この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q加害者の親や家族に対して交通事故の損害賠償を請求できる?
- A
加害者の親や家族であるからといって、当然に損害賠償請求できるわけではありません。加害者の親や家族に損害賠償請求できるのは、以下の場合に限られます。
前提条件 適用条文 親や家族への損害賠償 加害者に責任能力がない場合 民法714条
監督義務者等の責任親や家族が監督義務者等に該当すれば、損害賠償請求できる 加害者に責任能力がある場合 民法709条
一般不法行為責任親や家族の監督義務違反行為によって損害が生じたと言える場合であれば、損害賠償請求できる 親や家族が加害者の使用者である場合 民法715条
使用者責任業務の執行について生じた交通事故であれば、損害賠償請求できる 自動車の運行による人身事故の場合 自動車損害賠償保障法3条
運行供用者責任親や家族が運行供用者に該当すれば、損害賠償請求できる
このページでは、加害者の親や家族に対して交通事故の損害賠償を請求できるのかについて詳しく説明します。
- 加害者の親や家族に損害賠償請求できるケース
- 加害者に責任能力がある場合・ない場合の親や家族の法的責任
- 親や家族が加害者の使用者である場合の法的責任
- 親や家族が運行供用者である場合の法的責任
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加害者の親や家族に対する損害賠償
交通事故に遭った場合、「加害者の親や家族に責任をとって欲しい」と考える人は少なくないかもしれません。特に、未成年者による交通事故の場合などには、そのように考える人が多いでしょう。
しかし、加害者の親や家族であるだけでは、損害賠償責任を負う法的根拠にはなりません。そのため、加害者の親や家族には、損害賠償を請求できないのが原則です。
とは言え、加害者の親や家族がまったく責任を負うことがないわけではありません。ただ「親や家族である」というだけでなく、特定の立場にある場合には、加害者本人に代わってまたは加害者とともに損害賠償責任を負担することがあります。
具体的には、以下の場合に、加害者の親や家族に損害賠償を請求できることがあります。
| 前提条件 | 適用条文 | 親や家族への損害賠償 |
|---|---|---|
| 加害者に責任能力がない場合 | 民法714条 監督義務者等の責任 | 親や家族が監督義務者等に該当すれば、損害賠償請求できる |
| 加害者に責任能力がある場合 | 民法709条 一般不法行為責任 | 親や家族の監督義務違反行為によって損害が生じたと言える場合であれば、損害賠償請求できる |
| 親や家族が加害者の使用者である場合 | 民法715条 使用者責任 | 業務の執行について生じた交通事故であれば、損害賠償請求できる |
| 自動車の運行による人身事故の場合 | 自動車損害賠償保障法3条 運行供用者責任 | 親や家族が運行供用者に該当すれば、損害賠償請求できる |
以下、それぞれについて説明します。
ケース1:親や家族が責任無能力者の監督義務者等である場合
責任能力とは、自己の行為の責任を弁識できる能力です。加害者に責任能力が無い人(責任無能力者)は、不法行為責任(損害賠償責任)を負いません。
そのため、交通事故の加害者が責任無能力者である場合、被害者は損害賠償を請求できません。
ただし、加害者本人に請求できない代わりに、加害者の「監督義務者」に損害賠償を請求することが可能です(監督義務者等の責任。民法714条)。
加害者本人に責任能力がなく、親や家族が監督義務者に該当する場合には、加害者の親や家族に損害賠償を請求できます。
加害者本人が責任無能力者と判断される場合
監督義務者に損害賠償を請求できるのは、加害者本人に責任能力がない場合です。具体的には、以下の場合に責任能力がないと判断されます。
- 加害者が、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていない18歳未満の未成年者である場合(民法712条)
- 加害者が、交通事故の当時、精神上の障害によって自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にあった場合(民法713条)
未成年者の責任能力
前記のとおり、未成年者であるからといって、常に責任能力がないと判断されるわけではありません。未成年者が責任無能力とされるのは、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(事理弁識能力)を備えていない」場合に限られます。
どのような場合に事理弁識能力がないと判断されるかは、未成年者の発育状況や生活環境などによって異なります。
ただし、一般的には、12~13歳以上(小学校卒業程度)であれば、責任能力があると判断されることが多いでしょう。
| 未成年者の年齢 | 責任能力の有無 | 請求の相手方 |
|---|---|---|
| 12歳未満 | 責任能力なしと判断される場合が多い | 未成年者には請求できない 民法714条により監督義務者に請求できる |
| 12~13歳以上18歳未満 | 責任能力ありと判断される場合が多い | 民法714条による監督義務者への請求はできない 未成年者への請求が原則 |
精神上の障害がある人の責任能力
精神上の障害がある人であっても、常に責任能力が否定されるわけではありません。精神上の障害がある人は、交通事故の当時、「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」にあった場合に限り、責任無能力と判断されます。
例えば、認知症などの人であっても、交通事故の時には認識がしっかりとした状態であった場合には、責任能力があると判断されます。
また、交通事故の当時に精神上の障害によって事理弁識能力がなかった場合でも、「故意又は過失によって一時的にその状態を招いたとき」は、責任能力があるものとして扱われます(民法713条ただし書き)。
例えば、自分で飲酒して酩酊したことによって事理弁識能力がなくなっていたとしても、故意または過失によって一時的に酩酊状態を作り出しているにすぎないので、責任能力がないとは判断されません。
親や家族が監督義務者等と判断される場合
加害者本人に責任能力がない場合、民法714条によって損害賠償責任を負うことになるのは、以下の立場にある人です。
- 監督義務者(民法714条1項)
法定の監督義務を負う人 - 代理監督者(民法714条2項)
法定の監督義務者から委託を受け、または、法律の規定により責任無能力者を監督する人 - 準監督義務者
責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる人(JR東海認知症事件判決・最三小判平成28年3月1日)
加害者の親や家族が上記のいずれかに該当する場合であれば、民法714条に基づいて監督義務者等の責任を追求して損害賠償を請求できます。
親や家族が監督義務者に該当するケース
監督義務者とは、法令に基づく監督義務を負う人のことです。具体的には、以下のような人が監督義務者に該当します。
- 未成年者の父母または親権者
- 家庭裁判所によって選任された未成年後見人
加害者が責任能力のない未成年者であった場合であれば、加害者の両親(父母)または親権者に損害賠償を請求できるのが一般的でしょう。
精神上の障害がある人の場合は、必ずしも親や同居家族、成年後見人などが監督義務者になるとは限りません。日常の行動まで監督すべき義務があると言えるような場合に限られます。
親や家族が代理監督者に該当するケース
代理監督者とは、法定の監督義務者から委託を受け、または、法律の規定により責任無能力者を監督する人のことです。
父母や親権者などの法定監督義務者から委託を受けて、他の家族が加害者本人を監督する立場にあった場合には、代理監督者として損害賠償を請求できる可能性があります。
ただし、明確な法律や契約などに基づく委託でなければなりません。家族であるだけでは代理監督者とはいえません。そのため、家族が代理監督者として認められるケースは少ないです。
親や家族が準監督義務者に該当するケース
準監督義務者とは、「責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる人」のことです(JR東海認知症事件判決・最三小判平成28年3月1日)。
以下の要素を総合的に考慮して「その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断」されます。
- その者自身の生活状況や心身の状況など
- 責任無能力者との親族関係の有無・濃淡
- 同居の有無その他の日常的な接触の程度
- 責任無能力者の財産管理への関与の状況などその者と責任無能力者との関わりの実情
- 責任無能力者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容
- これらに対応して行われている監護や介護の実態
ハードルは高いですが、加害者の家族が、上記の要素から準監督義務者と判断されるケースであれば、監督義務者でない加害者家族に損害賠償を請求することが可能です。
ケース2:親や家族の監督義務違反と損害に因果関係がある場合
加害者に責任能力がある場合は、民法714条に基づいて加害者の親や家族に損害賠償を請求することはできません。
ただし、親や家族が監督義務者と言える場合、監督義務違反行為によって交通事故による損害が発生したと言えるときであれば、民法709条・710条に基づいて損害賠償を請求できると考えられています(最二小判昭和49年3月22日)。
つまり、監督義務に違反した親や家族を直接の加害者とみて、損害賠償を請求するのです。
ケース3:親や家族が加害者の使用者(雇用主)である場合
事業のために他人を使用する人(使用者)は、使用されている人(被用者)が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(使用者責任。民法715条)。
そのため、親や家族に雇われている加害者が交通事故を起こした場合、加害者の使用者である親や家族に対しても損害賠償を請求できるケースがあります。
親・家族が使用者に該当する場合
民法715条に基づいて損害賠償責任を負うのは、親や家族が加害者の「使用者」に該当する場合です。
例えば、親や家族が事業を営んでおり、その従業員や専従者として加害者本人を雇用していた場合は、親や家族が使用者に該当します。
「事業の執行」に該当する場合
使用者が民法715条の責任を負うのは、「事業の執行」について加害者が交通事故を起こした場合です。例えば、運送業で配達中に従業員である加害者が交通事故を起こした場合です。
業務中に限らず「「必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのでなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合」も、事業の執行に該当します(最三小判昭和39年2月4日)。
また、外形的に業務行為と認められる場合だけでなく、「事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為」も、業務の執行に含まれると考えられています(最三小判昭和44年11月18日)。
そのため、例えば、通勤中に業務用の自動車を運転して交通事故を起こしたような場合でも、「事業の執行」として、使用者である親や家族に損害賠償を請求できるケースがあります。
ケース4:親や家族が自動車の運行供用者である場合
自動車の運行による人身事故の場合、自動車を運転していた加害者本人だけでなく「運行供用者」も損害賠償責任を負います(運行供用者責任。自動車損害賠償保障法3条)。
そのため、自動車の運行による人身事故において、加害者の親や家族が運行供用者に該当する場合であれば、損害賠償を請求できます。
親や家族が運行供用者に該当するケース
運行供用者とは、自己のために自動車を運行の用に供する者のことです。具体的には、以下の人が運行供用者に該当します。
- 自動車の保有者(自賠法2条3項)
- 自動車の使用について支配権を有し(運行支配)、自動車の使用によって利益を得ている(運行利益)人(最三小判昭和43年9月24日・集民92号369頁)
自動車の保有者
自動車の保有者とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者のことです。
例えば、加害者が親や家族が所有する自動車を運転して交通事故を起こした場合、自動車所有者である親や家族にも損害賠償を請求できます。
なお、親や家族がローンで購入した自動車の場合、ローンを支払い終わるまで所有者名義がローン会社のままになっています(所有権留保)。もっとも、実質的に自動車の使用権を持っているのは、購入者である親や家族です。
そのため、所有権留保によって所有者名義がローン会社になっている場合であっても、購入者(使用者)が親や家族であれば、自動車の保有者として親や家族に損害賠償請求することが可能です(ローン会社は運行供用者にはなりません。)。
運行支配・運行利益を有する者
自動車の保有者でない場合でも、親や家族が、加害自動車の使用について支配権を有し(運行支配)、その自動車の使用によって利益を得ている(運行利益)場合であれば、運行供用者に該当します。
この運行支配と運行利益は両方なければならないわけではなく、どちらか一方だけであっても、運行供用者と判断されるケースはあります。
特に、親の自動車を子が使って交通事故を起こしたような場合には、運行利益は認められないのが通常です。そのため、重大な運行支配があれば運行供用者と判断されることが多いです。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
弁護士に依頼するメリット
「交通事故の損害賠償請求は弁護士に頼んだ方がいいの?」
とお悩みの方は少なくないでしょう。
実は、交通事故の損害賠償額には、保険会社の基準と裁判基準(弁護士基準とも呼ばれます。)があります。保険会社の基準は、裁判基準よりもかなり低額に抑えられています。
そのため、自分で保険会社と示談交渉する場合よりも、弁護士に依頼して裁判基準で示談交渉または訴訟をしてもらう方が、損害賠償額が高額になる可能性が高いのです。弁護士に依頼する一番のメリットは、その点にあります。
特に、自動車保険に弁護士特約を付けてある場合には、弁護士費用を保険金で支払うことが可能です。そのため、自己負担がほとんどないまま、弁護士に依頼することができます。弁護士特約がある場合には、間違いなく弁護士に依頼すべきです。
- 被害者の相談無料
- メール相談可・土日祝日対応可
- 着手金無料(完全成功報酬・費用の後払い可能)
- 損害賠償額が増額しない場合は弁護士報酬0円
- 弁護士特約の利用可能
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- 全国対応・メール相談可
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- 増額できなければ弁護士費用は無料
- 弁護士特約の利用可能
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参考書籍
本サイトでも交通事故損害賠償について解説していますが、より深く知りたい方のために、交通事故損害賠償の参考書籍を紹介します。
民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準
出版:日弁連交通事故相談センター東京支部
通称「赤い本」。交通事故損害賠償請求を扱う弁護士は、ほとんどが持っている必携書。東京地裁の実務を中心に、損害賠償額の算定基準(裁判基準)を解説しています。この本の基準が実務の基準と言ってよいほどに影響力があります。毎年改定されています。
交通事故損害額算定基準 -実務運用と解説-
出版:日弁連交通事故相談センター
通称「青本」。こちらは、赤い本と違って、東京地裁だけでなく、全国の裁判所における裁判例を紹介しています。2年に1回改訂されています。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)別冊判例タイムズ38号
編集:東京地裁民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
こちらも実務必携と言われる書籍。交通事故では過失相殺がよく問題となりますが、その過失相殺率の認定基準を解説する実務書です。東京地裁の裁判官が中心となって執筆されている本ですが、この本の認定基準が全国的な実務の基本的な認定基準となっています。
大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(第4版)
編集:大阪民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
大阪地裁交通部(第15民事部)の裁判官による大阪地裁における交通事故損害賠償額算定基準を解説する実務書。大阪地裁で交通事故訴訟をする場合には必携です。(※なお、大阪弁護士会交通事故委員会による「交通事故損害賠償算定のしおり(通称、緑の本)」とは異なります。こちらは、裁判官執筆の本です。)
新版注解交通損害賠償算定基準
著者:高野真人ほか 出版:ぎょうせい
赤い本や青本の解説書。実務書の解説書という珍しい本ですが、赤い本や青本はどちらかと言うと資料集的な実務書であるため、詳細な理由付けなどが説明されていない部分もあります。本書は、そこを解説しています。赤い本や青本とセットで持っていると便利です。
交通事故損害賠償法(第3版)
編集:北河隆之 出版:弘文堂
交通事故損害賠償に関する法律の体系書。実務マニュアル的なものではなく、理論的な面の解説も体系的にまとめられており、交通事故損害賠償の基本書といった感じの本です。

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