この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

特定調停は、相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所または当事者が合意で定める地方裁判所もしくは簡易裁判所に申立てをする必要があります(民事調停法3条)。
特定調停の管轄裁判所
民事調停法 第3条
- 調停事件は、特別の定がある場合を除いて、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とする。
民事調停も裁判手続ですから、どこの裁判所に申立てをしてもよいわけではなく、申立てをすべき裁判所は法律で決められています。このような各裁判所間での裁判権の分担に関する定めのことを裁判管轄と言います。
民事調停の裁判管轄は、民事調停法3条で決められています。特定調停も民事調停のひとつですから、特定調停の裁判管轄も、民事調停法3条に従うことになります。
具体的に言うと、特定調停の裁判管轄は、以下のとおりです。
- 相手方(債権者)の住所・居所・営業所や事務所の所在地を管轄する簡易裁判所
- 当事者間で管轄の合意をしている場合は、合意で定める地方裁判所または簡易裁判所
特定調停を申し立てる場合、債権者との間で管轄の合意をしている場合は、その合意で定められた簡易裁判所または地方裁判所に申立てをすることになります。
合意がない場合には、債権者の住所・居所・営業所や事務所の所在地を管轄する簡易裁判所に申立てをする必要があります。
特定調停の事物管轄
事件の性質・内容に応じて定められる裁判管轄のことを「事物管轄」と言います。特定調停事件の事物管轄は、原則は簡易裁判所、例外的に地方裁判所です。
特定調停など民事調停は、簡易裁判所に申立てをするのが通常であり、原則です。
ただし、当事者間でどこの裁判所を管轄とするかどうかを決めることができます。これを「管轄の合意」といいます(管轄の合意によって定められる裁判管轄を「合意管轄」と言います。)。
前記のとおり、地方裁判所で特定調停をしなければならないという管轄の合意がある場合には、例外的に地方裁判所で特定調停が行われることもあります。
特定調停の土地管轄
どこの場所の裁判所に管轄があるのかという問題を「土地管轄」と言います。
特定調停の土地管轄は、「相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所」です。
つまり、債権者の住所・居所・営業所・事務所がある地域を管轄する簡易裁判所に、特定調停の申立てをすることになります。
例えば、債権者が東京にある会社であれば、そこを管轄する簡易裁判所、すなわち東京簡易裁判所に申立てをすればよいということになります。
なお、土地管轄についても管轄の合意をすることができます。
つまり、債権者が東京にある会社であっても、大阪簡易裁判所を管轄とするという合意があれば、大阪簡易裁判所に申立てができます。
債権者が複数いる場合の管轄裁判所
債権者が複数いる場合には、それぞれに裁判管轄があることになります。しかし、債権者ごとに管轄を変えなければいけないのでは、あまりに手間がかかりすぎます。
そのため、債権者が複数いる場合の特定調停申立ては、以下のように取り扱われています。
各債権者の管轄が同一である場合
複数の債権者が全員、東京に事務所を構える会社であれば悩みはありません。東京簡易裁判所に申立てをすればよいだけです。
この場合、特定調停はすべて1つの手続で行われます。債権者ごとにバラバラに調停が行われるということにはなりません。
各債権者の管轄が別々な場合
問題は、多数の債権者がそれぞれ、別々の地域に住居や事務所があるという場合でしょう。こういう場合はどうすべきなのでしょうか?
結論から言えば、最も多くの債権者の住所・居所・営業所や事務所の所在地を管轄する簡易裁判所にまとめて申立てをすればよいだけです。
例えば、債権者がA社、B社、C社、D社、E社で、A社、B社及びC社は東京に事務所を構えており、D社は大阪に、E社は名古屋に事務所を構えていたとします。
この場合には、A社、B社、C社という3人の債権者の事務所所在地を管轄している東京簡易裁判所に申立てをすればよいわけです。それにより、D社とE社も東京簡易裁判所で特定調停を行うことになります。
なお、全債権者の事務所所在地等が別々で、一番多くの所在地を管轄する裁判所がないという場合には、借金の金額が一番多額な債権者の事務所所在地に申立てをするのが良いかもしれません。
ただし、債権者が大手貸金業者などの場合、東京や大阪のような大都市であればまず間違いなく営業所があるでしょうから、そういう大都市を管轄する簡易裁判所に申立てをすれば、管轄で問題になるということはほとんどないでしょう。
管轄がよく分からない場合
特定調停を申し立てる裁判管轄が分からなければ、思い切って自分が住んでいるところの最寄の簡易裁判所に申立てをしてしまうというのもひとつの手かもしれません。
自庁処理といって、管轄が間違っていても、申立てを受けた裁判所で特定調停をやってくれる場合があります。
そもそも債権者はあまり出頭してきません。電話で調停に参加するだけの場合も少なくありませんから、債権者の方も管轄が違うということで異議を出してくるようなことはあまりありません。
間違っていれば、裁判所書記官や裁判所事務官が教えてくれると思います。そして、それに従って訂正すればよいだけです。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
債務整理と特定調停で悩んでいる場合
特定調停は、弁護士などに依頼せずに行うことが可能です。特に、債務がそれほど大きくない場合には、特定調停を選択することも考えられます。
他方、債務が高額な場合には、自己破産や個人再生なども考えておかなければいけません。自己破産や個人再生の場合には、弁護士に相談・依頼する必要があります。
まずは、債務整理について相談をしてみた上で、特定調停にするのか債務整理にするのかを選択した方がよいでしょう。
今どきは、ほとんどの法律事務所で債務整理の相談は無料相談です。むしろ有料のところを探す方が難しいくらいです。無料ですので、とりあえず相談してみてから考えるのが得策です。
弁護士法人ひばり法律事務所
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参考書籍
本サイトでも特定調停について解説していますが、より深く知りたい方のために、債務整理や特定調停の参考書籍を紹介します。
特定調停法逐条的概説
編集:濱田芳貴 出版:民事法研究会
特定調停法の逐条解説。かなり詳細に書かれているため、実務家向けです。個人の債務整理だけでなく、事業再生にも対応しています。
クレジット・サラ金処理の手引き(6訂版)
編著・出版:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会
東京の三弁護士会による債務整理・クレサラ事件処理全般についての実務書。債務整理全般を1冊でまとめている実務書は意外と少ないので、債務整理を知るにはちょうど良い本です。
中小企業再生のための特定調停手続の新運用の実務
編集:日弁連中小企業法律支援センター 出版:商事法務
記事本文の内容と異なりますが一応紹介。特定調停の手続は、個人の債務整理だけでなく、中小企業の事業再生・私的整理の一環として利用されることも増えています。