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賃貸人破産で破産管財人が賃貸借契約を解除した場合はどのように清算処理されるのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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賃貸人(貸主)について破産手続が開始された場合、賃借人が賃借権について登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えていない場合であれば、破産管財人は、破産法53条1項に基づき、賃貸借契約を解除できます。

また、賃借人に債務不履行や無断転貸などがあった場合には、破産管財人は、民法541条や612条2項などに基づいて賃貸借契約を解除することも可能です。破産管財人と賃借人との間で合意により契約を解除することもできます。

賃貸借契約が解除された場合、賃貸借の目的物が破産者の所有物であれば、破産管財人はその目的物を換価処分し破産財団に組み入れます。

未払いの賃料があった場合、破産管財人が賃借人に対して賃料の支払いを請求し、回収した賃料を破産財団に組み入れます。他方、賃借人が取得する敷金返還請求権は破産債権として扱われます(破産法2条5項)。

賃貸人が破産した場合の賃貸借契約の解除

破産法 第53条

  • 第1項 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
  • 第2項 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
  • 第3項 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第631条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。

破産法 第56条

  • 第1項 第53条第1項及び第2項の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について破産者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には、適用しない。
  • 第2項 前項に規定する場合には、相手方の有する請求権は、財団債権とする。

賃貸人(貸主)について破産手続が開始された場合でも、破産者が締結している賃貸借契約は、当然には終了しません。

したがって、破産管財人は、その賃貸借契約に基づく法律関係を清算する必要があります。

賃貸人について破産手続が開始された場合、賃貸借契約は双方未履行双務契約として扱われます。

そのため、破産管財人は、賃貸借契約を解除するか、または、破産者の債務を履行して賃借人に債務の履行(賃料の支払い)を請求するかを選択できるのが原則です(破産法53条1項)。

もっとも、賃貸人の破産という賃借人自身と関係のない事情によって目的物の使用収益権を失うことになるとすると、賃借人に不測の損害を被らせます。不動産の賃貸借であれば、特に大きな不利益が生じるおそれがあります。

そこで、賃貸人について破産手続が開始された場合であっても、賃借人が賃借権について登記・登録・その他第三者に対抗できる要件を備えているときには、破産管財人は、破産法53条1項に基づいて賃貸借契約を解除できないとされています(破産法56条1項)。

したがって、賃貸人の破産においては、他の双方未履行双務契約よりも、破産管財人が契約を解除できる場合が限定されることになります。

第三者対抗要件の具備による破産法53条1項の解除権の制限

上記のとおり、、賃借人が賃借権について登記・登録・その他第三者に対抗できる要件を備えている場合には、破産法53条1項に基づく破産管財人の解除権が制限されます(破産法56条1項)。

ここでいう第三者に対抗できる要件とは、物権変動等における対抗要件としての意味の第三者対抗要件ではなく、権利保護要件としての意味の第三者対抗要件であると解されています。

賃借権の第三者対抗要件としては、例えば、以下のものがあります。

賃借権の第三者対抗要件の具体例
  • 不動産賃借権の登記(民法605条)
  • 借地権の場合は、その土地上にある建物の所有権設定登記(借地借家法10条)
  • 建物借家権の場合は、その建物の引渡し(借地借家法31条)

賃借人がこれら賃借権の第三者対抗要件を具備している場合、破産管財人は破産法53条1項に基づく賃貸借契約の解除ができません。

賃貸人破産において賃貸借契約が解除される場合

上記のとおり、賃貸人破産においては、賃借人が賃借権について登記・登録・その他第三者に対抗できる要件を備えている場合、破産法53条1項に基づく破産管財人の契約解除権が制限されます。

逆に言うと、賃借人が第三者対抗要件を備えていない場合には、破産法53条1項に基づく解除が可能です。

また、破産法53条1項に基づく解除が制限される場合でも、賃借人に債務不履行や無断転貸があった場合には、破産法53条1項ではなく、民法541条、542条、612条2項に基づいて賃貸借契約を解除することは可能です。

もちろん、破産管財人と賃借人との間の話し合いで合意解除することもできます。実務では、合意解除が多いでしょう。

さらに、第三者対抗要件を具備しているか否かにかかわらず、賃貸借契約の期間が満了すれば、やはり賃貸借契約は終了します。

なお、破産管財人が目的物を使用収益させないことなどを理由として、賃借人が賃貸借契約を解約することももちろん可能です。

賃貸目的物の換価処分

賃貸借の目的物が破産者の所有物であった場合、破産管財人はその目的物を換価処分して破産財団に組み入れる必要があります。

賃貸人破産において、破産管財人によって賃貸借契約が解除された場合、破産管財人は、目的物を賃借負担のない物として第三者に売却して換価処分します。

賃料・家賃の清算

破産管財人によって賃貸借契約が解除されれば、それ以降は家賃などの賃料は発生しません。もっとも、賃貸借契約解除までの間の賃料は発生します。この賃料の請求権も財産ですから破産財団に属する財産です。

したがって、支払われていない賃料があれば、破産管財人が賃借人に対して未払いの賃料を請求し、回収した賃料を破産財団に組み入れることになります。

この場合、賃借人は、賃料の前払いをしたことを理由として、破産管財人からの賃料請求を拒むことができます。

また、賃貸借契約が解除された後も賃貸借目的物が返還・明け渡されていない場合には、賃料そのものは発生していないものの、その賃貸借契約の解除から目的物の返還・明渡しまでの間、賃料相当額の損害金が発生していることになります。

この賃料相当損害金の請求権も破産財団に属する財産ですので、やはり、破産管財人が賃借人に対して請求し、回収した賃料相当損害金を破産財団に組み入れることになります。

敷金・保証金の清算

賃貸借の目的物が不動産である場合、賃貸借契約締結に際して、賃借人から賃貸人に対し、敷金・保証金が差し入れられているのが通常です。

この敷金・保証金は、賃貸借契約が終了し、目的物である不動産が明け渡された時に、未払いの賃料や原状回復費用などを差し引いた上で、賃貸人から賃借人に返還されるべきものです(ただし、保証金については、敷金とは異なる性質のものとして取り扱われることもあります。)。

賃貸人破産においても、破産管財人が賃貸借契約を解約した場合、賃借人は敷金の返還を請求する権利を取得することになります。

この賃借人の敷金返還請求権は、破産手続開始前の敷金契約に基づく請求権であるため、破産債権となります(破産法2条5項)。

なお、賃借人は、敷金返還請求権と支払うべき賃料とを相殺することはできません。

ただし、賃借人は、破産管財人に対して賃料を弁済する場合、敷金返還請求権の限度で弁済額の寄託を請求できるとされています(破産法70条後段)。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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