財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料
- 関係権利者の一覧表
- 債権者の資格証明書(代表者事項証明書・現在事項証明書など)
各裁判所ごとの特定調停申立書書式
前記のとおり、各裁判所ごとに個人再生申立書の書式が用意されています。
全国の裁判所における特定調停の申立書の書式について調査してみました。あくまで公表されている情報のみから作成したものですので、不明点もあります。
詳細を知りたい場合は、裁判所に問い合わせるか(簡易裁判所に直接行けば、申立書のひな形をもらえます。)、または、各地の弁護士等に相談されることをお勧めします。
北海道地方(札幌高等裁判所管内)
東北地方(仙台高等裁判所管内)
関東・東海・甲信地方(東京高等裁判所管内)
中部地方(名古屋高等裁判所管内)
近畿地方(大阪高等裁判所管内)
中国地方(広島高等裁判所管内)
四国地方(高松高等裁判所管内)
九州・沖縄地方(福岡高等裁判所管内)
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
債務整理と特定調停で悩んでいる場合
特定調停は、弁護士などに依頼せずに行うことが可能です。特に、債務がそれほど大きくない場合には、特定調停を選択することも考えられます。
他方、債務が高額な場合には、自己破産や個人再生なども考えておかなければいけません。自己破産や個人再生の場合には、弁護士に相談・依頼する必要があります。
まずは、債務整理について相談をしてみた上で、特定調停にするのか債務整理にするのかを選択した方がよいでしょう。
今どきは、ほとんどの法律事務所で債務整理の相談は無料相談です。むしろ有料のところを探す方が難しいくらいです。無料ですので、とりあえず相談してみてから考えるのが得策です。
弁護士法人東京ロータス法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・休日対応・メール相談可
・所在地:東京都台東区
弁護士法人ひばり法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・依頼後の出張可
・所在地:東京都墨田区
レ・ナシオン法律事務所
・相談無料
・全国対応・メール相談可・LINE相談可
・所在地:東京都渋谷区
参考書籍
本サイトでも特定調停について解説していますが、より深く知りたい方のために、債務整理や特定調停の参考書籍を紹介します。
特定調停法逐条的概説
編集:濱田芳貴 出版:民事法研究会
特定調停法の逐条解説。かなり詳細に書かれているため、実務家向けです。個人の債務整理だけでなく、事業再生にも対応しています。
クレジット・サラ金処理の手引き(6訂版)
編著・出版:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会
東京の三弁護士会による債務整理・クレサラ事件処理全般についての実務書。債務整理全般を1冊でまとめている実務書は意外と少ないので、債務整理を知るにはちょうど良い本です。
中小企業再生のための特定調停手続の新運用の実務
編集:日弁連中小企業法律支援センター 出版:商事法務
記事本文の内容と異なりますが一応紹介。特定調停の手続は、個人の債務整理だけでなく、中小企業の事業再生・私的整理の一環として利用されることも増えています。