この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

特定調停手続内で過払金返還請求をすることはできません。特定調停後に過払金返還請求することになりますが、調停条項によっては過払金返還請求できないこともあり得ます。
特定調停手続中での過払い金返還請求の可否
特定調停の手続を行い、貸金業者などから取引履歴の開示を受けて引き直し計算をしたところ、過払金が発生していることが判明するという場合があります。
もっとも、特定調停は、あくまで特定債務の調整を行うことを目的する手続です。特定調停の場でできることは、返済計画を定めることかまたは債務が存在しないことを確認することだけです。
そのため、仮に過払金が発生していた場合であっても、特定調停の場において過払金の返還を請求することはできません。(払いすぎになっているので)債務は存在しないということを確認することだけです。
特定調停後の過払い金返還請求
前記のとおり、特定調停においては過払い金返還請求ができないことになっています。
そのため、特定調停の手続において過払金が発生していることが判明した場合には、別途、過払金返還を求める交渉や訴訟などを提起しなければいけません。
もっとも、その前提として、特定調停をした後に過払金の返還を請求できるのかどうかということが問題となってきます。
この点については、特定調停における和解(または17条決定)においてどのような内容が定められているのかによって、結論が異なってくる場合があります。
片面的な調停条項の場合
調停条項や17条決定において「貸付金債務は存在しない」というような調停条項が記載されているだけの場合があります。
この条項は、過払い金返還請求権については何も触れられていません。ただ、借金はないということを明らかにしているにすぎない条項です。
債務者の債務だけについて定めており、貸金業者側の過払い金返還債務については何も定めていないため、片面的条項と呼ばれることがあります。
この場合、「借金はない」ということにしか効力が発生しません。債権者が申立人債務者に対して借金の返済を求めることができなくなるだけです。
貸金業者側の過払い金返還債務(消費者側から見れば過払い金返還請求権)については何らの効力も生じないのですから、調停条項などが過払い金返還請求を規制することにはなりません。
したがって、上記のような片面的条項しかないという場合には、特定調停とは別に、交渉や訴訟などによって過払い金返還請求をすることが可能です。
双方的な調停条項の場合
問題となるのは、双方的な条項が調停調書や17条決定において定められてしまっている場合です。具体的にいえば、「申立人と相手方の間には何らの債権債務関係がない」というような文言(清算条項)が記載されてしまっているという場合です。
現在の特定調停においては、あらかじめ貸金業者側に取引履歴を開示させて、必ず引き直し計算を行いますから、引き直し計算の結果過払い金が発生していたにもかかわらず、上記のような清算条項を定めるということはあり得ません。
しかし、かつては、まだ過払い金返還請求が今ほど当たり前になっていなかったため、調停委員によっては、引き直し計算をしないまま、貸金業者主張の約定残高で調停を成立させてしまう(または17条決定を出してしまう)ということが、少なからずありました。
この双方的な清算条項の場合には、前記の片面的条項と異なり、債務者側のみならず、貸金業者側にも「債務」がないと定められています。つまり、貸金業者に過払い金返還債務もない、というような内容になってしまっているのです。
そのため、この清算条項がある場合には、片面的条項しかない場合と異なり、特定調停後に、当然に過払い金返還を請求できるわけではないということになってしまうのです。
この清算条項がある場合における特定調停後の過払い金返還請求の可否については、最高裁判所の判例はありません。下級審では、これを認める裁判例もありますが、否定する裁判例もあります。まだ定まっていないといってよいでしょう。
ただし、どちらかといえば、やはり、清算条項がある場合でも特定調停後の過払い金返還請求を認めるという裁判例が多いと思われます。
その理屈としては、過払い金があるにもかかわらず、これが無いかのような調停(または決定)をしてしまっていることは、強行法規である利息制限法に違反し絶対的無効であるというものや、過払い金が発生していることを知らずに調停で合意してしまったり決定に異議を出さなかったという錯誤あるので無効である、というようなものが挙げられるでしょう。
まとめ
前記のとおり、双方的調停条項(清算条項)が調停条項に定められている場合には、過払金返還請求が認められない可能性があります。
もっとも、このような双方的調停条項が定められていたのは、かなり昔の話です。現在では、過払金があることが判明した場合には、清算条項は入れられません。
そのため、あまり心配はないと思いますが、特定調停後に過払金返還請求をしようと考えている場合には、一応、調停条項に「債権債務は存在しない」などと記載されていないことを確認しておく方がよいでしょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
債務整理と特定調停で悩んでいる場合
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参考書籍
本サイトでも特定調停について解説していますが、より深く知りたい方のために、債務整理や特定調停の参考書籍を紹介します。
特定調停法逐条的概説
編集:濱田芳貴 出版:民事法研究会
特定調停法の逐条解説。かなり詳細に書かれているため、実務家向けです。個人の債務整理だけでなく、事業再生にも対応しています。
クレジット・サラ金処理の手引き(6訂版)
編著・出版:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会
東京の三弁護士会による債務整理・クレサラ事件処理全般についての実務書。債務整理全般を1冊でまとめている実務書は意外と少ないので、債務整理を知るにはちょうど良い本です。
中小企業再生のための特定調停手続の新運用の実務
編集:日弁連中小企業法律支援センター 出版:商事法務
記事本文の内容と異なりますが一応紹介。特定調停の手続は、個人の債務整理だけでなく、中小企業の事業再生・私的整理の一環として利用されることも増えています。