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賃借人(借主)が破産すると賃借不動産はどうなるのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

破産法の画像
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賃借人(借主)について破産手続が開始された場合、破産管財人は当該賃貸借契約を解除するか、または、破産法人・破産会社の債務を履行して賃貸人に対して履行請求をするかを選択できます(破産法53条1項)。

破産管財人が契約解除をした場合、破産管財人は賃貸人に対して目的物である不動産を明け渡すことになります。

この不動産明渡しにおいては、不動産内部の動産等の撤去費用や原状回復費用が問題となることがあります。これらの費用は財団債権として扱われるのが一般的です。

したがって、費用を支出できるだけの破産財団が形成されていれば、破産管財人が動産等の撤去や原状回復をした上で明渡しを行います。

他方、そうでない場合には、賃貸人が自ら撤去や原状回復を行い、その費用を破産管財人に請求することになります。

ただし、賃貸人の負担を軽減するため、撤去屋原状回復費用を支出するだけの破産財団形成が見込めない場合には、破産申立てに際して、申立人に対し、少なくとも不動産内部の動産等を撤去するために必要となる費用相当額を引継予納金に加算するよう裁判所から求められることがあります。

賃借人(借主)の破産

破産法 第53条

  • 第1項 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
  • 第2項 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
  • 第3項 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第631条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。

住居のため、あるいは、事業で利用する事業所、店舗、倉庫、工場、駐車場などのために、賃貸借契約を締結して不動産を賃借することはよく行われています。

この不動産の賃貸借契約が解約されないまま、賃借人について破産手続が開始された場合でも、その賃貸借契約は当然には終了しません。

したがって、破産管財人は、破産手続開始後、賃貸借契約を清算処理する必要があります。

具体的に言うと、破産管財人は、双方未履行双務契約として、賃貸借契約を解除するか、または、破産者側の債務を履行して賃貸人に対して履行請求をすることになります(破産法53条1項)。

破産管財人が契約の解除を選択すれば、賃貸借契約は終了して清算されることになり、履行請求を選択すれば、破産管財人は、賃貸人に対して賃料を支払う代わりに、目的物である不動産の使用収益をさせるよう請求することになります。

ただし、破産管財人が履行請求を選択をした場合であっても、いつまでも賃貸借契約を継続しておくわけではありません。

破産手続ですから、手続が終了するまでには、賃貸借契約を終了させて清算する必要があります。

破産者でが賃借人として土地・建物などの不動産をどのように処理するのかが、破産手続における重大な問題の1つとなることがあります。

なお、個人(自然人)の破産の場合、住居の賃貸借契約については解約されず、また、破産管財人によって履行請求されることもありません。破産者自身が賃料を支払って賃貸借契約を継続していくことになるのが通常です。

そこで、以下では、法人破産および個人破産における住居以外の不動産の賃貸借契約に関する処理ついて説明します。

賃貸借契約解除・明渡しの要否の判断

前記のとおり、破産手続においては、破産管財人が、賃貸借契約を解除すべきか、または、履行請求をして賃貸借契約を維持すべきかを判断することになります。

この賃貸借契約を解除するか履行請求をして契約を存続させるかどうかの判断の基準は、賃貸借契約を存続させる必要性があるかどうかということにつきます。

破産手続開始後に発生する賃料は財団債権となります(破産法148条1項7号、8号)から、賃貸借契約を存続させるとそれだけ破産財団を減少させることになりかねません。

したがって、賃貸借契約を存続しておかなければならない事情がないのであれば、破産管財人は、できる限りすみやかに、当該賃貸借契約を解除することになります。

そして、賃貸借契約を解除した場合、破産管財人は、目的物である不動産を賃貸人に明け渡すことになります。

他方、賃借権(特に借地権)そのものに換価価値がある場合には、それを換価処分した方が、契約を解除するよりも破産財団の増殖につながるということもあります。

また、在庫品や機材などを換価処分するまでの保管場所を確保する必要がある場合や、事業を継続する必要がある場合などには、不動産の賃貸借契約を存続しなければならないこともあります。

これらの場合、破産管財人は履行請求をすることができます。

ただし、履行請求をした場合であっても、賃貸借契約を清算しなければならないことに変わりはありません。

したがって、賃借権の換価が可能な場合は、賃借権を換価処分して賃貸借契約を清算することになります。この場合、賃借権は譲渡されているので明渡しの問題は生じません。

賃借権の換価が困難な場合には、破産管財業務が終了したところで、賃貸人との間で協議して契約を解除をすることになります。この場合には、上記のとおり明渡しが必要となります。

賃借不動産の明渡しと原状回復費用の問題

前記のとおり、破産管財人が契約を解除した場合(または、新たな賃貸借契約の期間が満了した場合)、破産管財人は賃貸人に対して目的物である不動産を明け渡さなければなりません。

ここで問題となるのは、不動産の内部にある動産等の撤去や、原状回復の問題です。

もちろん、不動産内部にある動産等に換価価値があれば、それを換価処分して破産財団に組み入れればよいだけですが、必ずしもすべての動産等に換価価値がつくとは限りません。

むしろ、換価価値がつかず、かえって撤去に費用がかかるということも少なくないでしょう。

また、不動産賃貸借契約においては、契約条項として、賃貸借契約終了に伴う不動産明渡しの際には、当該不動産を原状に回復した上で賃貸人に明け渡さなければならないという原状回復条項が設けられていることが一般的です。

これら不動産明渡しにおける動産等の撤去や原状回復のための費用は、それを支出できるだけの破産財団が形成されていれば、破産財団から支出することになります。

しかし、そうでない場合には、賃貸人に負担してもらうほかないことになるでしょう。つまり、賃貸人の費用負担で動産等の撤去や原状回復をしてもらうことになるということです。

賃貸人が破産手続開始後に動産等の撤去や原状回復を行った場合、その原状回復費用の請求をどのように扱うべきかについては論争がありますが、財団債権として扱うことになるのが一般的でしょう。

ただし、原状回復をすべき原因となった不動産の損傷等が破産手続開始前に生じたものである場合には、その部分の原状回復費用については破産債権とすべきであるとする見解もあります。

いずれにしても、個々の事案に応じて、破産手続開始後の原状回復費用請求権を財団債権として扱うべきか破産債権として扱うべきかを判断するのことになります。

ただし、一切合切を賃貸人の負担にするというのでは、あまりに賃貸人に被らせる負担が大きくなりすぎることもあります。

そのため、破産実務では、賃貸借契約を解除して不動産明渡しをするための費用を支出するだけの破産財団形成が見込めない場合、破産申立てに際して、申立人に対し、少なくとも不動産内部の動産等を撤去するために必要となる費用相当額を引継予納金に加算するよう裁判所から求められることがあります。

法人や個人事業者の自己破産申立てにおいては、あらかじめ、その不動産明渡しのための費用を裁判所に収める予納金として準備しておかなければならないことがあるということです。

不動産賃借をしている場合には、この賃借不動産明渡しの費用も必要となる可能性があることを考慮しておく必要があります。

自己破産申立て前における賃貸借契約解除・明渡し

前記のとおり、破産手続において賃貸借契約を存続させる必要がない場合、当該賃貸借契約は、破産管財人によって解除されることになります。

もっとも、すでに何らの取引・事業も行っていないため、賃借している不動産を維持しておく必要性がないことが、破産手続開始の申立てをする前にすでに明らかであるという場合もあります。

このような場合には、破産手続開始の申立て(自己破産の申立て準自己破産申立て)をする前に賃貸借契約を解消して、賃借不動産を賃貸人に明渡しをしておくという措置をとっておくことがあります。

他方、破産手続開始後においても賃貸借契約を存続する必要性が見込まれる場合には、賃貸借契約を解除しない方がよいということになります。

例えば、以下のような場合には、破産手続開始後においても賃貸借契約を存続する必要性が見込まれるので、破産手続開始申立て前に賃貸借契約を解除して賃借不動産を明け渡すことはしないのが通常でしょう。

破産手続開始の申立て前に明渡しをするべきではないケース
  • 賃借不動産の内部に残置物や、破産財団となるべき在庫品・什器・備品等があり、それを保管しておく場所が当該不動産の他にない場合
  • 仕掛中の業務があり、それを完了するためには、事業所・倉庫・工場等の不動産やその事業所等の中にある設備の利用が不可欠である場合
  • 破産手続開始後における債権者や利害関係人に対応するための施設として、賃借不動産を継続利用するのが妥当である場合

これらの場合に当たるときは、破産手続開始の申立て前に賃借不動産を明け渡すことはしない方が妥当でしょう。

もっとも、破産手続において賃借不動産の利用が必要となるかどうかについて不明確である場合には、申立て前の段階において不動産の明渡しを済ませておくのは控えておくべきです。

破産手続開始前に賃借不動産を明け渡しておくべきかどうかについては、専門的な法律判断が必要となることがありますので、明渡しをする前に、弁護士に相談しておくことが必要となるでしょう。

個人破産における住居用の賃借不動産の処理

前記のとおり、個人破産の場合、住居の賃貸借契約は、破産管財人による解除も履行請求もされません。破産者が自ら賃料を支払って賃貸借契約を維持していくのが通常です。

また、住居の敷金・保証金は、各地方裁判所の換価基準・自由財産拡張基準によって自由財産として扱われているのが通常です。そのため、敷金などを回収するために、賃貸借契約を解約されるということもありません。

つまり、個人の場合は、破産しても賃借している住居不動産まで奪われることはないということです。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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