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賃借人が破産すると賃貸人の原状回復請求権はどのように取り扱われるのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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賃借人について破産手続が開始された場合、破産手続開始前に発生していた原状回復請求権は、破産債権として扱われます(破産法2条5項)。この場合の破産債権の額は「破産手続開始時における評価額」とされます(破産法103条2項1号イ)。

破産手続開始後に発生する原状回復請求権については、財団債権として扱うべきとする見解(東京地方裁判所の解釈)と破産債権として扱うべきとする見解(大阪地方裁判所の解釈)があります。

賃借人が破産した場合の原状回復請求権

賃貸借契約が終了した場合、賃借人(借主)は、賃貸人(貸主)に対し、賃貸借の目的物を原状回復して返還しなければならないのが原則です(民法621条。ただし、契約によっては原状回復義務の一部または全部が免除されていることもあります。)。

これを賃貸人の側からみると、賃貸人には、賃借人に対して原状回復をするよう請求できる権利(原状回復請求権)があるということになります。

賃借人について破産手続が開始された場合、この賃貸人の原状回復請求権をどのように扱うべきかが問題となります。

原状回復請求権をどのように扱うべきかという問題は、原状回復を誰が行うのか、その費用を誰が負担するのかという問題に行きつきます。

特に、不動産の賃貸借の場合は、原状回復費用が非常に高額になることも少なくありません。その費用を誰が負担しなければならないのかは、破産者にとっても、賃貸人にとっても切実な問題です。

そのため、破産手続において原状回復請求権をどのように取り扱うべきかが重大な争点になってくることがあるのです。

破産手続開始前に賃貸借契約が終了した場合の原状回復請求権

契約解除などによって、賃借人の破産手続開始前に賃貸借契約が終了していた場合は、破産手続開始の時点において、すでに原状回復請求権が発生していることになります。

破産手続開始時において、まだ実際に原状回復が行われていない場合、その原状回復請求権は、「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であるので、破産債権として扱われます(破産法2条5項)。

そして、原状回復請求権は「金銭の支払を目的としない債権」であるため、破産手続開始時における評価額をもって破産債権の額とされます(破産法103条2項1号イ)。

実際に原状回復を行った場合にかかるであろう費用の見込額が、原状回復請求権の破産手続開始時における評価額になるでしょう。

破産手続開始時において、賃貸人の負担で実際に原状回復が行われている場合には、実際に支出した金額が、原状回復費用の請求権として、破産債権として扱われることになります。

ただし、原状回復費用は過大に見積もられたり、過大に支出されるたりするおそれがあります。

そのため、実際に原状回復がされてないない場合またはすでにされている場合のいずれの場合であっても、原状回復請求権の金額として適正なものであるかどうかは、破産管財人によって調査・検討されることになります。

また、破産手続開始前の原状回復請求権は破産債権とされるので、賃貸人は、破産手続における配当によってしか、破産手続開始前の原状回復請求権の回収を図ることができません。

破産手続開始後に賃貸借契約が終了した場合の原状回復請求権

賃借人について破産手続が開始された場合であっても、賃貸借契約は当然には終了しません。契約解除などによって終了するまで賃貸借契約は存続します。

そのため、賃借人が破産した後も賃貸借契約が継続し、破産手続開始後になって賃貸借契約が終了することもあり得ます。この場合、原状回復請求権は破産手続開始後に発生します。

この破産手続開始後の原状回復請求権をどのように取り扱うべきかについては、財団債権として扱うべきとする見解と破産債権として扱うべきとする見解とがあります。

破産実務では、裁判所によって取扱いが異なります。例えば、東京地方裁判所は財団債権説、大阪地方裁判所は破産債権説を採用していると言われています。

いずれにしても、破産手続開始後の原状回復請求権を財団債権と破産債権のいずれとして扱うべきかについては、まだ定まった解釈がないというのが現状です。

ただし、破産手続開始後の原状回復請求権は破産債権となるのが原則であるとの見解をとった場合でも、「破産管財人として、破産手続の遂行過程で、破産財団の利益を考慮した上で行った行為の結果生じた債権といえる」ときには、財団債権として取り扱われることがあります(東京地判平成20年8月18日)。

なお、財団債権として扱われる場合、賃貸借契約が終了した際、その時点で破産財団に原状回復するだけの資金が集まっていれば、破産管財人が原状回復を行うことになるのが通常です。

破産財団に原状回復をするだけの資金が集まっていない場合は、原状回復をせずに目的物を返還・明け渡し、その後、資金が集まったときに、破産手続外で、原状回復費用を賃貸人に弁済することになるでしょう。

他方、破産債権として扱われる場合には、賃貸人は、破産手続における配当によってしか、破産手続開始後の原状回復請求権の回収を図ることができません。

賃借不動産内に残置された動産類の収去請求権

不動産の賃貸借契約が終了したにもかかわらず、賃借人の所有物などが不動産内に残置されていることがあります。この場合、賃貸人は、賃借人に対し、所有権に基づき残置物の収去(撤去)を請求できます(民法622条、599条1項)。

この賃貸人が有する残置物の収去請求権も原状回復の一環といえます。

破産手続開始前に賃貸借契約が終了していた場合でも、破産手続開始後に賃貸借契約が終了した場合でも、不動産内に残置物がある以上、破産管財人が管理する財産の残地によって賃貸人の不動産を占有していると評価できます。

そのため、破産手続開始後の残置物収去請求権は、破産債権ではなく、財団債権となると解されています。

なお、賃貸人は、残置物を自分で処分できません。残置物は、賃借人または破産管財人が収去するほかないのです。そのため、破産手続開始前に残置物収去請求権が発生していたとしても、破産手続開始による金銭化はされないのが原則と考えるべきでしょう。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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