この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

売主が破産した場合でも、売買契約は当然には終了しません。そのため、破産手続開始時に売買契約が完了していない場合、破産管財人は契約を清算しなければなりません。
売買契約の売主が破産した場合、その破産手続開始時において、売主が目的物を引き渡しておらず、買主も代金を支払っていないときは、双方未履行双務契約として、破産管財人が、契約を解除するか履行請求するかを選択します(破産法53条1項)。
破産管財人が履行請求を選択した場合、破産管財人は、買主に対し、目的物を引き渡すのと引き換えに代金を支払うよう請求し、回収した代金は破産財団に組み入れられます。
売主がすでに目的物を引き渡しているものの、買主がまだ代金を支払っていない場合には、破産管財人は、買主に対し、代金の支払いを請求し、回収した代金は破産財団に組み入れられます。
売主が目的物をまだ引き渡していないものの、買主はすでに代金を支払っている場合、買主が所有権を取得し、かつ、対抗要件も具備しているときは、破産管財人に対し、取戻権を行使して、目的物の引渡しを求めることができます。買主が引き渡しを求めることができない場合、買主の請求権は破産債権として扱われます。
売主が破産した場合の売買契約
売買契約の売主について破産手続が開始した場合でも、売買契約は当然には終了しません。
したがって、破産手続開始後も売買が完了せずに契約が存続している場合、破産管財人は、破産手続開始後、売買契約を清算しなければなりません。
売主の破産において売買契約の清算処理が必要となる場合(売買契約が破産手続開始前に完了していない場合)としては、以下の場合があります。
- 売主の目的物引渡債務も買主の代金支払債務も履行されていない場合
- 売主の目的物引渡債務は履行されているが、買主の代金支払債務はまだ履行されていない場合
- 売主の目的物引渡債務はまだ履行されていないが、買主の代金支払債務はすでに履行されている場合
引渡債務・代金債務のいずれも未履行の場合
破産法 第53条
- 第1項 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
- 第2項 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
- 第3項 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第631条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。
売主が破産した場合、売主がまだ目的物を引き渡しておらず、買主も代金を支払っていないときは、当事者双方が債務を履行していないということです。
したがって、この場合には、双方未履行双務契約として処理されます。
具体的に言うと、破産管財人が、売買契約を解除するか、または、履行請求するかを選択することになります(破産法53条1項)。
契約の解除と履行請求のどちらを選択するかは、破産管財人の裁量に委ねられます。履行請求して代金の支払いを受ける方が破産財団の増殖につながるのであれば履行請求を選択することになるでしょうが、そうでなければ、解除を選択することになるでしょう。
破産管財人が売買契約を解除した場合、契約は終了し、目的物引渡債務も代金支払債務も消滅します。破産管財人は、目的物を換価処分して、それによって得た金銭を破産財団に組み入れます。
破産管財人が履行請求を選択した場合は、破産管財人は、買主に対して目的物を引き渡すのと引き換えに、代金の支払いを請求します。そして、回収した代金は、破産財団に組み入れられることになります。
引渡債務は履行済み・代金債務は未履行の場合
売主がすでに目的物を引き渡しているものの、買主はまだ代金を支払っていない場合、売主が有する買主に対する代金請求権は破産財団に属する財産となります。
したがって、破産管財人は、買主に対して代金の支払いを請求し、回収した代金を破産財団に組み入れることになります。
引渡債務は未履行・代金債務は履行済みの場合
売主はまだ目的物を引き渡していないものの、買主はすでに代金を支払っている場合、買主がすでに目的物の所有権を取得しているときは、買主は、取戻権を行使して、破産管財人に対して目的物の引渡しを求めることができます。
もっとも、破産管財人は、売買契約の当事者ではありません。売買契約の当事者から見れば第三者として扱われます。
したがって、買主は、たとえ所有権を取得していたとしても、対抗要件を具備していなければ、破産管財人に対して目的物の引渡しを求めることはできません。
例えば、目的物が不動産であった場合、買主は、その不動産について登記を具備していなければ、破産管財人に対してその不動産の引渡し・明渡しを求めることはできません。
買主が目的物の引渡しを求めることができない場合、その買主の債権は破産債権となります。しがたって、買主は、破産手続における配当によって金銭を回収することになります。
また、引き渡しをしなかった目的物は、売主の財産として破産管財人が換価処分し、それによって得た金銭を破産財団に組み入れます。
ただし、目的物の換価が困難であるため、かえって保管費用がかかってしまう場合には、破産管財人は、買主が対抗要件を具備していなくても、買主からの引渡し請求に応じて引き渡しをすることもあり得ます。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
破産法と資格試験
倒産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の選択科目とされています。この倒産法の基本となる法律が、破産法です。
民事再生法など他の倒産法は破産法をもとにした法律した法律ですので、破産法を理解していることが前提となってきます。そのため、学習する順番としては、まずは破産法からでしょう。
もっとも、出題範囲が限られているとはいえ、破産法もかなりのボリュームです。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。