この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

複数の債権者がいる場合、すべての債権者を対象として特定調停を申し立てるのが原則です。しかし、一部の債権者だけ特定調停を申し立てないことも可能です。
一部債権者を除いた特定調停の申立て
結論から言うと、特定の債権者だけ特定調停を申し立てることは可能です。逆に言うと、一部の債権者だけ特定調停の申立てをしないでも許されるということです。
例えば、債権者としてA社とB社がある場合に、A社だけは特定調停を申し立て、B社については普通に支払っていくという選択も可能であるということです。
と言うのも、特定調停は債権者一人ひとりを相手方として、別々に申立てをするという建前になっています(実際には、複数の債権者を同時に申し立てることができます。)。
また、特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(特定調停法)にも、すべての債権者を申し立てなければいけないとは規定されていません。
つまり、どの債権者について特定調停を申し立てるかは申立人、すなわち債務者の自由であるとされています。特定調停をしたくない債権者については、特定調停の申立てをしなければよいだけなのです。
債権者平等の原則との関係
多数の債権者がいる場合、その債権者は平等に扱わないといけないとされています。これを、債権者平等の原則と言います。
そうすると、一部の債権者だけ特定調停を申し立て整理を行い、それ以外の債権者について特定調停を申し立てずに普通に支払っていくというのは、債権者の平等に反するようにも思われます。
しかし、債権者平等に反すると思ったならば、債権者は特定調停に応じなければよいだけの話です。特定調停に応じるということは、債権者平等に反してもかまわないという意志の表れととることができます。
したがって、債権者が特定調停に応じてくる限り、債権者平等に反するという瑕疵は、債権者の同意によって治癒されると考えることができます。
一部債権者だけの申立てにおける注意点
前記のとおり、一部の債権者だけ特定調停の対象とせずに申し立てるということは可能です。もっとも、注意しなければならない点はあります。
特定調停の申立てにおいては、どの程度返済できるのかということを明らかにしなければなりません。そのため、月々の収支状況についても、裁判所に提出する必要があります。
したがって、この時点で、仮に特定調停を申し立てない債権者がいるとしても、その債権者に対する返済金額も伝えておかなければなりません。つまり、申立書添付の資料に記載しておく必要があるということです。
一部の債権者について特定調停の対象としなくてもよいからといって、その返済があることまで隠しておけるというわけではありません。
特定調停を申し立てない債権者への返済が大きいために、その他の特定調停を申し立てた債権者への返済原資が著しく減ってしまうような場合には、特定調停における話し合いがまとまらない可能性があります。
また、仮に話し合いがまとまったとしても、特定調停を申し立てていない債権者への返済が苦しくなり、他の債権者にも支払えず、結局は、全体として返済ができなくなってしまうという場合もあります。
やはり、特定調停をするならば、基本的には、債権者全員を相手方として申し立てる方が確実でしょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
債務整理と特定調停で悩んでいる場合
特定調停は、弁護士などに依頼せずに行うことが可能です。特に、債務がそれほど大きくない場合には、特定調停を選択することも考えられます。
他方、債務が高額な場合には、自己破産や個人再生なども考えておかなければいけません。自己破産や個人再生の場合には、弁護士に相談・依頼する必要があります。
まずは、債務整理について相談をしてみた上で、特定調停にするのか債務整理にするのかを選択した方がよいでしょう。
今どきは、ほとんどの法律事務所で債務整理の相談は無料相談です。むしろ有料のところを探す方が難しいくらいです。無料ですので、とりあえず相談してみてから考えるのが得策です。
弁護士法人東京ロータス法律事務所
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参考書籍
本サイトでも特定調停について解説していますが、より深く知りたい方のために、債務整理や特定調停の参考書籍を紹介します。
特定調停法逐条的概説
編集:濱田芳貴 出版:民事法研究会
特定調停法の逐条解説。かなり詳細に書かれているため、実務家向けです。個人の債務整理だけでなく、事業再生にも対応しています。
クレジット・サラ金処理の手引き(6訂版)
編著・出版:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会
東京の三弁護士会による債務整理・クレサラ事件処理全般についての実務書。債務整理全般を1冊でまとめている実務書は意外と少ないので、債務整理を知るにはちょうど良い本です。
中小企業再生のための特定調停手続の新運用の実務
編集:日弁連中小企業法律支援センター 出版:商事法務
記事本文の内容と異なりますが一応紹介。特定調停の手続は、個人の債務整理だけでなく、中小企業の事業再生・私的整理の一環として利用されることも増えています。