この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

民事再生手続(再生手続)においては、債権はそれぞれの性質に応じて再生債権・共益債権・一般優先債権・開始後債権などに分けられ、異なる取扱いがされます。再生計画の認可による減額等の対象となるのは、上記のうちの再生債権に該当する債権です。
民事再生における債権の区別
民事再生手続(再生手続)を申し立てる目的は、裁判所に再生計画を認可してもらうことにより、債務の減額など返済計画を変更してもらうことにあります。
もっとも、どのような債権・債務でも減額などの対象になるわけではありません。
債権・債務といっても、さまざまな種類・内容のものがあります。すべての債権・債務を一律に取り扱うことによって、かえって債権者間の公平を害することもあります。
そこで、再生手続においては、債権は大別して以下の4つの種類に区別されています。
- 再生債権
- 共益債権
- 一般優先債権
- 開始後債権
上記のうち、裁判所による再生計画認可決定によって減額などをしてもらえるのが「再生債権」です。
共益債権と一般優先債権は、減額などの対象とはなりません。再生手続によらずに随時弁済をすることになります。
開始後債権も、減額などの対象にはなりませんが、再生手続開始から再生計画に基づく弁済期間が満了するまでの間、弁済を受けたり、強制執行をしたりすることができないとされています。
再生債権
民事再生法 第84条
- 第1項 再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(共益債権又は一般優先債権であるものを除く。次項において同じ。)は、再生債権とする。
- 第2項 次に掲げる請求権も、再生債権とする。
- 第1号 再生手続開始後の利息の請求権
- 第2号 再生手続開始後の不履行による損害賠償及び違約金の請求権
- 第3号 再生手続参加の費用の請求権
再生債権とは、再生債務者に対する再生手続開始前の原因に基づく財産上の請求権のことをいいます(民事再生法84条1項)。再生債権を有する債権者を再生債権者といいます。
再生債権に該当する債権であるというためには、以下の要件を満たしている必要があります。
- 再生債務者に対する請求権であること
- 財産上の請求権であること
- 再生手続開始前の原因に基づくものであること
- 強制執行が可能な請求権であること
- 共益債権・一般優先債権に該当しないこと
ただし、民事再生法84条2項各号で定める請求権は、再生手続開始後の原因に基づくものであるにもかかわらず、例外的に再生債権として扱われます。
この再生債権は、再生手続開始により、原則として弁済が禁止されます(民事再生法85条1項)。他方、再生債権者も再生債務者に対して強制執行等をすることができなくなります。
そして、裁判所の再生計画認可決定により減額されるなどして、再生計画認可決定確定後に、再生計画に基づいて弁済されます。
再生手続開始前の原因に基づく金融機関などからの借入金、クレジットカード利用による立替金、売買代金、取引先からの買掛金などは、再生債権に該当します。
もっとも、再生債権であっても非減免債権に該当する債権については、再生計画が認可されたとしても、減額はされません(民事再生法229条3項、244条)。
また、住宅資金特別条項を利用する場合の住宅資金貸付債権は、再生債権ではあるものの、他の再生債権と異なり、住宅資金特別条項で定められた方法で弁済をしていくことになります。
共益債権
民事再生法 第119条
- 次に掲げる請求権は、共益債権とする。
- 第1号 再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
- 第2号 再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権
- 第3号 再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く。)
- 第4号 第61条第1項(第63条、第78条及び第83条第1項において準用する場合を含む。)、第90条の2第5項、第91条第1項、第112条、第117条第4項及び第223条第9項(第244条において準用する場合を含む。)の規定により支払うべき費用、報酬及び報償金の請求権
- 第5号 再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権
- 第6号 事務管理又は不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
- 第7号 再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの(前各号に掲げるものを除く。)
共益債権とは、再生手続上の利害関係人の共同の利益のためにされた行為により生じた請求権一般の総称です。共益債権を有する債権者のことを共益債権者といいます。
どのような請求権が共益債権となるのかについては、原則として法定されています。法定されているものとしては、以下のようなものがあります。
- 再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(民事再生法119条1号)
- 再生手続開始後の再生債務者の業務・生活・財産の管理・財産の処分に関する費用の請求権(同条2号)
- 再生計画の遂行に関する費用の請求権(同条3号)
- 監督委員・個人再生委員・再生債権確定訴訟などの費用・報酬の請求権(同条4号)
- 再生債務者資産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権(同条5号)
- 事務管理または不当利得により再生手続開始後に再生債務者に生じた請求権(同条6号)
- その他、再生手続開始後に生じた再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権(同条7号)
- 再生手続開始の申立て後再生手続開始までの間の事業継続により生じた請求権(民事再生法120条、50条2項)
- 社債管理者または社債管理補助者の再生債務者に対する社債管理事務の処理に要する費用の請求権(民事再生法120条の2)
共益債権は、再生手続の開始によっても、弁済は禁止されません。再生手続外で随時支払うことになります(民事再生法121条1項)。また、共益債権者は、再生手続開始後でも、原則として強制執行等が可能です。
また、共益債権は、再生計画が認可されても、減額や分割払いにはなりません。
一般優先債権
民事再生法 第122条
- 第1項 一般の先取特権その他一般の優先権がある債権(共益債権であるものを除く。)は、一般優先債権とする。
- 第2項 一般優先債権は、再生手続によらないで、随時弁済する。
- 第3項 優先権が一定の期間内の債権額につき存在する場合には、その期間は、再生手続開始の時からさかのぼって計算する。
- 第4項 前条第3項から第6項までの規定は、一般優先債権に基づく強制執行若しくは仮差押え又は一般優先債権を被担保債権とする一般の先取特権の実行について準用する。
一般優先債権とは、共益債権となるものを除き、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権のことをいいます(民事再生法122条1項)。
一般優先債権としては、一般の先取特権がある請求権のほか、税金の請求権などがあります。
一般優先債権も、共益債権と同様、再生手続開始後も再生手続外で随時弁済できます(民事再生法122条2項)。また、一般優先債権者は原則として強制執行等をすることも可能です。
この一般優先債権も、再生計画が認可されても減額や分割払いにはなりません。
開始後債権
民事再生法 第123条
- 第1項 再生手続開始後の原因に基づいて生じた財産上の請求権(共益債権、一般優先債権又は再生債権であるものを除く。)は、開始後債権とする。
- 第2項 開始後債権は、再生手続が開始された時から再生計画で定められた弁済期間が満了する時(再生計画認可の決定が確定する前に再生手続が終了した場合にあっては再生手続が終了した時、その期間の満了前に、再生計画に基づく弁済が完了した場合又は再生計画が取り消された場合にあっては弁済が完了した時又は再生計画が取り消された時)までの間は、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができない。
- 第3項 開始後債権に基づく再生債務者の財産に対する強制執行、仮差押え及び仮処分並びに財産開示手続の申立ては、前項に規定する期間は、することができない。開始後債権である共助対象外国租税の請求権に基づく再生債務者の財産に対する国税滞納処分の例によってする処分についても、同様とする。
開始後債権とは、共益債権・一般優先債権・再生債権を除き、再生手続開始後の原因に基づいて生じた財産上の請求権のことをいいます(民事再生法123条1項)。
開始後債権は、再生手続上劣後的な取り扱いを受けます。
すなわち、開始後債権は、再生手続開始から再生計画に基づく弁済期間が満了するまでの間、弁済を受けることができず、また、強制執行等をすることもできません(同条2項、3項)。
参考書籍
本サイトでも民事再生について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験(司法試験・予備試験など)勉強中の方のために、民事再生の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
個人再生の実務Q&A120問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
個人再生を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、個人再生実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
通常再生の実務Q&A150問
編集:全国倒産処理ネットワーク 出版:きんざい
通常再生(個人再生ではない民事再生手続)について問題となるケースなどをQ&A方式で解説する実務書。通常再生を扱う実務家の多くが利用しているのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。