この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

売買契約とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転し、相手方がこれに対して代金を支払うことを約することによって効力を生じる契約のことをいいます(民法555条)。
売買契約の当事者について破産手続が開始したとしても、売買契約は当然には終了しません。したがって、破産管財人による契約関係の清算が必要となってきます。
具体的に言うと、破産手続において売買契約の処理が必要となる場合としては、①売主の目的物引渡債務も買主の代金支払債務も履行されていない場合、②売主の目的物引渡債務は履行されているが、買主の代金支払債務はまだ履行されていない場合、③売主の目的物引渡債務はまだ履行されていないが、買主の代金支払債務はすでに履行されている場合の3パターンがあります。
破産手続における売買契約の処理
売買契約とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転し、相手方がこれに対して代金を支払うことを約することによって効力を生じる契約のことをいいます(民法555条)。
売買契約は、私たちの日常生活において最も身近な契約です。もちろん、日常生活だけでなく、法人・会社などの事業においても、最も頻繁に行われる契約でもあります。
商品を売却する事業の場合には、売却の都度、売買契約を締結することになりますが、そうでない事業においても、仕入れや什器備品の購入などで売買契約を締結しているはずです。
売買契約は、売主が目的物を買主に引き渡し、買主が売主に対して代金を支払えば、契約の目的は達せられ、契約関係は終了します。
しかし、当事者双方または一方の債務が履行されていない場合には、売買契約関係は終了しません。
この売買契約は、売買契約の当事者について破産手続が開始されたとしても、当然には終了しません。
そのため、破産手続開始の時点で、まだ当事者双方または一方の債務の履行が終了していない場合、破産管財人は、その売買契約関係を解消するための措置をとる必要が生じてきます。
具体的に言うと、以下の場合には、破産手続において売買契約の処理が必要となります。
- 売主の目的物引渡債務も買主の代金支払債務も履行されていない場合
- 売主の目的物引渡債務は履行されているが、買主の代金支払債務はまだ履行されていない場合
- 売主の目的物引渡債務はまだ履行されていないが、買主の代金支払債務はすでに履行されている場合
売主が破産した場合
売主が破産した場合、売主の目的物引渡債務も買主の代金支払債務も履行されていないときには、当事者双方が債務を履行していないということです。
したがって、この場合には、双方未履行双務契約として処理されます。具体的に言うと、破産管財人が、売買契約を解除するか履行請求するかを選択することになります(破産法53条1項)。
履行請求を選択した場合、破産管財人は、買主に対して目的物を引き渡すのと引き換えに、買主に対して代金の支払いを求めます。買主から代金を回収した場合、その金銭は破産財団に組み入れられることになります。
売主の目的物引渡債務は履行済み・買主の代金支払債務は未履行の場合には、破産管財人は、買主に対して代金の支払いを請求し、買主から代金を回収した場合、その金銭は破産財団に組み入れられることになります。
売主の目的物引渡債務は未履行・買主の代金支払債務は履行済みである場合、相手方である買主は、代金支払いにより目的物の所有権を取得しているのであれば、取戻権を行使して、破産管財人に対して目的物の引渡しを求めることができ、破産管財人はこれに応じなければなりません。
ただし、目的物が対抗要件を要するものである場合、破産管財人は売買契約の第三者として扱われます。そのため、買主は、対抗要件を具備していない場合、破産管財人に対して目的物の引渡しを求めることができません。
この場合、買主の債権は、破産債権として扱われます。したがって、買主は、目的物の引渡しを受けることはできませんが、破産債権者として、破産手続における配当に参加することができます。
買主が破産した場合
買主が破産した場合、買主の代金支払債務も売主の目的物引渡債務も履行されていないときには、前記のとおり、双方未履行双務契約として処理されます。
したがって、破産管財人が、売買契約を解除するか履行するかを選択します(破産法53条1項)。
履行請求を選択した場合、破産管財人は、売主に対して代金を支払うのと引き換えに、売主に対して目的物の引渡しを求めます。
売主から目的物を回収した場合、その目的物は換価処分され、それによって得られた金銭は破産財団に組み入れられることになります。
買主の代金支払債務は未履行・売主の目的物引渡債務は履行済みの場合には、売主の代金請求権は破産債権として扱われます。
ただし、目的物が動産である場合、売主は、動産売買先取特権を有することになるので、別除権を行使して、目的物の転売代金等に物上代位することができることがあります。
買主の代金支払債務は履行済み・売主の目的物引渡債務は未履行である場合、破産管財人は、売主に対して目的物の引渡しを求め、引き渡しを受けた目的物を換価処分して破産財団に組み入れることになります。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
破産法と資格試験
倒産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の選択科目とされています。この倒産法の基本となる法律が、破産法です。
民事再生法など他の倒産法は破産法をもとにした法律した法律ですので、破産法を理解していることが前提となってきます。そのため、学習する順番としては、まずは破産法からでしょう。
もっとも、出題範囲が限られているとはいえ、破産法もかなりのボリュームです。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
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参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。