相続は、被相続人の死亡によって開始されます(民法882条)。相続の開始には、被相続人の死亡以外に特別な要件はありません。
相続の開始時期
民法 882条
相続は、死亡によって開始する。
遺産相続は,民法882条によれば,「相続は、死亡によって開始する」ことになっています。死亡とは,被相続人が死亡するということです。すなわち,人の権利能力の終期と同時に相続が開始されることになります。
他に特別な開始の要件はありません。遺産相続は,被相続人が死亡すると,それだけで開始されるということです。
したがって,相続人が相続に応じるかどうかにかかわらず,被相続人が死亡すれば,その相続財産は,相続人に包括的に承継されることになります。
ただし,相続人は,相続をしたくない場合,相続開始後に相続放棄などの措置をとることはできますし,相続人間等で遺産分割をすることもできます。
法制度上は,相続放棄や遺産分割等をしてから相続が開始されるというようにはせずに,まず相続を開始させてその後に相続放棄や遺産分割等の手続をとり,それらの手続をとることにより,相続開始時にさかのぼって,相続放棄や遺産分割等の効力が生ずるということになっています。
このように,まず被相続人の死亡によってすぐに相続が開始されるというようにしているのは,被相続人の死亡から相続開始までの間に,財産の帰属主体がいなくなる結果,第三者が不安定な地位に置かれてしまうのを防止するという意味があります。
相続人らに相続財産を帰属させることによって,法的な安定性を確保しようとしているというわけです。
被相続人の死亡
相続の開始原因は,前記のとおり,被相続人の死亡です。ここでいう「死亡」には,生物学的・医学的な意味での死亡だけでなく,法律的な意味での死亡も含まれています。
この「死亡」とは何かという点について,通常の死亡の場合にはあまり問題とならないでしょう。
ここでいう通常の死亡とは,具体的にいえば,心臓の拍動停止,呼吸停止,瞳孔反射の消失(いわゆる「3兆候」基準)をもって死亡と判定された場合です。
やはり,「死亡」の意味が問題となってくるのは「脳死」の場合でしょう。この点については,まだ議論が確定しているとは言えない状況です。
この点につき,「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)6条2号は,「 『脳死した者の身体』とは,脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体をいう」と規定しています。
この規定からただちに,死亡=脳死=全脳の機能が不可逆的に停止するに至った場合ということはできませんし,上記規定に該当する場合をもって相続開始原因となる死亡というように言うこともできません。
しかし,これを参考として,この規定に該当する場合で,しかも実際に臓器移植がなされることになった場合には,相続開始原因である「死亡」にも該当するという見解があります。
なお,どの時点で死亡したのかについては,基本的に,医師の死亡診断書の時刻に従うことになるでしょう。
被相続人が死亡したものとして扱う場合
例えば、事故や災害などで,ある人の生死が不明となっている場合や,死亡はほとんど確実であるものの遺体が発見できないため,死亡を立証できないという場合があります。
このような場合にも相続を開始させることができないとすると,第三者の法的地位を不安定にしてしまいますし,相続人等にも相続財産管理の負担等を与えてしまう可能性があります。
そこで,法は,生死不明の場合には「失踪宣告」という制度を利用することによって,その生死不明の人が死亡したものとみなすことができるとしています。
また,死亡が確実だが立証ができないという場合には,行政制度として,その人が死亡したものとして戸籍に記載する「認定死亡」という制度があります。
これら死亡とみなす又は死亡として扱うという制度によって死亡としてみなされ又は扱われることになった場合には,相続が開始されることになります。
相続開始の場所
遺産相続は,被相続人の最後の住所地で開始されることになります。これは,相続に関する裁判手続の管轄や相続税を納める税務署の管轄などに影響してきます。
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