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賃貸借契約が終了した後に賃借人(借主)が破産すると賃貸借関係はどのように清算処理されるのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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賃貸借契約が終了した後に、賃借人について破産手続が開始された場合でも、当該契約に基づく債権債務関係は未清算のときがあります。その場合、破産管財人は、その未清算の債権債務関係を清算しなければなりません

賃貸借契約解約後に賃借人が破産した場合

個人が住居として不動産を賃借する場合や、法人・会社が事業を行うに当たって、不動産や事業設備などの動産を賃借していることは少なくありません。破産手続においては、賃貸借契約に基づく法律関係の清算も必要となってきます。

賃借人(借主)が破産手続開始を申し立てる場合、事案によっては、破産手続開始の申立て前または破産手続開始前に賃貸借契約がすでに解約されている(または、賃貸借契約を解約しておく)ことがあります。

この場合、破産手続開始前に賃貸借契約は終了していますから、破産手続開始後に、破産管財人が契約解除履行請求などの処理を行う必要はありません。

もっとも、賃貸借契約の場合、契約それ自体が終了していたとしても、契約に基づく債権債務関係は清算されていないということがあり得ます。

したがって、破産手続開始前に賃貸借契約が終了していた場合でも、賃貸借契約に基づく債権債務関係が残っていれば、賃借人の破産手続において、その債権債務関係の清算処理が必要となってきます。

※この場合、破産手続開始時において賃貸借契約が終了しているので、厳密に言えば、破産者ではすでに「賃借人」ではなくなっていますが、説明の便宜上、以下では、賃借人であった破産者を「賃借人」と言うことにします。

未払い・滞納している賃料

破産手続開始前に賃貸借契約が終了していたとしても、破産手続開始時において、賃料の未払い・滞納があるという場合もあります。

この賃料の請求権は、破産手続開始前の原因に基づく請求権ですから、破産債権となります(最一小判昭和43年6月13日参照)。

賃貸借目的物の返還・明渡し

破産手続開始前に賃貸借契約が解約されていた場合でも、破産手続開始時において、まだ賃貸借の目的物が賃貸人(貸主)に返還・明渡しされていないこともあります。

賃貸借契約が終了した場合、賃貸人は賃借人に対して目的物の返還・明渡しを求める請求権を取得し、他方、賃借人は賃貸人に対して目的物を返還・明け渡さなければならない義務を課せられます。

したがって、破産手続開始後、賃借人の破産管財人は、賃貸借の目的物を、賃貸人に対して返還し、目的物が不動産であれば明け渡さなければなりません。

賃貸借目的物の原状回復費用

破産管財人が賃貸借の目的物を返還する場合、目的物を原状に回復した上で返還しなけばならないのが原則です(民法621条)。特に、不動産賃貸借の場合に問題となります。

破産手続開始前に賃貸借契約が解約されているものの、破産手続開始時において原状回復がなされていない場合、その賃貸人の原状回復請求権は、破産手続の開始によって金銭化され、破産債権となります(破産法103条2項1号イ)。

賃貸人が、自らの支出で、破産手続開始前に原状回復を行っていた場合には、支出した原状回復費用の請求権が破産債権となります。ただし、支出した原状回復費用の金額が妥当な金額であるかどうかは、破産管財人または裁判所によって審査されます。

賃借不動産内に残置物がある場合の収去・撤去

賃貸借の目的物が不動産である場合、その賃借物件内に、破産者の所有物やリース物件などが残置されていることがあります。

破産者の所有物は破産財団に属する財産ですから、破産管財人が管理処分権を有することになります。

破産手続開始前に賃貸借契約が解約されたものの、破産手続開始時においても、まだ賃借物件内に破産者の所有物などが残置されている場合、賃借物件を不法に占有しているということになります。

したがって、賃貸人は、破産管財人に対して残置物を収去・撤去するよう請求でき、他方、残置物の管理処分権を有する破産管財人が、残置物を収去しなければならない義務を負います(民法622条、599条)。

この賃貸人の残置物収去請求権は、破産管財人がした行為によって生じた請求権(破産法148条1項4号)として財団債権となると解されています。

なお、賃借人が残置物の所有権を放棄したため、賃貸人が自ら支出して破産手続開始前に残置物を撤去していた場合、その撤去費用請求権も破産債権となります。

賃貸借目的物の返還・明渡しまでの間の賃料相当額損害金

前記のとおり、破産手続開始前に賃貸借契約が解約されていたとしても、破産手続開始時において、まだ賃貸借の目的物を賃貸人に対する返還・明渡しが完了していない場合もあります。

この場合、賃貸借契約は終了しているので賃料は発生しません。

しかし、目的物の返還・明渡しが完了していませんから、賃貸人から見れば、賃借人がいまだ借りて利用しているのと変わりません。

そのため、賃貸人は、賃借人に対し、賃貸借契約の終了から目的物の返還・明渡しが完了するまでの間の使用収益について、賃料相当額の損害賠償(これを「賃料相当額損害金」と呼ぶことがあります。)を請求できます。

賃料相当損害金は、賃料そのものではありませんが、実質的には賃料と変わりがありません。したがって、破産手続においても、賃料とほとんど同じように扱われます。

具体的には、賃貸借契約の解約から破産手続開始時までの間の賃料相当損害金の請求権は、破産手続開始前の原因に基づく請求権ですから、破産債権となります。

他方、破産手続開始後、目的物の返還・明渡しまでの間における賃料相当損害金は、破産管財人がした行為によって生じた請求権(破産法148条1項4号)として、財団債権となると解されています(前掲の最一小判昭和43年6月13日参照)。

未精算の敷金・保証金

破産手続開始前に賃貸借契約が解約されていたとしても、破産手続開始時において、まだ敷金・保証金が未精算であるという場合もあります。

敷金・保証金の返還請求権は破産財団に属する財産です。したがって、破産管財人が賃貸人に対してその返還を請求し、回収した敷金・保証金を破産財団に組み入れることになります。

ただし、賃貸人は、滞納賃料・賃料相当損害金・原状回復費用・残置物撤去費用などを敷金・保証金から差し引いた上で、残余があればそれを破産管財人に返還することができます。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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