この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

破産手続が開始された場合、破産管財人は、破産者の契約関係を清算しなければなりません。
具体的には、契約に基づく債務を履行または債権を行使することによって契約の目的を達成して終了させるか、あるいは、契約の解除等によって契約関係を解消して終了させるという処理をすることになります。
ただし、それぞれの契約類型や、個別の契約内容、債権債務の履行状況などによっても、処理の仕方が異なります。
破産手続における契約関係の処理
破産手続が開始されたとしても、破産者が締結していた契約関係は当然には終了しないのが原則です(例外的に、破産手続の開始により当然に終了する契約もあります。)。
そのため、破産管財人は、破産管財業務として、破産手続開始後も存続している契約関係を清算してなければいけません。
特に、法人破産の場合、破産者である法人・会社の法人格は、清算の目的の範囲内でのみ存続することになり、最終的には消滅します。そのため、法人・会社が締結していた各種の契約関係は、破産手続においてすべて清算される必要があります。
具体的には、契約に基づく債務を履行または債権を行使することによって契約の目的を達成して終了させるか、あるいは、契約の解除等によって契約関係を解消して終了させるという処理をすることになります。
とはいえ、すべての契約が一律に同じように処理されるわけではありません。それぞれの契約類型や、個別の契約内容、債権債務の履行状況などによっても、処理の仕方が異なります。
以下では、破産手続でよく問題となる主要な契約について、それぞれの契約類型ごとの契約関係の処理についてご説明いたします。
継続的給付を目的とする双務契約の処理
ガス・電気・水道の供給契約など継続的給付を目的とする双務契約は、当事者の一方について破産手続が開始すると、当事者双方の将来の債務が未履行となります。
したがって、継続的給付を目的とする双務契約については、双方未履行双務契約として破産法53条1項の適用があります。
もっとも、破産管財人の管財業務を遂行するために、電気などの継続的給付を目的とする双務契約を破産手続開始後も維持しなければならないがことあります。
そこで、給付受領者の破産において破産管財人が履行の請求を選択した場合、相手方(継続的給付義務者)は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由として破産手続開始後の義務の履行を拒絶できないとされています(破産法55条1項)。
ただし、継続的な契約であっても、労働契約には破産法55条1項および2項の規定の適用はありません(同条3項)。また、賃貸借契約にも破産法55条1項および2項の適用はないと解されています。
また、個人(自然人)の破産の場合、住居の水道光熱費や通信費などライフラインに関わる継続的給付を目的とする双務契約は清算されず、存続されるのが通常です。これらが清算されると、個人破産者が生活できなくなってしまうからです
賃貸借契約の処理
賃貸借契約は継続的な双務契約です。当事者の一方について破産手続が開始すると、当事者双方の将来の債務が未履行という状態になるので、原則として破産法53条1項の適用があります。
ただし、賃貸人が破産したのか、賃借人が破産したのかによって、具体的な清算処理は異なってきます。
賃貸人が破産した場合
賃貸人(貸主)が破産した場合、賃借人(借主)が賃借権について第三者対抗要件を備えているときは、破産管財人は賃貸借契約を解除できないとされています(破産法56条1項)。
この場合、賃借人の破産者に対する債権は、財団債権として扱われます(破産法56条2項)。
他方、相手方賃借人が賃借権につき対抗要件を備えていない場合には、破産管財人は、双方未履行双務契約として賃貸借契約の解除を選択することもできます。
双方未履行双務契約として契約を解除する場合は、破産管財人が、未払いの賃料を回収して破産財団に組み入れるとともに、その賃貸している不動産などの物件を任意売却するのが通常です。
ただし、賃貸借契約の解除によって立退料や明渡手続等の問題が生じ、破産財団に損失が生じたり、破産手続がむやみに長期化してしまうおそれがある場合には、解除ではなく履行を選択し、賃料回収および収益物件としての任意売却で処理を進めていくこともあります。
賃借人が破産した場合
賃借人(借主)が破産した場合、破産管財人は、双方未履行双務契約として契約の解除または債務の履行を選択できます。債務の履行とは、要するに、賃料を支払うということです。
ただし、債務の履行を選択するのは、その賃借権に価値があるため換価可能であるという場合です。通常は、賃料の発生を抑えるために解除を選択して、早期に賃借物件を賃貸人に明け渡すことになるでしょう。
法人破産や個人事業者破産の実務では、破産手続開始の申立て前に事業所などの賃借物件の明渡しまで行っておくことが少なくありません。
未払いの賃料債権は、破産手続開始前のものであれば破産債権となります。他方、破産手続開始後に発生した賃料債権は財団債権となります。敷金返還請求権は、破産財団に属する財産として扱われます。
なお、個人破産の場合、破産者の生活を維持するため、住居の賃貸借契約は解約されず、また、敷金返還請求権も自由財産として扱われるのが通常です。
委任契約の処理
無償委任契約は片務契約、有償委任契約は双務契約です。いずれの場合であっても、委任者または受任者のどちらか一方が破産手続を開始すれば、契約解除を待たずに当然に終了します。
受任者が破産した場合、委任契約は終了して委任事務処理も終了することになります。
委任者が破産した場合、受任者の委任事務処理は終了し、破産手続開始までに発生していた報酬請求権は破産債権となります。
ただし、受任者が、委任者の破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らずに委任事務処理をした場合には、破産手続開始後の委任事務処理に基づく報酬の請求権も破産債権となります(破産法57条)。
なお、委任契約に、当事者について破産手続が開始されても委任契約は終了しない旨の特約がある場合、例外的に、当事者の破産手続開始によっても委任契約は終了しないことがあります。
ただし、受任者について破産手続が開始しても契約は終了しない旨の特約は有効ですが、委任者について破産手続が開始しても契約は終了しない旨の特約は効力を有しないと解されています。
受任者について破産手続が開始しても契約は終了しない旨の特約がある場合に受任者が破産したときは、無償委任契約であれば通常の片務契約として、有償委任契約であれば双方未履行双務契約として処理されることになります。
売買契約の処理
売買契約は双務契約です。したがって、破産法53条1項の適用が重要な問題となります。
もっとも、売主の目的物引渡義務と買主の代金支払義務の履行状況によって、破産法53条1項の適用の有無が異なります。
売主が破産した場合
売主が破産した場合、売主が目的物引渡義務を履行しておらず、買主も代金支払義務を履行していない場合には双方未履行債務となりますから、破産法53条1項の適用があります。
したがって、この場合には、破産管財人が、契約を解除するか、履行を選択することになります。
履行を選択した場合、破産管財人は、契約内容に従って、買主に目的物を引渡すとともに、代金を回収して破産財団に組み入れることになります。
売主が目的物引渡義務を履行していないものの、買主がすでに代金を支払っている場合には、破産法53条1項の適用はありません。
この場合、買主が対抗要件を具備しているときは、破産管財人は買主に対して目的物を引渡すことになります。
他方、対抗要件を欠くときは、破産管財人は買主に目的物を引き渡す必要はなく、当該目的物は破産財団に属する財産として換価されます。買主の債権は破産債権となります。
売主が目的物引渡義務を履行しているものの、買主が代金を支払っていない場合にも、破産法53条1項の適用はありません。
この場合、破産管財人は、買主から代金を回収して破産財団に組み入れます。
買主が破産した場合
買主が破産した場合、売主が目的物引渡義務を履行しておらず、買主も代金支払義務を履行していない場合には、双方未履行債務となりますから、破産法53条1項の適用があります。
したがって、この場合には、破産管財人が、契約を解除するか、履行を選択することになります。
履行を選択した場合、破産管財人は、契約内容に従って、買主に代金を支払うとともに、売買目的物の引渡しを受けて破産財団に組み入れることになります。
売主が目的物引渡義務を履行していないものの、買主がすでに代金を支払っている場合には、破産法53条1項の適用はありません。
この場合、破産管財人は買主から目的物の引渡しを受けて破産財団に組みれることになります。
売主が目的物引渡義務を履行しているものの、買主が代金を支払っていない場合にも、破産法53条1項の適用はありません。
この場合、売主が有する代金債権は破産債権となります。ただし、動産売買の場合、売主は売買代金先取特権を有していますので、別除権を行使して目的動産を競売することが可能です。
雇用契約・労働契約の処理
従業員・労働者を雇用している法人や個人事業者が破産した場合には、雇用契約(労働契約)の処理が問題になります。
従業員がいる場合、破産手続の開始前に解雇するのが通常です。従業員の解雇がなされないまま破産手続が開始された場合には、破産管財人が、従業員を解雇します。
もっとも、破産管財業務のために従業員の協力が必要となる場合には、破産管財人において、従業員をすぐには解雇せず、清算業務の終了まで雇用契約を維持することもあります。
未払いの賃金や退職金がある場合、それらの請求権は、破産手続開始後、一部は財団債権となり、それ以外は優先的破産債権として扱われます。
解雇予告手当が財団債権に該当するかについては争いがあります。一般的には優先的破産債権であると解されていますが、裁判所の運用によっては財団債権として取り扱われることもあります。
なお、個人の労働者が破産した場合、雇用契約・労働契約は解除されず、給料や退職金請求権の全部または一部は自由財産として扱われるのが通常です。これらが解除・回収されると、破産者が生活できなくなってしまうからです。
請負契約の処理
請負契約も破産手続においては大きな問題となることがあります。特に、仕掛中の請負工事をどのように処理すべきかについては、さまざまな問題点が生じます。
請負人が破産した場合
請負人が破産した場合、当該請負契約の目的である仕事が破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため、破産管財人において破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り、破産法53条1項が適用されます。
破産法53条1項の適用がある場合、破産管財人は、請負契約を解除するか、または、請負人の仕事を完成させて相手方である注文者に請負報酬の支払いを請求することになります。
破産法53条1項を適用できない場合または破産管財人が履行請求を選択した場合には、破産管財人は、元従業員を履行補助者にするなどして、請負仕事を完成させる必要があります。
なお、相手方である注文者は、請負人が被る損害の賠償をすれば、仕事が完成するまでの間、いつでも契約を解除することができます。
もっとも、注文者が損害賠償を支払ってまで、あえて契約を解除するという例はあまりないでしょう。
注文者である法人・会社が破産した場合
注文者が破産した場合、破産管財人または相手方である請負人は、民法642条1項に基づいて契約を解除することができます。
契約が解除された場合、解除までの間に相手方である請負人が進めていた仕事の結果は破産財団に組み入れられ、請負人はその分の出来高報酬を破産債権者として求めることができます。
なお、破産管財人が契約を解除した場合に限り、相手方である請負人は、破産管財人の契約解除によって生じた損害の賠償を破産債権者として求めることができます。
破産管財人も請負人も契約を解除しなかった場合には、破産管財人は請負人に対して仕事の完成を求めることになります。
請負人によって仕事が完成された場合、その仕事の結果や完成物は破産財団に組み入れられ、破産管財人は、その請負人に対して請負報酬を支払うことになります。
リース契約の処理
リース契約とひと口に言っても、その契約の内容にはさまざまなものがあります。そのため、リース契約をどのように扱うのかについては、それぞれの契約の実体に即して事案ごとに判断する必要があります。
ユーザー(レッシー)である法人・会社が破産した場合
ユーザー(レッシー)が破産した場合、破産手続開始時において、リース物件の引渡しが未了であったときは、双方未履行双務契約として処理され、破産管財人が契約解除または履行請求を選択します。
契約解除された場合、リース業者は破産管財人に対してリース物件の引渡しを求めることができ、破産管財人はこれに応じなければなりません。
他方、破産手続開始時においてリース物件がすでに引き渡されていた場合は、その契約の内容によって取扱いが異なることがあります。
フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約であった場合は、破産法53条1項の適用は無いと解されています。
フルペイアウト方式でないファイナンス・リースやオペレーティング・リースの場合には、それぞれの契約内容に応じて、破産法53条1項の適用があるかないかを判断する必要があります。
破産法53条1項の適用がない場合、破産管財人はリース契約を解除できません。
もっとも、リース物件の利用の必要が無い場合、リース料の支払いをしないのが通常ですから、結局は、リース業者が履行遅滞を理由として契約を解除することになるでしょう。
レッサー(リース業者)が破産した場合
リース業者(レッサー)が破産した場合、破産手続開始時において、リース物件の引渡しが未了であったときは、双方未履行双務契約として処理され、破産法53条1項により、破産管財人が契約解除または履行請求を選択します。
履行請求が選択された場合、破産管財人は、ユーザーにリース物件を引渡す代わりにリース料の支払いを請求することになります。ただし、よほど特別な事情が無い限り、契約解除とされるのが通常でしょう。
破産手続開始時において、リース物件の引渡しが完了していた場合、契約がフルペイアウト方式のファイナンス・リースであったときは、破産法53条1項の適用が無いので、破産管財人は契約を解除できません。
したがって、破産管財人は、ユーザーからリース料を回収し、破産財団に組み入れます。
ただし、清算をするため、リース物件の所有権やリース料請求権を第三者に売却することになるでしょう。
フルペイアウト方式でないファイナンス・リースやオペレーティング・リースの場合は、それぞれの契約内容に応じて、双方未履行双務契約として取扱えるかどうかを検討することになります。
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。