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賃借人が破産すると賃借不動産内に残置された動産はどうなる?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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賃借人である法人・会社について破産手続が開始された場合、賃貸人の残置物収去請求権は財団債権として扱われます(破産法148条1項4号)。そのため、破産管財人は、破産財団から費用を支出して残置物を収去することになります。

ただし、収去・撤去費用を支出できるだけの破産財団が形成されていない場合には、残置物収去をしないまま明渡しを実現できるよう賃貸人と交渉することになるでしょう。

不動産賃借人が不動産内に残置した動産の収去(撤去)

不動産賃貸借契約が終了した場合、賃借人(借主)は、賃貸人(貸主)に対し、賃借不動産を明け渡さなければなりません。

明渡しをするには、賃借不動産内から賃借人の所有動産や賃借人がリースしている動産などを収去・撤去した上で、賃貸人に賃借不動産を引き渡す必要があります。

賃借不動産内に賃借人の所有動産などが残置されている限り、そのことによって、賃借不動産の占有利用を継続していると言えるからです。

残置されている動産をすべて収去(撤去)した上で賃借不動産を引渡してはじめて、その賃借不動産を明け渡したと言えるのです。

不動産に取り付けられていない独立の動産だけでなく、不動産に取り付けられているものの、不動産と一体の物とは言えないような動産も、収去する必要があります(民法622条、599条)。

これを賃貸人の側からみると、賃貸人は、賃借人に対して残置物や附属物を収去・撤去するよう請求できる権利(残置物・附属物の収去請求権)があるということになります。

賃借人について破産手続が開始された時点において、すでに賃貸借契約が終了しているものの賃借不動産内に残置物がある場合や、まだ賃貸借契約が終了していない場合には、賃貸人の残置物収去請求権を破産手続においてどのように扱うべきかが問題となってきます。

賃借人破産における残置物収去請求権の取扱い

賃借人の破産手続開始時において、すでに賃貸借契約が終了しているものの、まだ賃借不動産内に残置された動産があるという場合、賃貸人は、残置物の収去請求権を有する債権者となります。

前記のとおり、賃借不動産内に残置物が残されていると、賃借人が賃借不動産を不法に占有利用しているものとして扱われます。

もっとも、賃借人について破産手続が開始されると、賃借人の有する財産は破産財団に属し、その管理処分権は、破産者である賃借人から剥奪されて破産管財人に専属します(破産法34条1項、78条1項)。

残置物も破産管財人の管理処分下に置かれますから、賃借人の破産手続開始後においては、破産管財人が管理する残置物によって賃借不動産を占有利用していると評価されます。

そのため、賃借人について破産手続が開始した後における賃貸人の残置物収去請求権は「破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権」に該当し、財団債権として扱われます(破産法148条1項4号)。

このように、残置物収去請求権は財団債権であるため、破産管財人は、残置物のうち売却できるものは売却し、そうでないものは、破産財団から費用を支出して収去・撤去を実施しなければいけません。

ただし、現実的には、売却できないものを収去・撤去するための費用を賄えるほどの破産財団を形成できないことがあります。

その場合、破産管財人は、残置物を収去・撤去せず、残置したままで明渡しとして認めてもらうよう、賃貸人と交渉することになります。

もっとも、賃貸人との明渡し交渉が難航することも少なくありません。その場合、申立人に対して残置物撤去費用分の予納金追納が求められることもあり得ます。

借地上の建物の場合

残置物とは言い難いですが、借地上に土地賃借人が所有する建物が建てられており、賃貸借契約が終了する前に、その土地賃借人について破産手続が開始された場合、破産管財人は、借地権付き建物の任意売却を試みることになります。

他方、破産手続開始前に土地賃貸借契約が終了していた場合や、破産手続開始後、建物売却前に賃貸借契約が終了した場合、賃貸人の破産管財人に対する建物収去請求権は、財団債権(または取戻権)として扱われます。

建物を収去するだけの費用がない場合には、建物収去せずに明渡しできるよう、賃貸人と交渉することになります。

賃貸人が残置物を収去した場合の収去費用請求権

賃借不動産内に残置物がある場合でも、賃貸人は、勝手に残置物を処分することができません。残置物はあくまで賃借人または第三者の所有物だからです。

もっとも、残置物の所有者が所有権を放棄し、賃貸人による処分を認めた場合には、賃貸人が残置物を処分することが可能となります。

賃貸人が自ら残置物を収去した場合、賃貸人は賃借人に対して、収去にかかった費用を請求するのが通常です。

破産手続開始前に賃貸人が残置物収去をした場合の収去費用請求権は、破産手続開始前の原因に基づく債権であるので、破産債権として扱われます(破産法2条5号)。

他方、破産手続開始後に、賃貸人が自ら残置物を処分することを破産管財人が認めた場合には、破産管財人と賃貸人との間の合意内容にもよりますが、残置物収去費用請求権は財団債権として扱われるのが通常でしょう。

ただし、破産管財人と賃貸人との間で、撤去業者などへの支払いはとりあえず賃貸人に支出してもらい、後にその支出分を破産財団から支払うという内容の合意を取り交わすのが一般的です。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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