
支払停止とは、債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為のことをいいます(最一小判昭和60年2月14日集民144号109頁)。
したがって、支払停止が認められるためには、①債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を表示したこと、②その表示が、明示的又は黙示的に外部に表示する行為であること、③支払いを停止したことが必要となります。
支払停止とは
破産法 第15条
- 第1項 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第30条第1項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
- 第2項 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
破産法 第30条
- 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
- 第1号 破産手続の費用の予納がないとき(第23条第1項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
- 第2号 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
- 第2項 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。
裁判所によって破産手続を開始してもらうためには、破産手続開始原因がなければなりません(破産法30条1項)。
この破産手続開始原因には、「支払不能」と「債務超過」があります。
支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて、一般的かつ継続的に弁済をすることができない客観的状態にあることをいいます(破産法2条11項、15条1項)。
この支払不能は、破産手続開始原因となるだけでなく、破産管財人の否認権や相殺禁止の基準時とされています。
債務者が支払不能であるかどうかは、破産手続を開始すべきかどうかだけではなく、破産管財人が否認権を行使できるかどうかや、相殺が認められるのかどうかなど判断にも関わってくるということです。
このように、破産においては、いつ支払不能となったのかがさまざまな決断の基準時となります。それだけに、支払不能になったのかどうかの判断基準は、できる限り明確な基準であることが望ましいはずです。
ところが、債務者の財産状況や負債の状況を知り得ない債権者等が、この支払不能を外部から判断することは容易ではありません。
そこで、外部的な徴表をもって支払不能の証明に代えることができるように、破産法においては「支払停止」と呼ばれる概念が用意されています。
すなわち、支払停止とは、「債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為」のことをいいます(最一小判昭和60年2月14日集民144号109頁)。
要するに、支払停止とは、支払不能であることを明示的または黙示的に外部に表明する債務者の主観的な態度のことです。
この支払停止があると認められた場合、「支払不能にあるものと推定する」とされています(破産法15条2項)。
つまり、支払停止が認められると、反証の無い限り、債務者が支払不能状態にあったと認定されるということです。
支払不能を推定させる支払停止であると認められるためには、以下の要件が必要となります。
- 債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨(支払不能である旨)を表示したこと
- 支払不能である旨を明示的又は黙示的に外部に表示したこと
- 支払いを停止したこと
支払不能である旨の表示であること
前記のとおり、支払停止というためには、「債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為」でなければなりません。
したがって、債務者自身が、「資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えていること」、要するに支払不能であると考えていることを外部に表示することが必要です。
債務者自身が、債務を弁済しないことについて、資力欠乏が原因ではなく、それ以外の原因であると外部に表示して弁済をしていない場合には、支払停止とは言えません。
例えば、支払いをしない原因が、資力欠乏ではなく、法的な抗弁が存在することにあると債務者が考えて支払いをしていないのであれば、支払停止に当たらないことになります。
また、一時的な資力欠乏にすぎず、すぐにでも資力を回復して一般的かつ継続的に債務を支払えるようになると外部に表示していた場合も、支払停止には当たりません。
外部に表示したこと
債務者が資力欠乏のために一般的かつ継続的に支払できないと考えていたとしても、その主観が外部に表示されていないのであれば、支払停止には当たりません。
例えば、弁済をしないことについて、社内で資力が欠乏しているから弁済をしないという旨の決定をした上で支払いを止めていたとしても、外部的に表示されていないので、支払停止には当たらないということです。
この外部的表示は、明示的なものであっても黙示的なものであってもよいと解されています。
明示的な支払停止行為の具体例
明示的な支払停止行為としては、例えば、以下の行為が挙げられます。
- 債権者に対する支払できなくなった旨の通知の送付
- 事業所等に支払できなくなった旨を記載した書面を貼り紙する行為
- 2回目の手形不渡りによる銀行取引停止処分
手形の不渡りが2回目になると、銀行取引停止処分となり、そのことが手形交換所から各金融機関に通知されます。そのため、2回目の手形不渡りは、支払不能であることを外部に表示したものとして扱われます。
なお、不渡り手形の金額や、決済資金の不足の理由や態様によっては、1回目の手形不渡りで支払停止(黙示的な行為)と認められることもあり得るでしょう。
また、支払いの猶予を求めることは、一般的には支払停止に該当しないと解されますが、例えば、債務者が、運転資金を削って返済に充てることができなくなったことを理由に、各金融機関に対して書面を持参して支払いの猶予を求めたことが支払停止に該当すると判示した裁判例(東京地判平成9年4月28日)もあります。
黙示的な支払停止行為の具体例
黙示的な支払停止行為としては、例えば、以下の行為が挙げられます。
- 廃業
- 事業所や店舗等の閉鎖
- 事業所や店舗等から夜間に什器等をすべて持ち出すいわゆる夜逃げ行為(東京高判昭和36年6月30日等)
- 手形不渡りが間近に迫っていたにもかかわらず、決済資金を手当てしなかった行為(東京地判平成19年3月29日)
- 社債の弁済期前に弁済資金を入金しなかった行為
- 債務者代理人弁護士が、債権者宛に、債務整理開始通知(介入通知)を一斉に送付した行為(最二小判平成24年10月19日)
前記のとおり、1回目の手形不渡りも、不渡り手形の金額や、決済資金の不足の理由や態様によっては黙示的な支払停止と認められることもあり得ます。
支払いを停止したこと
支払停止というくらいですから、債務者が実際に支払いを停止したことが必要となってきます。
当たり前のことですが、支払不能である旨を外部に表示していたとしても、実際に支払いを停止していないのであれば、支払停止にはなりません。
ただし、支払いを停止していたとしても、支払停止と認められるためには、債務の全部についての支払いをしていない場合か、または、少なくとも主要な債務の支払をしていない場合でなければなりません。
したがって、小口の支払いはできたものの、主要な大口取引先の支払いはできなかったという場合には支払停止に当たりますが、逆に、主要な取引先には支払いができていたという場合には、支払停止に当たらないと判断されることがあります。
また、いったん支払不能である旨を表示して支払停止と認められる行為をした場合には、その後に多少の支払いをしたとしても、支払停止が覆ることはないと解されています。