
住宅ローンや自動車ローンなどを任意整理する原則的な方法は,ローンによって購入した自動車や住宅を換価処分(任意売却)して,売却代金をローン残額に充当し,残余を任意整理する方法です。
他方,住宅や自動車を処分せずに任意整理をするのは可能ですが,ローン会社による抵当権や所有権留保の実行によって住宅や自動車を失うリスクがあります。このリスクを踏まえた上で,任意整理をすることになります。
場合によっては,住宅ローンや自動車ローンなど以外の債務のみ任意整理する方法や個人再生も検討しなければならないこともあるでしょう。
自動車ローン・住宅ローン等の任意整理
任意整理できる債務は,クレジットやサラ金からのキャッシングによる借金が中心ですが、キャッシング債務だけではありません。借金でなくても、金銭債務であれば、任意整理は可能です。
したがって,住宅ローンや自動車のローン,その他のショッピング(物販)による債務も,任意整理すること自体は可能です。
ただし,住宅や自動車など購入した物を処分することが可能か,それとも処分できないのかによって,生じるリスクや任意整理の方法が異なってきます。
自動車や住宅等の処分が可能な場合
ローンによって購入した自動車や住宅の処分が可能な場合には、それらを換価処分(任意売却)して、売却代金をローン残額に充当し,残余を任意整理することになります。
住宅ローンや自動車ローンなどを整理するための原則的な方法といえるでしょう。
住宅ローンの場合,購入した住宅不動産に抵当権が設定されているのが通常です。したがって,住宅を任意売却する際には,住宅ローン会社の承諾を得ておく必要があります。
その上で,住宅を任意売却します。売却代金は住宅ローン残額に充てられます。それで完済できれば残余は返金されます。
住宅ローンに充当してもまだ不足がある場合には,残額について住宅ローン会社と交渉して任意整理を行います。
自動車ローンの場合も,購入した自動車に所有権留保が設定されているのが通常です。自動車ローンの場合は,ローン会社が自動車を引き揚げて換価処分し,ローンに充当するのが一般的でしょう。
自動車の換価によって完済できれば残余は返金されます。ローンに充当してもまだ不足がある場合には,残額について自動車ローン会社と交渉して任意整理を行います。
任意売却等をする際の注意点
住宅や自動車を売却した上で任意整理を行う場合には,あらかじめ自分でも住宅や自動車の査定をとっておき,いくらで売却できるのかの見込みを立てておく必要があります。
売却見込額が低く,仮に売却しても,任意整理できるほどまでローン残額を減らすことができないと見込まれる場合には,自己破産や個人再生など任意整理以外の債務整理方法を検討することになります。
見込みを立てずに不動産会社等の言うままに任意売却等をしてしまうと,結局,任意整理できず,しかも,事前に財産を処分してしまったとして,自己破産や個人再生をする場合にも支障が出てしまうようなことがありますので,注意が必要です。
自動車や住宅等を処分できない場合
前記のとおり,住宅ローンや自動車ローンの場合,担保として住宅や自動車などに抵当権や所有権留保が設定されています。
任意整理に際して弁護士や司法書士から受任通知を送付し,ローンの支払いを停止すると,抵当権や所有権留保を実行される可能性があります。
住宅ローンの場合に抵当権を実行されるというのは,つまり,住宅が競売によって売りに出されてしまうということです。
自動車ローンの場合に所有権留保を実行されるというのは,つまり,その自動車がローン会社に引き揚げられてしまうということです。
自動車以外のショッピングローンでも,購入商品に所有権留保等の担保権が付けられている場合があります。そのため,ローンの支払いを停止すると,そのローンで買った物は引き揚げられることがあります。
もちろん,必ず抵当権や所有権留保を実行されてしまうというわけではありません。あまりに価値のない物は引き上げられないで済むこともあります。そこは相手方次第です。
それでもやはり,住宅ローン,自動車ローン,ショッピングローン等の任意整理をするときは,そのローンで買った物を失う危険性があるということを肝に銘じておく必要があると思います。
その意味では,住宅や自動車などローンで購入したものを処分せずに,住宅ローンや自動車ローンそれ自体を任意整理するのは,容易ではないと言えるでしょう。
あくまで可能性の問題です。任意整理をしたからといって、必ずローンの商品を引き揚げられるわけではありません。引き揚げをされずに任意整理できる場合も当然あります。この点は、債権者の方針によって異なります。
リスケジュールの交渉
前記のとおり,支払いを停止したり,弁護士等が介入すると,抵当権や所有権留保を実行されて,住宅や自動車を失うリスクがあります。
そこで,支払いを継続しつつ,返済条件を変更(リスケジュール)してもらうよう交渉する方法が考えられます。
ただし,話し合いに応じてくれるかどうかは相手方次第です。ローン会社の内部基準に満たない場合は,リスケジュールできないことが多く,話がつかない場合もあります。
また,仮に応じてもらえた場合でも,大幅な変更は認められないこともあります。
住宅ローンや自動車ローン以外の債務のみ任意整理する方法
上記のとおり,住宅ローンや自動車ローンそれ自体を任意整理するのはリスクを伴い,また,リスケジュール交渉も容易でないことが多いのが実際です。
そこで,住宅ローンや自動車ローンを外して,それ以外の債務のみを任意整理するという方法が考えられます。
ただし,住宅ローンや自動車ローンを支払いつつ,その他の債務を支払えるだけの弁済原資を用意できなければいけません。
個人再生を利用する方法
前記のとおり,住宅や自動車を残したまま,住宅ローンや自動車ローンを任意整理するのは,容易ではありません。そこで,個人再生の利用ができないかを検討するのも1つの方法でしょう。
個人再生の住宅資金特別条項を利用できる場合には,住宅ローンを従前どおり(または,リスケジュールして)支払うことにより抵当権を実行されないようにしつつ,住宅ローン以外の債務を個人再生によって減額・分割払いにしてもらえます。
自動車ローンのついている自動車は,個人再生でも所有権留保を実行されてしまうのが通常ですが,契約内容や車検証上の登録の有無によっては,所有権留保を実行されずに維持できる場合もあります。
個人再生も選択肢の1つに入れておくべきです。