この記事にはPR広告が含まれています。

賃借人(借主)が破産すると賃貸借契約はどうなるのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

破産法の画像
point

賃借人について破産手続が開始された場合、破産管財人は、破産法53条1項に基づき、賃貸借契約を解除するか、または、賃料を支払って賃貸人に対して目的物を使用・収益させるよう請求するかを選択できます。

破産管財人が賃貸借契約を解除した場合、破産管財人は目的物を賃貸人に返還します。この場合、破産手続開始前に発生していた賃料請求権は破産債権となります。破産手続開始から契約解除までの間に発生した賃料請求権は財団債権となります(破産法148条1項2号、4号、8号)。

破産管財人が賃貸借契約の履行請求をした場合、破産管財人は、賃貸人に対して賃料を支払い、目的物を使用収益させるよう請求します。この場合の賃料請求権は財団債権となります(破産法148条1項7号)。

なお、破産手続開始前において賃借人である法人・会社に無断転貸や債務不履行が生じていた場合には、相手方である賃貸人が契約を解除することも可能です。

賃借人(借主)が破産した場合の賃貸借契約の処理

破産法 第53条

  • 第1項 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
  • 第2項 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
  • 第3項 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第631条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。

われわれの生活や事業活動において、賃貸借契約は頻繁に行われています。

住居のため、または、事業を行うにあたって、事業所や倉庫として利用するために不動産を賃借したり、事業設備を賃借したりするなど、賃借人(借主)として多くの賃貸借契約を締結していまず。

この賃貸借契約は、賃借人について破産手続が開始されたとしても、当然には終了しません。

そのため、賃借人(借主)が破産した場合、賃貸借契約をどのように処理するのかが問題となってきます。特に、不動産賃貸借の処理は、破産手続における重要な問題の1つです。

賃借人の破産手続開始時に賃貸借契約が存続していた場合、その賃貸借契約は、当事者双方ともに債務の履行を完了していないことになるため、双方未履行双務契約として扱われることになります。

したがって、破産法53条1項により、破産管財人が、その賃貸借契約を解除するか、または、破産者の債務を履行して相手方に対して履行を請求するかを選択することになります。

なお、個人(自然人)の破産の場合、住居の賃貸借契約については解約されず、また、破産管財人によって履行請求されることもありません。破産者自身が賃料を支払って賃貸借契約を継続していくことになるのが通常です。

そこで、以下では、法人破産および個人破産における住居以外の不動産の賃貸借契約に関する処理ついて説明します。

破産管財人が賃貸借契約の解除を選択した場合の処理

賃借人について破産手続が開始された場合、賃貸借契約を維持しておく必要がなければ、破産管財人は、破産法53条1項に基づき、賃貸借契約を解除することになります。

破産管財人によって賃貸借契約が解除されると、契約は終了します。そのため、賃貸借契約に基づく法律関係の清算が必要となります。

なお、実務においては、破産管財人から一方的に契約解除をするのではなく、賃貸人との間で精算方法も含めて話し合った上で、合意解除をするのが一般的でしょう。

賃貸借目的物の返還

破産管財人が賃貸借契約を解除した場合、相手方である賃貸人は、破産管財人に対して、賃貸借契約の終了に基づき、または賃貸借目的物の所有権に基づき、目的物の返還を求めることができます。

目的物返還請求を受けた場合、破産管財人は賃貸人に対して目的物を返還します。

不動産賃貸借の場合には、目的物たる不動産を明け渡すことになります。この際、明渡しに伴って、残置物の収去や原状回復が問題となることもあります。

賃料・賃料相当損害金

破産手続開始前の賃料請求権は、破産債権として扱われます(破産法2条5項)。

これに対し、破産手続開始から賃貸借契約解除までの間の賃料請求権は、財団債権となります(破産法148条1項2号、4号、8号)。

賃貸借契約が解除されると、それ以降、賃料は発生しません。しかし、賃貸借契約解除から目的物返還までの間も、賃料は発生しないものの、賃貸人には目的物を利用できないという損害が発生しているといえます。

そこで、賃貸人は、賃貸借契約解除から目的物返還までの間における賃料相当額の損害賠償を請求できます。

そして、その賃料相当損害金の賠償請求債権は、「破産管財人の管理処分権にもとづいてする行為を原因として生ずるもの」(最一小判昭和43年6月13日)といえるので、財団債権となります。

原状回復費用

破産手続開始前に目的物の返還・明渡しがなされ、すでに原状回復請求権が発生している場合、その原状回復請求権は金銭化され、破産債権として扱われることになります(破産法103条2項1号イ)。

他方、破産手続開始時においてまだ目的物の返還・明渡しが完了しておらず、破産手続開始後に破産管財人が賃貸借契約を解除した場合、目的物について原状回復が必要となるときは、破産管財人が原状回復義務を負うことになります。

この賃貸人の原状回復費用請求権をどのように扱うかについては論争がありますが、一般的には財団債権として扱われることが多いでしょう(ただし、裁判所によっては、破産債権として扱うところもあります。)。

ただし、破産手続開始前の損傷行為等によって原状回復が必要となった場合には、その部分について破産債権となるとする見解もあります。

賃借不動産内に残置された動産の収去費用

不動産の賃貸借の場合、その賃借不動産内に賃借人の所有動産が残置されていることがあります。

破産手続開始前に目的物の返還・明渡しがなされ、すでに動産の収去・撤去費用請求権が発生している場合、その動産の収去・撤去費用請求権は金銭化され、破産債権として扱われることになります(破産法103条2項1号イ)。

他方、破産手続開始時においてまだ目的物の返還・明渡しが完了しておらず、破産手続開始後に破産管財人が賃貸借契約を解除した場合、動産の収去・撤去が必要となるときは、破産管財人が動産の収去・撤去義務を負うことになります。

この動産収去・撤去費用請求権は、破産管財人の管理処分下にある動産によって不動産を占有しているといえるので、財団債権となります。

敷金・保証金

賃貸借契約締結の際において敷金(保証金)が差し入れられていた場合、破産管財人が賃貸借契約を解除して賃貸人に目的物を返還したときに、賃貸人に敷金(保証金)返還債務が発生します。

敷金(保証金)は、目的物の返還までに発生した一切の賃借人の債務を控除した上で、余りがあれば破産管財人に返還されます。返還された敷金は、破産財団に組み入れられることになります。

途中解約予告期間特約などの効力

賃貸借契約においては、途中解約予告期間特約・敷金放棄特約・違約金特約などが定められている場合があります。

途中解約予告期間特約とは、賃貸借契約を途中解約をする場合には一定の予告期間を設けて解約予告をしなければならず、それをせずに途中解約する場合には、その予告期間分の賃料を支払わなければならないとする特約です。

敷金放棄特約とは、賃貸借契約を途中解約する場合には、敷金返還請求権の一部または全部を放棄するという特約です。

また、途中解約する場合には一定の違約金を支払うというのが違約金特約です。

破産管財人による賃貸借契約の解除の場合にも、これらの特約が適用されるのかについては、条項の内容などから個々の事案ごとに適用の可否を判断するものと解されています。

実務では、前記のとおり、これらの特約をどのように取扱うのかも含めて合意解除をするのが一般的でしょう。

賃貸人(貸主)による賃貸借契約の解除

前記のとおり、破産管財人は破産法53条1項に基づいて賃貸借契約を解除できます。もっとも、同条項は、相手方である賃貸人からの賃貸借契約解除を禁止するものではありません。

したがって、相手方である賃貸人も、賃借人による無断転貸や債務不履行があった場合、これらに基づく法定解除や約定違反を理由とする約定解除をすることは可能です。

賃貸人によって賃貸借契約が解除された場合の処理も、前記の破産管財人による解除の場合の処理と同様です。

ただし、賃貸人自ら賃貸借契約を解除してしまうと、破産管財人との交渉の余地がなくなり、原状回復などを賃貸人負担で行うことを余儀なくされる可能性が高くなります。

そのため、実際には、次の借主を早く探したいなどの必要性が大きい場合を除いて、賃貸人の側から積極的に賃貸借契約の解除をしてくることはあまり多くありません。

倒産解除特約の効力

賃貸借契約においては、倒産解除特約が定められていることがあります。

倒産解除特約とは、賃借人が破産・民事再生・特別清算・会社更生・私的整理などの倒産手続を申立てまたは開始した場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することができるとする特約のことをいいます。

この倒産解除特約の効力について、最高裁判所は、会社更生手続の場合において「買主たる株式会社に更生手続開始の申立の原因となるべき事実が生じたことを売買契約解除の事由とする旨の特約は、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ窮境にある株式会社の事業の維持更生を図ろうとする会社更生手続の趣旨、目的(会社更生法1条参照)を害するものであるから、その効力を肯認しえないものといわなければならない。」として、倒産解除特約の効力を否定しています(最三小判昭和57年3月30日)。

また、民事再生手続の場合でも、「本件特約のうち、民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする部分は、民事再生手続の趣旨、目的に反するものとして無効と解するのが相当である。」と判示しています(最三小判平成20年12月16日)。

これらは破産手続における判断ではないので、そのまま当然に破産手続においても妥当するとはいえません。

もっとも、破産管財人の管財業務が賃貸人を含めた債権者・利害関係人全体の利益に資するものであることからすれば、破産管財人の判断を尊重すべき必要があります。

したがって、破産手続においても、上記各判例と同様、倒産解除特約の効力は否定されるべきであると解するのが一般的でしょう。

破産管財人が履行請求を選択した場合の処理

破産管財人が管財業務を遂行するに当たっては、破産者が賃借人である賃貸借契約を一定期間存続しておく必要がある場合があります。

具体的には、賃借権それ自体に換価価値があるため、賃借権を換価処分した方が破産財団の増殖につながるという場合です。

また、例えば、仕掛業務を完了するため、または、在庫管理のため、事業所や倉庫を確保しておかなければならない場合や、業務遂行のために電話機やFAX機器などの賃借目的物の利用が必要となる場合などにも、賃貸借契約を存続させる必要が生じることもあるでしょう。

このように、破産管財人は、管財業務の遂行のために賃貸借契約を維持しておく必要があると判断した場合には、破産法53条1項に基づいて、破産者の債務を履行して相手方である賃貸人に対して債務の履行を請求することができます。

賃貸人に対して履行を請求するというのは、要するに、賃貸借目的物を使用できるように請求するということです。

この場合、破産管財人は、破産者の債務の履行、つまり、賃料の支払いをしなければなりません。一方的に使用収益だけさせろとはいえないということです。

逆に、賃貸人は、破産管財人に対して、約定どおり賃料を支払うよう請求できます。そして、この賃貸人の破産管財人に対する賃料請求権は、財団債権となります(破産法148条1項7号)。

ただし、破産手続開始前にすでに発生している賃料債権は、財団債権ではなく、破産債権として扱われます。

なお、仮に破産管財人が履行請求を選択したとしても、破産手続が終了するまでには、契約関係を清算・解消しなければなりません。具体的には、借地権の換価処分を試みることになります。

借地権換価のためではなく、在庫品等の保管場所のために賃貸借契約の存続が必要であるという場合には、従前の賃貸借契約を維持するのではなく、破産管財人と賃貸人との間で、管財業務に必要な範囲で、賃貸借期間や条件を設定し直して、新たに賃貸借契約を締結することもあります。

相手方である賃貸人の催告権

前記のとおり、破産手続開始時に賃貸借契約が存続していた場合、基本的には、破産管財人が、当該賃貸借契約を解除するか、または、賃貸借契約を維持するために履行請求をするかを選択することになります。

この場合、破産管財人がどの時点で契約解除または履行請求を選択するのかについては、破産管財人の裁量に任されていると解されています。

しかし、破産管財人が賃貸借契約を契約解除するか維持するかの選択するまで、相手方である賃貸人はいつまでも無制限に待っていなければならないとすると、賃貸人の地位を著しく不安定にしてしまいます。

そこで、相手方たる賃貸人は、破産管財人に対して、賃貸借契約を解除するのか、履行請求をするのかを、相当期間内に確答するよう催告でき、この期間内に確答がなければ、賃貸借契約は解除したものとみなされるとされています(破産法53条2項)。

破産手続開始前に賃貸借契約が終了していた場合

破産手続開始前にすでに、破産者を賃借人とする賃貸借契約が終了していた場合には、破産管財人による契約解除などは問題となりません。

もっとも、賃貸借契約は終了しているものの、賃料の未払いが残っている場合には、その賃料債権は破産債権となります。

また、賃貸借契約は終了しているものの目的物の返還や明渡しが未了である場合には、賃貸借契約の終了から破産手続開始までの間に発生した賃料相当損害金請求権は破産債権となり、破産手続開始から実際の返還・明渡しまでの間に発生した賃料相当損害金請求権は財団債権となります。

これに対して、破産手続開始時までに賃貸借契約は終了し、目的物の明渡しまで済んでいるものの、原状回復をしていないという場合、賃貸人の原状回復請求権は金銭化され、破産債権になります(破産法103条2項1号イ)。

さらに、破産手続開始時において敷金(保証金)が返還されていない場合には、破産管財人は賃貸人に返還を請求して回収をし、それを破産財団に組み入れることになります。

個人破産における住居の賃貸借契約の場合

前記のとおり、個人破産の場合、住居の賃貸借契約については、破産管財人によって解除または履行請求されることはありません。破産者自身が賃料を支払って賃貸借契約を維持し、住居に住み続けることができるのが通常です。

また、賃貸人は、ただ賃借人が破産したというだけでは住居の賃貸借契約を解約することはできません。ただし、破産手続開始前にすでに数か月分の滞納があるなど債務不履行がある場合や無断転貸をしていた場合には、賃貸借契約を解除できます。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました