この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

当事者の一方について破産手続が開始された場合でも、契約関係は当然には終了しないのが原則です。ただし、例外的に、委任契約(民法653条2号)や交互計算契約(破産法59条1項前段)などは、当事者の一方について破産手続が開始されると、当然に終了するとされています。
破産手続が開始した場合の契約関係
われわれは、社会生活や事業活動においてさまざまな契約を結んでいます。これらの契約関係は、契約の当事者の一方について破産手続が開始されたからと言って、当然には終了しないのが原則です。
したがって、破産手続開始後、破産管財人は、破産管財業務として、これら破産手続開始によっても終了しない契約関係の処理をしなければなりません。
具体的には、破産管財人または契約の相手方が契約を解除したり、あるいは、契約の目的を達成することによって契約を終了させたりするなどして、契約関係を清算していくことになります。
なお、法人破産の場合はすべての契約が清算されますが、個人(自然人)破産の場合は、住居の賃貸借契約、水道光熱費・通信費などライフラインの契約は清算されません。これらがなくなると、破産者が生活できなくなってしまうからです。
他方、当事者の一方の破産手続開始によって、当然に終了する契約もあります。当事者の一方の破産手続の開始によって当然に終了する契約としては、委任契約や交互計算などがあります。
これらの契約は破産手続の開始によって契約が終了するので、破産手続において契約自体を清算する必要はありませんが、契約に基づいて発生する債権・債務などについての処理は必要となります。
委任契約
民法 第653条
- 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
- 第1号 委任者又は受任者の死亡
- 第2号 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
- 第3号 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
破産法 第57条
- 委任者について破産手続が開始された場合において、受任者は、民法第655条の規定による破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らないで委任事務を処理したときは、これによって生じた債権について、破産債権者としてその権利を行使することができる。
委任契約とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生じる契約のことをいいます(民法643条)。
この委任契約は、当事者の一方が破産手続開始決定を受けることによって、当然に終了します(民法653条2号)。破産手続開始決定を受けたのが委任者であっても受任者であっても、委任契約は終了するということです。
ただし、受任者が破産しても委任契約は存続する旨の特約は有効であると解されています。これに対し、委任者が破産しても委任契約は存続する旨の特約は、効力を認められません。
なお、受任者が、委任者について破産手続が開始したことの通知を受けず、かつ、その破産手続開始の事実を知らないで委任事務を処理した場合、これによって生じた報酬等の債権は、破産手続開始決定後に生じた債権であるものの、破産債権となります(破産法57条)。
交互計算
破産法 第59条
- 第1項 交互計算は、当事者の一方について破産手続が開始されたときは、終了する。この場合においては、各当事者は、計算を閉鎖して、残額の支払を請求することができる。
- 第2項 前項の規定による請求権は、破産者が有するときは破産財団に属し、相手方が有するときは破産債権とする。
交互計算とは、商人間または商人と商人でない者との間で平常取引をする場合において、一定の期間内の取引から生じる債権および債務の総額について相殺をし、その残額の支払をすることを約する契約のことをいいます(商法529条)。
この交互計算も、当事者の一方が破産手続開始決定を受けることによって、当然に終了します(破産法59条1項前段)。
当事者の一方の破産手続開始によって交互計算契約が終了した場合、契約に基づく計算は閉鎖され、当事者のいずれかが相手方に対して残額の支払いを求める請求権を取得することになります(破産法59条1項後段)。
この残額の請求権を取得したのが破産者である場合、その請求権は、破産財団に属する財産として扱われます(破産法59条2項前段)。
したがって、破産手続開始後、破産管財人が、その相手方に対して残額の支払いを請求して回収し、回収した金銭は破産財団に組み入れられます。
他方、残額の請求権を取得したのが破産者の相手方である場合には、その相手方の有する債権は破産債権として扱われることになります(破産法59条2項後段)
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。